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なんだか村が騒がしかった。お母さんとお父さんは様子を見に外に出ていった。
「遅いなぁ」
二人が出ていって三十分は経った。なんだか胸騒ぎがして、玄関に近寄る。
「っひぅ!」
バンッと大きな音を立てて扉が開いた。
「あっ……」
そこにはお母さんとお父さんがいた。二人は急いで扉を閉める。
「お母さん……?お父さん……?」
その様子に戸惑い、声をかける。
二人は私に気がついて、慌てて部屋の奥に引っ張っていった。
「お母さんお父さん、どうしたの?」
二人は何も答えなかった。
奥の部屋に来ると、バキッと大きな音が聞こえた。
なんの音だろうと不思議に思っていると。
「クレアを頼む」
お父さんがそう言って部屋から出ていった。
「この中に隠れて」
お母さんは私をクローゼットの中に入れた。
「お母さん……」
不安になってお母さんを見る。お母さんは悲しそうな顔をして、こう言った。
「クレア、何があってもこの扉を開けないでね。何があっても、よ。わかった?」
「………」
私はそっと頷いた。
「……良かった」
お母さんはふっと笑って
「……クレア、あなたは生きて」
「え、」
扉を閉めた。
「……っ!」
どたどたと足音が此方に近づいてくる。
足音はこの部屋に入ってきてお母さんと話し始めた。
「_____、____」
「____、____」
「!____、___!」
「____!」
気になってそっと隙間から外を覗いた。
「………ぁ」
お母さんの身体から血しぶきがあがった。ゆっくりとその身体が倒れていく。
「___」
言葉を失う。
「………」
私はその場を動けなかった。
「はははははは!」
「!」
男の笑い声にびくりと肩を揺らす。笑い声のする方を見た。男が三人いた。
「……残念だったなぁ、恨むなら村長を恨め。金を払わなかったのは彼奴だ」
男はお母さんに向かって喋っている。
「じゃあな、ちゃあんと王に報告しといてやるよ。ここにきたら全員死んでたってなあ!」
男たちは笑いながら部屋から出ていった。
「………」
数分経って、そっと扉を開けた。床はお母さんの血で濡れている。
「っ……」
お母さんに近付く。お母さんは胸から腹にかけて剣で切られていた。もう息はない。
「っお母さん……!」
涙が溢れた。お母さんの隣に膝をついて身体を揺すった。
「目を開けてよ、お母さん!」
お母さんはもう目を開けない。お母さんの優しいあの声は、もう二度と聞けないのだ。
「ぅ、うう……」
お母さんの身体に顔を埋める。お母さんの身体からは血の臭いしか感じない。
「………」
お母さんの身体から顔をあげて、立ち上がる。
「お父さんは……」
お父さんを探す。すぐにお父さんは見つかった。お父さんは血まみれで玄関に倒れていた。
「あ、ああ……」
お父さんも殺された。
「お父さん」
お父さんに近寄って膝をつく。
「お父、さん」
返事はなかった。
「ぁあ、あ……」
ゆる、さない。
ゆるさない。ゆるさないゆるさないゆるさないゆるさないゆるさないゆるさない。
「絶対に、殺してやる……」
少女の瞳にはもう涙はなかった。あったのは、強い憎しみだけだった。