とある誘い
魔都東京だとか…使い魔とか…なんかサバイネティックでスタイリッシュで魔法が云々。そんな作品だと思ったかい? 電脳世界の旅人よ!
最初はそうではないが後々にそうなるかもしれません。銃器もでてくるぞ。無双要素とかは在りませんが、屁理屈並べて自分を肯定し、滅茶苦茶やる主人公が好きな方は是非。
注意としては、タグに付けるほどではないにしろ百合、薔薇的な表現があったりするので…よろしくな!
頼りないほど小さく見える月が、頼りない光の破片として散って見える星々が窺える夜空へと輝く。
広大な庭を持つ家が立ち並ぶ住宅地。敷かれたアスファルトの道路と草木の生える地面からは温い熱が、後者からは草の青臭さが、落ちた一枚の葉と共に風に乗る。
吹かれ漂う葉の向かう先には…広大な庭を持つ、囲い付きの豪邸。
ガラスと金属を多用したモダンなデザインの2階建てのそれの中。2階にある1室に風に乗った葉は舞い上がる。室内とパイン材の椅子とテーブル、パラソルの置かれた広いバルコニーを隔てるガラス戸へと。
カーテンの掛かるガラス戸の向こう側からは明かりが暗い夜の世界に漏れていて、女性の者であろうノリノリのハミングと厚紙を乱暴に引き裂くような音。
微かに光の漏れる先には…絨毯の敷かれた白いフローリングの上に、力ずくで引き裂かれのであろう、無残な姿の段ボール片が落ちていく様が微かに窺えた。
段ボール片の発生源の中心にて、一際背の高い女が半分ほど引き千切られた段ボール箱の中から、1つのヘッドギアを取り出し、今…両手に掲げる。
新品のオモチャでも見つめる少年のような雰囲気…顔のそれに向けられる視線は3つ。どれも冷ややかな物で…肯定とは程遠いもの。しかし…その女に気にした様子は微塵もない。
身長190センチほどあろう長身。黒い男用の半そでのミリタリーシャツ、灰色のインナーにネイビーのカーゴパンツ。露出する腕は雪のように真っ白でアスリートのように引き締まり、男に引けを取らないほどの体格。ところどころ跳ねる癖毛の白銀の髪を肩の上で斜めに切り揃え、一部を腰までまっすぐ伸ばし、髪で覆われていない左目の、綺麗な瑠璃色の瞳に両手に掲げたヘッドギアをただ映している。
「ボス、何とか言ってやってくださいよ」
身長160センチほどでその身に深緑色のブレザーとワイシャツ、白と黒のチェックのスカートをはく、学校制服姿の濃紺色のミディアムショートの髪を額の前で8対2の割合で分けた、若干目つきの座った生意気な雰囲気のその少女、猫屋敷花子は、その碧い瞳で己の隣に立つ、肘に手をやり腹部の前で腕を組む、細身でしなやかな身体つきの女のほうへ助けを求めるように視線を向けた。
目つきを据わらせた諦念交じりの表情で、遜った言い方をし、この上なく不満げな抑揚の声と共に。
「オルガ、部屋を散らかされる花子の身にもなってみろ」
身長170センチ半ばほどで黒色基調のコーディネーションのフォーマルなジャケット、シャツ、ズボンに身を包み、艶やかな一糸の乱れもない黒髪を右側耳より前は胸下まで、それ以外は肩上で切り揃え、前髪を眉の前で額右側から左耳の上まで切り揃えた、左耳にシルバーのピアスを輝かせる女。ベウセット。
花子の見る先にいる彼女は大柄な女、オルガに命令。けれどヘッドギアを被ってはしゃぐ彼女は作業に取り掛かる素振りを見せることはなく、注意を視線を向けさせる程度に終わった。
「わかってるよ、プリケツ君。ご主人も心配性だなァ! オルガさんが片付けなかった時があったかい?」
2人に向けてオルガから返ってくる言葉は…反省とは無縁であろうフランクな物。
その上からにも思える諭すような、ビシッと親指を立てながらの返答は…2人の心を逆撫でした後に、諦念のため息を1つ齎した。
ベウセットは片脚に体重を掛けるような立ち方に。煙たげで困った物を見る目で…オルガを見据える。隣にいる花子と共に。同じような表情で。
「オルガさん、ベウセットさんと花子ちゃんが困ってますよ」
そして今までその様子をずっと静観していた肩に付く長さの、やや巻き毛気味な淡い赤髪、鞘にトンボの柄が描かれた脇差と真打を腰にさす黒と赤の袴姿の少女が静かに声を上げる。
見かけよりもずっと大人びた雰囲気で…その深紅の瞳にヘッドギアを被ったままのオルガの姿を映して。
するとそれを合図に散らばっていた段ボールの破片たちが極彩色の炎に包まれ、ほかのものに一切影響与えることもなく、跡形もなく焼き尽くされて消滅する。
音もなく、匂いもなく…忽然と。
「小春ちゃん。これで異議は――」
「コラー! 魔法はこっちじゃ禁止だって自分で言ってたじゃないですかー!」
オルガは何か言い掛けるが、その声は言い切られる前にその少女、落霜紅小春の声によってかき消された。
だが、オルガに反省の色はなく、口元から鋭く長い牙を覗かせる小春へと向き直る。さも自分が道徳的に優位に立っているかのような素振りで。
「落ち着きたまえ。この魔法の使用によって不幸になった者はいない。周りを見てごらん。オルガさんと愉快な仲間たちしかいないではないか」
「アウアウ、ノー、ダメです。認めません。一度決めたルールに例外を作り、緩めればそのままずるずると緩和に向かっていく物なんです」
