文明と言う名の麻薬の中で
さぁ、四か月ぶり…五か月ぶりぐらいの最新話さ。
待っていたオマエタチ…すまんな。今回も例に漏れず話が長くなりすぎたので分割だ。ほぼほぼモグモグカンパニーアイランドの文明レベル説明さ。
星降る夜空と青く大きな月。
それらをバックグラウンドに聳えるは天を高く突く無数の摩天楼。
ガラス張りのそれらには空からの自然由来の明かりの他、街の中に満ち溢れる享楽的な光も浴びせられ、自身が発する光と共に反射。明るく街を彩る。
街には無数の人々が行き交い、車やバイクが走り…空には飛行船、複葉機。ペガサスや翼竜などの姿が見える、大変な賑わいを見せるそこは、現在のプレイヤーがもっとも集まり金を落とすであろう場所であり、社交場。モグモグカンパニーアイランドだ。
その煌びやかな街の光景の一部となり、極まる賑わいの中に更に賑わいを足すのは…仕事の成功。戦いでの結果を勝利で飾ったゴルドニアの音楽隊とその仲間たち。
今、それらはカラオケボックスやバー、喫茶店などの複数のテナントが入った雑居ビルから煌びやかな街の中へと、今この集まりを仕切っているのであろう白いノースリーブのシャツと黒いデニムのショートパンツ姿のマロンを先頭に現れる。
「だからよぉ、遊園地とか動物園、博物館の飯って言うのはうめーんだよ。声のたけー二足歩行の鼠がウロチョロする夢の国だってそうだろ? むしろ飯目的で行くまであるぞあたしは」
「遊園地と動物園に関しては異議無いですけど、博物館のご飯って大抵味気ない物が多い様な気が…ザ・冷凍食品って感じで」
「言ったな? おっしゃいい機会だ。証明してみようじゃねーか」
「別に私は構いませんけど…」
先頭を行くマロンの言葉に応答しながら続くのは、黒髪ロングの少女。
もう既に打ち解けたようで、言葉を詰まらせることもなく今まで以上に饒舌に…クスクスと笑いながらマロンと会話を楽しんでいた。
その後ろを行くのは…マロンの背を据わった目つきで見、面白くなさそうに唇を歪める花子と、なんだかこれからを楽しみにした風なシルバーカリスだ。
もう荷物は回収した後のようで、前者は骨と黒革とマントの装備を。後者は…黒鉄と青布とスモールマントの装備を着、背中にルツェルンハンマーを背負ってその場にいた。
「あぁ、いやだわ…あの女は本気でモグモグカンパニーアイランド開発資料館でご飯を食べるつもりよ。他に良さそうなお店ならいくらでもあるって言うのに…」
「僕は興味ありますけどね。ミュージアムのレストラン。むしろ見落としていた物を見出させてくれたマロンちゃんに感謝してるぐらいで――」
「がぁちゃんが言う様に冷凍食品みたいなのが出てきたらどうしてくれんのよ。大体リックの奢りなのよ? この千載一遇のチャンスにあいつをレジの前で土下座させようとしないでどうするってのよ」
「花ちゃんはホントレジの前で土下座させたがりますね…何ですか、死ぬんですか。それ見ないと」
他人の金で豪遊したいというよりかは…リックの土下座が見たいのだろう。ピエール吉田にもしようとしていた過激な弄り。嫌がらせを心の底から楽しめるサディスト…歪んだ悦楽者、猫屋敷花子はそれは不機嫌そうにしていた。不服そうに…半目になって。
対するシルバーカリスは最初は楽しそうにしていたが、徐々に顔を引き攣らせていき…やがてそれは苦笑となる。
その二人の後ろには、気の毒な物を見るような顔をするチビとガリ。彼らの視線は横を行く、白い毛皮と黒革で作られたハイドアーマーに身を包む、草臥れ荒んだ笑みをただ浮かべるリックへと向けられていた。
そして――その彼の隣を行く少年…セラアハト。金糸による兎の刺繍の入ったスタイリッシュなやや着崩したスーツ姿のそれは、今回の仕事でリックに土壇場で裏切られたのにも関わらず、彼を蔑ろにするような花子の言葉に対して聞き捨てならなさそうな顔をし、片眉を吊り上げながら前を行く彼女の背をキッと睨み…口を開いた。
「そこまでだ。花子。リックを困らせるなら僕が承知しないぞ」
