9
結局ジルベルタ達は引き続きついてくることになった。
あの王様本当甘い。
「大丈夫でしょ。次に何か起こしたら貴族位剥奪だって宣告されてたし、父親が相当厳しい人みたいだよ?」
『本庄。わざわざ覗いたのか?』
「まさか。触れなくても解るくらい『父上に知られたらどうしよう』って悩んでるのが流れてきた。黒の使徒への差別が王様の名で撤回されてるのだから、悩むくらいなら最初からやらなければいいのに」
俺がジルベルタ達の事を心配していたら、本庄が話しかけてきた。
温和な本庄らしくもないほど辛辣だ。本庄もああいうのは嫌いらしい。
「ところで、そろそろルナが来る頃だと思うから、預かっていた荷物出したいんだけど」
『む、そうか。すまない』
あぁ、本当に行っちゃうのか。
日本の味がもう食えなくなるなんて……。
「お前、最後の最後まで僕じゃなくて料理かよ」
『む。心を読むなんてずるいぞ!』
「あははは。本当に料理だったのか。まったく。ほらこれ、餞別」
どうやら心を読んだのではなく顔に出ていたらしい。
本庄は珍しく声を上げて笑いながらノートを渡してきた。
「覚えている限りのレシピを書いておいた。ここに書いてないものについては頑張って再現したら良いだろ」
『本庄……』
お前、なんて良い奴なんだ!
感動して抱きしめたらやめろと怒られた。むぅ。そんなに力入れてないのになぁ。
何故か脇腹をさすりながら荷物を次々と出していく本庄。
輜重部隊を信じて彼らの荷台に乗せるか俺達で管理するかは任せると言うが、持ちきれないし輜重部隊に運んでもらうことにした。それが彼らの役割なのだし。
食材はほとんど俺が食い尽くしていたらしく、調味料とか調理器具がほとんどで、あとは先に帰した勇者達の装備がいくつかだった。
荷物を出し切るタイミングでルナさんが迎えに来て、実にあっさりと日本に帰っていった。
「な、何だあの美女は!」
「突然現れて突然消えたぞ?!」
「勇者がいなくなって、本当に大丈夫なのか?」
目撃していた輜重部隊からざわざわと不安が伝播していく。
おっとり国王から事前に聞いていただろうに、何を今更。
「ふふん、ここはまたまた俺の出番かな」
皆の前に踊り出る1号。何かデジャヴ。っていうか呼んでないよ?
聞けぃ、と声を張り上げる1号。
長官であるジルベルタが昼間コテンパンにやりこめられたの見ていたからか、鎮まりかえり1号へと視線が集まる。
「鑑定スキルのある奴は俺を見な! 俺こそが正真正銘の勇者だ!」
な、何だってー?!!!
コホン。芝居がかった1号に合わせて大げさに驚くふりをしてやっただけだ。
何々……あ、本当だ。勇者の称号がある。マジか。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーー
【ステータス】
名前 : カエデ・キノシタ(分身体)
レベル : 5
EXP : 2038/ 8000
HP : 150/ 150
MP : 250/ 450
Atk : 150
Def : 50
スキル : 異世界言語
痛覚遮断
増殖 Lv.10 (MAX)
超速回復 Lv.10(MAX)
鑑定 Lv.10 (MAX)
製図 Lv.8
測定 Lv.5
記憶 Lv.9
気配察知 Lv.4
隠蔽 Lv.5
長命
不老
逃走 Lv.10 (MAX)
生活魔法 Lv.5
土魔法 Lv.6
水魔法 Lv.8
光魔法 Lv.4
火魔法 Lv.3
風魔法 Lv.5
魅了 Lv.4
弁術 Lv.7
治癒 Lv.4
木工 Lv.10(MAX)
建築 Lv.6
剛力 Lv.3
投石 Lv.4
剣術 Lv.1
称号 : 月の女神の寵愛を受けし者
太陽の神の呪いを受けし者
導く者
勇者
ーーーーーーーーーーーーーーーーーー
……マジか。
え? 何? こいつスキルどんだけ取ってんの?
あんなに戦闘から逃げ回っていたくせに、ちゃっかりしっかりレベル上がってるし。
レベルやステータスだけなら子供にも劣るけど、その仰々しいスキルと称号!
ほら、鑑定できる連中も固まってる……。
「ステータスこそ低いが、サポートスキルは充実している! 俺がいれば大丈夫だ!」
「「「おおおおおおおおおおおお!!!!!」」」
地面を揺らすほどのおっさん達の歓声。
やめて、深夜に近所迷惑でしょ! 近所に家ないけど。
沸き起こるきのこコールに手を振り、しっかり休めよ、と命じた1号が俺達の方に来た。
さっきまで不安そうにしていたのは何だったんだと言いたくなるほど、それぞれ集まって賑やかに談笑している。
これ、もしかして弁術スキルと魅了スキルの組み合わせ効果か? きのこ、恐ろしい子!
「リージェ、ちょっと良いか?」
『ああ』
ドン引きしている俺を連れ、馬車の影に。ルシアちゃんも当然ついてくる。
聞かれたくない話でここでも不安だと言うので空へ舞い上がった。
星明りは多少あるが視界はかなり悪い。野営の焚火が灯台のように煌々と地上を照らしていて、そこから遠く離れての暗闇だからかどこか心細く感じる。
「それで、ここまでして話したいことって、何でしょう?」
高い場所が怖いのか、背中にしっかりつかまりながらルシアちゃんが本題を切り出す。
そういや、念願の初飛行じゃねぇか?
くそ、ルシアちゃん背中に乗せて飛ぶの夢だったのに、初めてがこんな真っ暗だなんて!
ノーカンだノーカン!
と、今は真面目な話だったな。
1号が風魔法を駆使しているのか、飛行によって生じる風は会話を妨げない。
それどころか、ルシアちゃんが着ている法衣や帽子だって全然風の影響を受けていない。
おかげで可愛い声が良く聞こえる。
「あぁ、ルナが気になることを言っていてな。この世界に女神なんていないって」
『何だと?!』
「そ、それは本当ですか?」
「ああ。神であるルナが嘘をつく理由がない」
確かにそうだ。驚愕の事実。
いや、確かにどんなに祈っても女神が現れる気配もなかったけどさ。
じゃあ一体、暗黒破壊神は何と戦っているんだ?




