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中二病ドラゴンさんは暗黒破壊神になりたい  作者: 禎祥
第八章 俺様、勇者と対立する
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22

 蛇達がまだ生きているという俺の言葉に、全員が改めて戦闘態勢を取った。

 戦闘不能になったベルナルド先生を連れて離脱したエミーリオの代わりに、チェーザーレが前衛に出て何が起きても良いように盾を構えている。


 それにしても寒いなぁ。

 ベルナルド先生の魔法の影響か、吐く息が白く見えるほどに冷える。

 それになんだか体の動きがぎこちないような……。まぁ、この程度の違和感なら何とかなるか?


 ぱたぱたと手足を回してその動きを確かめていると、だんだんと視界が晴れてきた。

 パキパキという音は未だ続いているが、だいぶ様子がハッキリ見えてくる。


「凍ってる、のか……?」


 バルトヴィーノとチェーザーレが少しずつ蛇に近づいていく。

 蛇竜は二頭とも氷によって地面に縫い留められ、何とか体から氷を引き抜こうとしている頭部の動きも緩慢としたものだった。

 それを見て爬虫類は寒さに弱いということを思い出した。

 急な温度の低下に体が休眠状態に入ってしまっているのだろう。

 そうか、俺の体が動かしにくいのももしかして……って、誰が爬虫類だ!


「何でも良い。とにかくとどめを刺しちまおうぜ」


 バルトヴィーノの言葉に我に返る。

 そうだ。今度こそ俺の出番! 動けないなら避けられないよな!

 モンスター相手の戦闘に卑怯も何もない。これは戦略!


「水よ、集いて我が命に従え――ウォーターカッター!」


 スパン、と小気味良い音がした。

 俺の放った高水圧の水刃は、動きを封じている氷ごと二頭の蛇竜を頭と尾に切り分けた。

 一見何の変化もないと思ったが、少しずつ自重でズレて真っ二つになった光景には思わずおお、と声を上げてしまった。


 輪切りになった胴は缶詰の魚の水煮を思い出させる。

 あぁ、たまには魚食いてぇなぁ。この世界にも川魚はいるらしいが、泥臭くてとてもじゃないが食えないらしい。


「ぼけっとするなリージェ。まだ動いてるぞ」


 バルトヴィーノがそう言いながら未だのろのろとのたくっている蛇竜の一匹に止めをさすべく剣を突き立てた。

 すると、パキン、と何かが割れる音が響く。

 てっきり、未だに蛇竜を縫い留めている氷に当たったのかと思ったのだが――。


「なっ?!」


 ザーッと砂が崩れるかのように、蛇竜の体色が変化する。

 黒から青みのかかった銀色へと。初めての光景に絶句していると、蛇竜から溢れるように出てきた黒い靄がもう一匹の蛇竜へと吸い込まれて行った。

 すると、分断された胴と尾が意思を持って再び結合しようとでもしているかのように、じわじわと黒い糸のようなものを伸ばし始める。


「させるか!」


 バルトヴィーノが蛇竜の再生を妨げるべく、触手のようにおぞましく動くそれを叩き斬る。

 すっかり白くなったもう一匹の蛇竜は、地面を鈍く揺らしながら崩れ落ち完全に動きを止めた。

 その尾についていた隷属の首輪がいつの間にか壊れていたのだが、きっと蛇竜が絶命したからだろう。


「ヴィー、下がれ!」


 チェーザーレの鋭い声にバルトヴィーノが即座に反応し、舌打ちと共に後ろに大きく跳躍するように後退する。

 再生しようとする部分にばかり注意がいっていたが、拍動するかのようにその体が巨大化し始めたのだ。


 膨らんだ体は自らを縫い留める氷を内側から壊し、身を捩る。それだけで地面が波打つような振動がくる。

 バルトヴィーノが先ほどまでいた場所は、その衝撃を直に受け陥没するように割れていた。

 再び触手を伸ばし結合しようとする断面に、チェーザーレが盾を構えて突進する。確か盾を使った攻撃スキルだったと思う。


「くつ!」


 触手を弾くように突撃し、蛇竜の再生を食い止めようとしたチェーザーレが小さく呻いて盾を手放す。

 超重量の衝撃を、触手が難なく受け止めたようだった。そして、そのまま盾に絡みつくとなおも触手を伸ばす。

 トプン、と水に飲まれるかのように巨大化し続ける胴体に盾は呑み込まれ、そして元から傷など受けてなどいないとでも言うかの如くくっついてしまった。

 チェーザーレが盾を手放していなければ、一緒に取り込まれていたかもしれない。


「大丈夫か?」

「あぁ。しかし盾が……」


 分断された身体が結合すると同時に、その肥大化は止まる。

 2mを超すチェーザーレの盾がはみ出すことなく完全に取り込まれてしまうだけあって、その高さは見上げるほどだ。既に尻尾の先は見えない。

 そんな巨体がまだダメージが効いているのかのろのろと身じろぎすると、ゆっくりと鎌首をこちらに向ける。


『ドナート、チェーザーレ。すまないが小屋の様子を見に行ってくれ』

「おい、リージェ。今はそれどころじゃ……」


 蛇竜の動きに注意しながら、俺は二人にアルベルトの所へ行くよう告げる。

 ドナートはともかく、盾を失ったチェーザーレではこいつを相手にするのは無理だ。

 バルトヴィーノが反論しようとするのを、あれを見ろ、と顎で示して遮る。俺の示すものが何か伝わらなかったようだが、構わず続ける。


『隷属の首輪が外れている』

「!」


 俺の言いたいことは伝わったようだ。

 隷属の首輪が外れるのは、主である南海が死んだ時。それはつまりアルベルト達が勝ったということ。

 ならば、何故彼らは出てこない?


 小屋の中で不測の事態が起きている気がする。気になるが、今はこいつをどうにかしなければ。

 遠距離攻撃ができるドナートが抜けるのは痛いが、無手のチェーザーレだけ行かせるわけにはいかない。


『身体が肥大したせいで壊れただけだとは思いたいが』


 駆け出したドナートとチェーザーレに意識が向いた蛇竜に、斬撃を叩き込む。

 巨大化して尚、目の前の蛇竜を脅威と感じていない。

 なのに何でだろうな? 嫌な予感が止まらないんだよ。

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