セラアハトの放った言葉に花子は透かさず反応。顔を横へと向け、片目の碧い瞳にムッとしたセラアハトの顔を映す。
「アンタも一途で健気よね。裏切られたってのに。と言うかなんで居んのよ」
「リックに誘われたから居るんだ。ロッカーの荷物を回収している時、僕とリックとのやり取りが聞こえるところにお前も居たと思ったが」
「あら、そうだったかしら。ごめんなさい、覚えてないわ」
突き放すように言う花子と…彼女に注視することなく前を向いたまま、口角を微かにひくつかせながら、淡々とあろうとしつつ指摘するセラアハト。
後者の言葉が花子に届いた時、マロンを先頭とする一行は雑居ビルの立ち並ぶ一角から、正面の空が広く見えるへ場へと行き着き…マロンはその月辺りで右へと曲がる。
白く背の高いフェンス越しに見えるのは、暗いところから見ているだからだろうか。眩く思えるほどの白いライトで自身を照らす、幾つかの駅のホームと何重かの線路。
モグモグカンパニーアイランドに住む全ての人と、それから見込まれる利用客を考えれば大げさすぎる規模のそれはあり――マロンの先導の下、一行は進む。右手にいろいろな飲食店が並び、左手にある、その向こう側に線路とホームが見えるフェンスに沿う道を。
「…鉄の芋虫に乗るわけか」
レールの上を鉄の車輪で走り、電光掲示板などから発される、享楽的な明かりを窓と銀色のボディーに反射、閃かせて風と共に過行く電車。
塩パグ学園島にあった電車と同型のものであろう、四角く味気のないデザインのセラアハトは眺め、呟く。二人でどうでもいい話し続けるマロンとロングヘアの少女、がぁちゃん。同じように話し始める花子とシルバーカリス。背を向けるそれらを前に――どこか、強張った様な、緊張したような面持ちで。
「鉄の芋虫ねぇ…考えても見なかったけどその表現は適格だわ。うん。鉄の芋虫」
セラアハトと同じようにフェンス越しに見える駅のホームと走り行く電車。何処か懐かしそうに眺めていたリックは呟いた。
その声にセラアハトの顔はフェンスの向こう側からリックの方へと向けられて、その硬かった表情を少しだけ柔らかいものにする。
「リックの居た世界の物なの?」
「毎日のように世話になってたものよりは大分古いタイプっぽいけどな。乗り心地は最悪」
「…あの姿で乗り心地が最悪か…」
「語弊のある言い方だった。なんつーか利用客が多くてあれにぎっちり詰め込まれるのがデフォでさ。そうじゃなかったら乗り心地は良いよ」
進むにつれて、アスファルトで舗装された道はなだらかな下り坂に。丁度窪地になったところ、ロータリーの上にある――三つの商業ビルを繋ぐ広いバルコニー橋に接続する、モグモグカンパニーのニュースなどが流れる巨大なモニターを取り付けた、商業ビルの二階に組み込まれた、コンコースと一体型の橋上駅の入り口が見えてくる。
そこには窪地に生じる坂をスケボーで遊ぶ者や、この近くにあるのであろう店のドーナッツの紙箱を隣に、バルコニー橋の花壇の縁に座ってドーナッツを頬張る者。同じくバルコニー橋の上でボサノバを演奏するバンド。単純に飲み食いできる店を探して歩くものなど――賑やかな様相を呈していた。
そして散見出来るそれらの殆どは――着崩した、黄色い兎の頭の刺繍の入ったスタイリッシュなスーツ。ちょっと変わったデザインのスーツを着た美女美少女。中年以上、極端な幼子も存在しない――不自然に思えるほどに年齢層に偏りのあるそれらが居た。
「…お前まだ女装しといたほうが良かったかもな」
「大丈夫だ。ゴルドニアファミリアとゴルドニア・ラビットヘッドがいがみ合っていたのは大昔。確かに犬猿の仲ではあるが…そう面倒ごとにはならないさ」
昨日今日と散々働いた後での懸念に辟易したような顔をし、リックは言うが、セラアハトは首を横に振り――リックと同じような事を思ったのだろう。半目で振り返る花子と目を合わせる。黙ってろ、そう言いたげに。それはそれは不機嫌そうに半目になって。
「皆、この辺に屯してる不良共に絡まれたらコイツをアレね。ステゴサウルスするの」
「僕をパージするつもりだろうが、そうなってから騒げ」
