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中二病ドラゴンさんは暗黒破壊神になりたい  作者: 禎祥
第五章 俺様、北方へ行く
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1

 俺達は今、街道を北に向かってトボトボと歩を進めていた。

 あぁ~、やだなぁ。行きたくない……。


 今向かっている北方の国、ノルドは放牧国家。

 セントゥロからすると少し寒冷な土地はそこかしこに草原が広がっていて、カーサという布と数本の柱からなる家を季節ごとに移動させて凄すのだそうで。なんとなく地理で習ったモンゴル民の生活を想像した。


「特産品は燻製肉と乳酒です。我々が旅路で用意するものとは味も香りも別次元の高級品ですよ」


 と笑顔のエミーリオに言われて思わず涎を流したが、いやいや、騙されないよ。

 国家元首が革命によって交代して、あちこちで反乱だのなんだのって混乱の最中にあるって言ったじゃん! アッファーリ並みに女神信仰が強くてモンスター見たら即殲滅するって言ったじゃん! どう考えても面倒なことになる気がするんだよ。

 ……でも、美味しい肉は気になる。



『話を聞いた限り心配なのは、遺体がちゃんと保全されているかだな』

「だなぁ」

「どういうことです? いくら何でも、召喚に失敗したとはいえ勇者様の聖骸です。きちんと葬送しているのでは?」


 俺達の心配を他所に、エミーリオはきょとんと首を傾げる。


「俺達の国じゃ黒髪が普通なんだよ」

『前世の俺様もまた黒髪であったな』

「おまけに、学校の制服も黒が基調だ。こっちの世界と違って、黒が高貴な色とされていた時代があったからか公式の場では黒い服が選ばれる傾向が強くてな」


 黒髪黒づくめの恰好をした人間を、こっちの世界ではどう見る? と最後まで言わずともエミーリオは解ったようだ。


「まさか、召喚失敗というのは嘘で、こちらでも処刑されていたと?!」

「『可能性はある』」


 はぁ。何かまた貴族がらみとかだったら嫌だなぁ。


「ま、まぁ、フリスト司祭の紹介状もありますし、まずは教会を目指しましょう」


 ダラン、とエヴァの首の上で伸びる俺にエミーリオが明るい声で言ってくるがやる気は出ない。

 そんな俺の心情を察したのかエヴァもまたゆっくり進んでくれているので、エミーリオも苦笑いだ。



「あっ、あ~?! やめてよして殺さないで!」

『どうした?』


 突然奇声を上げるちびきのこに驚き飛び上がると、エミーリオも剣の柄に手を添えて辺りを警戒する。


「あっ、いや、こっちじゃなくて。分体4号が人間に捕まっちゃったみたい」

『大丈夫なのか?』


 いくらでも分身できるとはいえ、視覚や情報などは共有しているという。これまで何度も食べられてきたって言ってたし、こいつ実は何度も臨死体験しているんじゃ……?

 もうちょっとだけ優しくしてやろう。



「……うん? リージェ?」

『何だ?』

「お前かよ!」


 どうやら捕獲された方が俺の知り合いと一緒なようだ。

 暫く独り言のようなきのこの言葉を黙って聞いていたところ、なんとルシアちゃんと行動を共にすることになったのだとか。

 さらに、あのおっとり国王に1匹仕えることに。国王の連絡係とか情報入りまくりじゃないかひゃっほーう、と喜ぶちびきのこ。


『大丈夫なのか?』

「ん? 本体には何の影響もないから大丈夫」


 なんだ心配してくれてんのか? と頭を撫でられた。くそっ、調子崩れるな。

 向こうのちびきのこが言うには、今日セントゥロを発って俺達を追いかけてくるのだと。


「何でも、勇者の死に関して、戦争準備をしていないかとか何か不穏なことがないか調査して欲しいって」

『ふむ、ならばこのまま先行して情報を集めつつノルドで待ったほうが良いか』

「ですね! 聖竜様と聖女様が一緒にいればもう怖い物なしですね!」


 ちびきのこ……あっちのちびきのこと紛らわしいので、今一緒にいる方を1号、ルシアちゃん達といる方をきのこに倣って4号と呼ぶことにした。

 1号もエミーリオもルシアちゃんと合流するのには賛成なようだ。


 今生の別れ、或いは再会した時には敵同士になることを覚悟してルシアちゃんを置いてきたっていうのに、こんなに早く仲間として合流することになるとは。

 何となく気恥ずかしいような、居たたまれないような、どんな顔で会ったら良いのかわからない。再会の時が少しでも遅れたらいいのに。



『先を急ぐぞ、エミーリオ。少しでも多く情報を集めるのだ』

「おお、聖竜様が急にやる気に……!」

「お? 何だ? 女の子にいい所を見せたいってか? うんうん、あの聖女の子可愛いもんなぁ」

『黙れ』


 先刻までの行きたくないと駄々をこねていた俺から一転シャキッとしたのを、1号にニヤニヤとからかわれる。悔しい。





 こんな感じでわちゃわちゃとやりながら進んでいたら、いつの間にか景色が変わっていた。

 森が途切れ低い灌木ばかりとなり、地平線が見えるのだ。見渡す限り水色と若葉色のコントラスト。とても美しい。


「おおー」

『視界が開けているというのは良いものだな』


 感動の声を上げる俺達に、エミーリオがもうすぐ国境であることを教えてくれる。

 だが、今から行ったのでは確実に並んでいる間に日が暮れてしまうというので、この景色の良い場所で野営をすることにした。

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