諭すように言うオルガに対し、小春は毅然に対応。上っ面な諭しは真の諭しによって罅割れ、燥ぎ舞い上がっていたオルガをふと我に返らせた。
オルガはヘッドギアを被ったまま、なんだか決まりが悪そうに首を左右に軽く動かし、部屋の何もない部分に適当に視線をやった後で…小春へと視線を戻した。
「…ごめんよ。小春ちゃん…舞い上がっていた…オルガさんがどうかしてたよ…!」
「わかればよろしい」
オルガと小春が話している最中、ベウセットと花子は勉強机の上にある、オルガがヘッドギアを取り出したのと同じような段ボールを開き、中に入っていたヘッドギアを手に取った。
黒い塗装のなされたそれは…花子の目にはゲームか何かのデバイスに思えたが、どこか違和感を感じさせた。
…中身が詰まり過ぎている。なにか機器が入ってる様な感じのしない重みに。
「ナウいギア?」
ヘッドギアを包みの中に一度置き、段ボールの中にヘッドギアと共に封入されていた説明書を片手に手に取り、その文面に視線を落としてベウセットは呟いた。
説明書には商品名のほかにこれが次世代のゲーム用デバイスであることとその使用方法が記されていたが、ベウセットは心底興味なさそうに説明書を箱の中のヘッドギアの上へと爪弾き、オルガの方へと振り返る。
「遊び相手が欲しいわけか」
改めて4つのナウいギアの存在とその意図についてベウセットは問う。呆れた表情のまま、オルガを見据えて。
彼女は頷く。ナウいギアを頭に被ったまま。そして開く、両腕を。
「そうだとも。ありとあらゆる娯楽を求める。それがオルガさんと仲間たち。さあ行こう…ご主人と新しい冒険へ…!」
オルガはノリノリだった。これから始まるであろうゲームの中の世界。その世界の中を…己をこの現実世界に召喚した花子と遊べることを楽しみにした風に。
しかしながらベウセットは対照的だ。鼻から深く息を吐き出しながら、淡々とした表情のまま、再び腹の前で長く細い腕を組む。
「まぁ、私は構わんが…花子は学生だ。遊びなんぞより学生の本分である勉強を――」
「プリケツくんさぁ、君、このタイミングでそんなつまらない事を言うのかい? ガッカリさせないでくれたまえよ。友達減るぞ」
下がるテンション。眉尻。代わりに上がるのは竦められたオルガの肩。流し目で、やや辛辣な表情で彼女は見遣る。言葉を遮られて若干不機嫌そうになりながらも冷静沈着な表情のベウセットを。
その2人が言葉を交わす最中に、花子は手の中にあるナウいギアを観察する。
強化プラスチックで出来たただのヘッドギア。そう表現するのが正しそうなそれを。
「別に構わないわ。夏休み中だし。詰まらなかったらすぐ辞めるけど」
花子はため息一つつくとナウいギアを被る。
その傍らには小春もナウいギアを装着した姿でおり、準備万端の様子だ。
まだベウセットが準備の最中であるが、大凡準備は整った。そう考えていたオルガだったが、ふと疑問が浮かぶ。
どうやってこのナウいギアに電力を供給するのであろうか。説明書を取るそぶりも見せず、オルガの顔はベウセットの方へと向く。
「充電とかどうなってんですかね? これ」
「米帝の凄い技術とかでモデムから電力を引っ張ってくるらしい」
説明書に視線を落としたままオルガの問いに答えたベウセットはナウいギアを装着。室内にある白いソファーのところまで行き、その上に身を預けてナウいギアの額にある、沈みもしなさそうな硬そうな電源ボタンに指先を当てる。
「プリケツ君、ソードオートオンラインってゲームな。魔法無しでチャンバラを楽しむゲームらしい。ナウいギア起動後に選べるらしいからそれ選んで」
「なんだそのふざけた名前は。不特定多数に喧嘩を売っているのか」
「なんの話をしているのかね? これはまさひこって言う人が丹精込めて作ったオリジナルゲームだぞ?」
「…向こうの始まりの村的な場所の中心に集合しよう」
オルガと言葉を交わすのに疲れたのだろう。ベウセットは一方的に言うと双眸を閉じて身体をソファーに深く沈ませる。
その隣に花子は座り、ベウセットがしたように自分のナウいギアの電源ボタンに触れ、瞳を閉じた。
「なぁ、小春ちゃん。どんなキャラ作る? オルガさん神経質そうなおっさん作りたい」
「それは見てからのお楽しみ。さ、私たちも行きましょう」
「そうね。んじゃ向こうで」
「えぇ」
オルガは天蓋つきの花子のベッドの上に、小春は花子の勉強机の前にある椅子に身を預けると額にあるナウいギアの電源ボタンにそっと触れた。
静かになった部屋の中。その中の電気の明かりがカーテンの隙間から微かに漏れ、明るく染まるバルコニーのウッドデッキ。その場所が4度ほどより明るく瞬く。
ただ…それ以外に何か変化があるわけもなく、ただ時間が過ぎ去る。夏にしてはやや強い風の中で。
パクリだって? ノンノン、オマージュだと言って欲しい。あの設定は自由度が高すぎて真似したくならない方が無理ってもんでしょう。
ちなみに…他の作品からのインスピレーションはオマージュと言う形で顔を覗かせる。そういう作品であると解って欲しい…!
※2021年6月20日から一章をリニューアルしております。本日中に更新を終える予定なので…今しばらくのご辛抱を。