「いーから離れて歩きなさいよ。仲間だと思われるでしょ」
「いやだ。お前に迷惑が掛かるのなら喜んで地獄の底までついて行くぞ。僕は」
ひねた見方をすれば喧嘩するほどなんとやら。ストレートに見れば水と油。顔を合わせれば何かといがみ合う花子とセラアハト。
一行の殆どが二人に注目するが、この一行を先導するマロンは目を向けることなく坂を下り、窪地のそこ。石畳の敷かれた歩道とアスファルトのロータリー。上にバルコニー橋の見える場へと至り、バルコニー橋の上へと続く、そのサイドに設けられた石の階段を上り始めた。
「いやぁ…良いですね。なんかこう…青春している感じがします。会話に混ざれていなくとも…この賑やかさ――普段味わえない様な会話を目の前にするというのは…」
「言わんとすることはわかる。チビ…違うよな…作り物とは…」
取っ組み合いの喧嘩でもし始めるのでは、と言う不穏な空気。だが、いやな感じもしない雰囲気。いがみ合う花子とセラアハト。宥めにかかるリック、シルバーカリス。チビとガリはその騒がしさと慌ただしさを味わい…後へと続く。階段を一段一段と上がって行き、少ししてバルコニー橋の上へと。背後に居る、青空タクシー乗り場で発狂して以降、構って貰えずただモジモジするゴリの気配を感じながら。
「しかし…ここのお姉さん方って美人ですよね。たしかもともとこの島の原住民で今はモグモグカンパニーの社員さんたちなんでしたっけ?」
「うん。なんか最近タレントとして活動してる子とかも居るらしくて、既存のエンタメ業界の脅威になるとかなんとか――あっ、ほらっ」
構って欲しそうなゴリの圧。雰囲気を背にし、だが触れ辛いそれを置いておきつつ、ガリは会話を続け――一同を先導するマロンが行く先。橋上駅が二階に入る商業ビルに取り付けられたモニターに指を差した。
『今スタジオから紹介に預かったモグモグカンパニー広報部タレント課…リポーターのネルクランタだ。光栄に思うがいい。今日は塩パグ学園島の今を茶の間に伝えてやる。この私がッ! 直々にッ! さあ取材班共、ついてこーい!』
左頬にある控えめな大きさのコブラ、蛇、大蛇の頭を持つ三つ首の蛇のタトゥー。着崩したスーツ。腰のクロスする形で撒かれた穴が縦に二つ開いた白くゴツイベルトには、それぞれバレルの長さの違う三丁のシルバーのリボルバーが収まった黒いホルスターを取り付けられていて、額の端で二分かれする前髪はストレート。ミドルツインテール、後頭部から伸びる毛は微かに跳ね、緩いウェーブの入ったベビーブルーの髪色の、ものすごい上から目線で語る、落ち着きが無く動き回る少女の姿がモニターにあった。
ガリとチビの見る最中、少女ネルクランタは走り出し、彼女の進む先には塩パグ学園島の入り口、検問所前の広場が窺えて、そこにて整列し、万歳三唱を行う矮人族と犬型獣人の姿と…ほんの一瞬、隅に二匹の豚の姿を映した。
「…あのリポーターは確かに顔は可愛い。しかしですよガリさん。忘れてはいけません。顔が良いだけでは生き残れない…それが…アイドルなんです」
「えっ? チビってアイドル好きだったん?」
「追っ掛けはしませんが嗜む程度には。それより…解りますか? 可愛いだけでは所詮はガム。味が無くなるのはほんの一瞬…そうなればポイ。まさに水。一過性…見てくれは勿論、人を引き付ける何かが無くては生き残れない」
「あぁ~…言わんとしてることは解る。動画サイトとかで顔はいいけど飽きられてあっという間に再生数取れなくなる人もいるしね…でもあのリポーターの子は只者じゃなさそう」
まさに無駄話。何の実りもない世間話。チビとガリがその会話を始めたところで一行は橋上駅の入るビルの中へ。
左右にはビル内の商業スペースにアクセスするための自動ドアが取り付けられた、ガラス張りの仕切りがあり、本屋や喫茶店などが。正面の結構広めの空間には、小さな立ち食い蕎麦屋が角に。その隣には大分古そうなタイプの切符の券売機が横並びに幾つか並び、その上には寂しいほど駅の記されていないスカスカの路線図が。
それを視認したマロンは歩くペースを上げ、その未知なる機械の方へと歩み寄る。
「なんだこりゃ。年季の入ったラーメン屋の食券販売機みてぇ。…隣の蕎麦屋のじゃねえよな」
2100年。電車に乗るのであればスマートフォンがあればいい時代。切符の存在など忘却の彼方にある世代として生まれたマロンは、興味津々と言った様子で切符の券売機を眺めていたが、すぐに後ろへと振り返り、今自分の所に来ようとするリックをライトアイボリーの瞳に映した。
「リック、金」
「この言い方よ。カツアゲにしか聞こえねぇ」
マロンに催促されるままリックは懐から己の貯金全てが収まる小切手を取り出すが…動きは停止。迷ったように視線を滑らせる。目の前の券売機に向けて。
「…コイン投入口無くね?」
「そこに紙幣入れられそうなところあんだろうが」
現実と大差のない世界。長くいれば居るほど現実世界の"当然"を当てはめてしまいそうになる環境。その現象はマロンにも言えることだったようで、彼女は言う。紙幣投入口の様な部分を指差して。
「おいおい、冗談キツいぜ。小切手用紙に数字書いただけの物突っ込んで金として認識すると思ってんのかよ」
「むっ…確かにそりゃそーだな…」
だが、リックは幾分か冷静であった。今ある環境。取り巻く状況をきちんと認識できているようで、すぐさま指摘。マロンに言葉を詰まらせた後、納得させ――彼女の人差し指を券売機の隅。呼び出しボタンへと持って行った。
傍では飽きずにセラアハトに絡む花子と応戦するセラアハト。静かなる貶し合いが聞こえる中、券売機と券売機の間。白く厚塗りされた金属の壁の中から微かに物音が聞こえた後、そこが片開きに開いた。
「はい、なんでしょう」
開かれた扉。その中から覗くのは…無難な顔つきのNPCと思しき女。駅員の制服を着るそれへマロンとリックの注意は行き、二人は一度互いの顔を横目で見合わせた後、リックが口を開く。
「ここでどうやって切符を買えばいいのかな~って思いまして…」
リックからの言葉の途中に何を意図しての発言かを理解したNPCは片手を差し伸べた。
その行動の意味するところはなんとなく解っていたが、ほんの少し迷ったように視線を泳がせた後、リックはその手に差し出し、NPCは小切手を取って片開きの扉の奥へと引っ込んだ。
その直後、券売機に変化があった。券売機中腹にある背景が暗い7セグメントディスプレイに浮かぶのは、味気ないデジタル数字。一瞬の内ではなく、一つ一つボタンを操作されているかのようなスピードで一桁一桁表示されていき、リックが持っていた小切手にあった数値が表示されて券売機の大部分の面積を占める、背景が黒の半透明なボタンにはデジタル表記で赤い数値が表示される。大凡2桁で表記されるそれらボタンの数値は、切符の値段であろうことは想像に難くない。
「…もしかしてこれ、全部人力で処理してんのかな」
「じゃね? 小切手換金出来んのNPCだけだし。どうにか表現しようとしたんだろうな。従来の券売システムって奴を」
今目の当たりにできる物からは、モグモグカンパニーが目指した物が確かに読み取れる。
ただ、それが上手く行っていないことは誰の目にも明らかであり、マロンはリックと言葉を交わしつつ、券売機がある並びの上にある路線図を一瞥後、ぼんやりとした赤で15とデジタル数字を浮かべるボタンを人数分連打。その後で釣銭ボタンを押した。
「そういやよぉ、リック。オメー銀行寄らなくて大丈夫か? 換金して自分名義のもんにしといたほうがいんじゃね?」
「大丈夫だろ。なんか不幸があってコイツくれた奴が一夜にして全財産失わない限り。それに一番デカい金額の小切手は保証金みたいなもんで返さなきゃいけねえし…」
「そーかい。んじゃ無くさない様に気を付けろよ。鰓呼吸できねえんならな」
「あー、そういう意味か。…後で花子とシルバーカリスの分渡しとこう」
券売機の下部に取り付けられた銀色の釣銭受取口に暫くして落ちる小切手と切符。リックはその二つを取り、切符代が差し引かれた金額が書かれた小切手を腰の小物入れに。切符の束を手に持ったまま振り返るとマロンへと切符の半分を差し向けた。
彼がどうしようというのか言葉で確認しなくとも解ったマロンは、それを受け取り…揉める花子とセラアハト。それらを核として集まる仲間たちの下へとリックと共に歩み寄る。
大仕事の終わり。勝利を祝しての打ち上げの一幕。
正体の見えない複数の影がちらついていたゲーム。どんどんとキナ臭く、苛烈になるテーブルから降りた者どもは進む。
配られた切符を手に、改札口の向こう側へと…まだ渦中の中心に囚われているであろうセラアハトと共に――その多くが戦いは過去の物であると決めつけて。
◆◇◆◇◆◇
様々な光の満ちる街。
燦然と輝く高い建物の立ち並ぶその場から、まだ開発の不十分な内陸部へと延びる線路の上を電車が進む。
窓の外に広がるのは平坦な草原とその上に生えるヤシの木、バナナの木らしきもの。朽ちかけたレンガ造りの建物と、土に埋まりかけた石畳の道も時折チラつくが…何分白く明るい電車内から見えるのはその程度。明かりの加減で明るい月明かりの世界も暗く見えて、そう遠くまでは見通せない。
そんな光景を電車の出入り口。その脇に立ち、手すりに背を預けて眺めるのはスタイリッシュなスーツ姿の少年、セラアハト。
内と外の世界を隔てる窓ガラスには、なんだか物憂げな彼の顔が映っている。背景にガラガラの電車内の中、腕を伸ばして片脚を組み、座席を大きく占有するマロン。その表情をにやけさせる彼女を中心とし、その周辺に立って悪ノリしたような笑みをその顔に、彼女と会話を楽しむ男性陣を置いて。
「なぁ、NPCに惚れてたってマジ? どんぐらい好きだったんだよ」
「ゴリさんは純情なの。だから優しくされるとすぐに好きになっちゃうの。ワントリガーで好感度100パーセントまで行っちゃうのッ」
電車に乗り込む前までは触れ辛い状態であったがゆえに捨て置かれていたゴリであったが、弄られ役としてマロンに話の輪に混ぜて貰えたようだった。
マロンの問いに、彼はモジモジしながら頬を染め、視線を斜に、サイドに投げながら言葉を紡ぐ。やや早口で。
「NPCに自分の事パパとか呼ばせてましたからね。そんじょそこらのニワカとはわけが違いますよ」
「はははっ、塩パグ学園島ジョークか。気に入ったぜ。…えっ、冗談じゃない?」
「御飯事ガチ勢を集めて、さらに遠心分離して凝縮したのが集まる先が塩パグ学園島。リックちゃん、塩パグ学園島舐めて貰っちゃ困るぜ」
友達になれるときはほんの一瞬。その一瞬は既に経られたのだろう。いつも通りのチビも、笑い飛ばしたのちに空気を察してドン引きするリックも、なんだか得意げに自虐に走るガリも…なんだか打ち解けたように話している。
その集まりから離れて窓の外を眺めるのは――シルバーカリスとがぁちゃんの集まりの中に身を置く花子だ。
「わぁ…すっごい。電車の中からの景色ってこうなってるのね…」
緑色のモコモコの、電車特有の座席シートの上に両膝を乗せて膝立ちし、ガラス窓に両手を貼り付ける花子。瞳を輝かせる彼女の背後には、その後姿を不思議そうに見、小首を傾げるがぁちゃんとシルバーカリスの姿がある。
「花ちゃんは本当にお嬢様学校の人だったんですね」
「どういう意味よ、それ」
何も考えないで発されたのであろうシルバーカリス。
反感を感じジト目で振り返る花子。
前者は己の口から出た言葉が災いの元であった事をその時やっと理解し、自分の身体の前で両手を開いた。――虎の尾を踏んだ様な引き攣った愛想笑いを背けたその顔に。
「いっ…いやぁ、そのっ…」
「その? なによ」
二人の普段の力関係と言うか…付き合い方と言うか。そんな有様が窺える一幕。
それを前にしても尚、その有様が気にならなかったがぁちゃんは何か考えたように上げていた瞳を花子とシルバーカリスの方へ。口元に当てていた手を下ろして口を開いた。
「魔法使えてたし…もしかして海形海山魔術学園の生徒さんなんですか? 花子さんって」
「残念、ネオ中野魔術学校。小笠原列島住みならたぶんゲームになんか見向きもしないわ」
シルバーカリスに絡み出した花子であったが、がぁちゃんの何気ない問いで停止。座席シートの上に座り直すと返答を返しつつ、己の隣で胸を撫で下ろすシルバーカリスの両頬を掴んだ。
「しっかしアンタの口は頭より早く動くわよね~。何時かどこかで重大なやらかしをしないか気が気じゃないのよね~」
「うぅ~、ふみまへんっ、ふみまへんっ」
目をギュッと瞑り、されるがままに頬を横に引っ張られるシルバーカリスとこめかみに青筋を立て、ジト目のまま制裁を続ける花子。
花子の返答に何か思うことがあったのだろう。がぁちゃんがまた何か考えたように視線を上へと向けたその時、電車内にアナウンスが流れる。
『ご乗車ありがとうございます。次は~モグモグカンパニーアイランド開発資料館前~、モグモグカンパニーアイランド開発資料館前~。お出口は左側です』
背景の暗い電光掲示板には、赤い点々とした明かりで示される次の駅の名が流れ――間も無く、電車は止まる。白いライトの明かりで彩られた、夜空の下の駅のホームに。
「おらおら、行くぞ」
先頭を行くのは相変わらずマロン。その後ろをセラアハトを除く男性陣が。その後をがぁちゃんやシルバーカリスが続き――最後に残った花子がアンニュイな顔をしていたセラアハトの手首を乱暴に掴んだ。
「ボーっとしてると本当にステゴサウルスするわよ」
「あぁ…悪い」
電車内に居た疎らな乗客たちが降りて行く中で、花子はセラアハトの手を引いて電車の中から駅のホームへ。
どんどんと先に行く仲間たちの背を視認し、早歩きでそこへと進み出す。
「リックさん、この前勿体ぶって話してくれなかった案って何だったんですか?」
「あー…アレ? いやね、冷静に考えたら結構ヤバい思い付きだったから触れずにそっとしておいてくれたら嬉しかったんだけどなぁ…言わなきゃダメ?」
「もやもやするから話してくださいよ」
「ファミリアでもラビットヘッドでもないNPCから土地買って家建てちまえってだけ。協定の範囲内じゃないゴルドニア島以外にさ」
「うわ~…高確率でPTと真っ向勝負しなくちゃならない案じゃないですか。…よく勿体ぶれましたね」
「うっ、うるへーっ」
追いつくまでの短い間に珍しくリックを揶揄ったように言うシルバーカリスとバツが悪そうにするリックの話し声を聞きながら、集まりへと花子とセラアハトは合流。
そこで花子の手がセラアハトの手首から離れて、先頭を行くマロンが駅のホームの出口であろう、橋上駅へと続く階段を上がっていく。
右手にはいくつかの駅のホームと線路が。左手にはだだっ広く、石畳の敷かれた点々とある街灯と街路樹の伺える空間がフェンス越しに見え、その先には大きな博物館らしき、独特なデザインの建物が見える。
橋上駅へと続く階段を挟む壁に遮られるまでセラアハトはそれを見、味気ない白い壁に阻まれた後に視線を前へと向ける。
――まぁ、確証があるのが俺の中ではそいつだけと言う話だって事を覚えておいてくれ。きっと根は深いぞ。お前たちが思っているほどな。
落ち着いてきたからこそ考える余裕が出来てしまった巡る光景、マリグリンの言葉の意味に、物憂げに。小さなコンコースに響く誘導用電子チャイムと他の者たちの話し声が届く中で。
星は降る。青白くも見える満天の星空に。
やけに明るく大きく見える月を栄えさせるかのように。
その下に、広く大きな敷地を持つ、大きなガラス張りのミュージアムを置いて。
新キャラのネルクランタさんについては、出来たら今日、明日にでもプロフを仕上げたいと思う所存。ゴルドニアラビッドヘッドの所に乗るのでよろしくお願いします。
…しかし、駅、電車、博物館…戦いの場としては面白そうな場所だと思った。ゆくゆくはゴルドニアの音楽隊とか言う狂犬共の暴れる場として登場させたいところですな。
ちなみに…小笠原列島は誤字ではない。2100年の日本に於いて、過去にあった隆起現象によって東京都諸島部だったところが長細い陸地になっている設定なんですね。いいだろう? ロマンがあって。現実の日本以上に広い領土を持っているんだよ。