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中二病ドラゴンさんは暗黒破壊神になりたい  作者: 禎祥
第八章 俺様、勇者と対立する
180/212

(閑話)

 現代の神隠し、なんて呼ばれていた集団失踪事件の発生した日からもうすぐ1年。

 いなくなった生徒達が次々と見つかったと連日ニュースで流されている。だが、結局この1年間どこに行っていたのか、死んだ生徒はどこでどうして死んだのかなどの証言はTVからは流されることなく、真相は謎のままだ。

 だが、ネットの中ではTVでは流されないことまでまことしやかに囁かれている。というのも、警察やマスコミが本気にしなかった本人達の証言を某オカルト雑誌の記事だけが脚色なしで掲載したからだ。



 ――今までどこで何をしていたの?

「異世界に行って勇者をしていたんだ」

「向こうでは魔法が使えて、ゲームみたいにレベルやステータスがあって、勇者って称号までついてたのよ」

「凶悪なモンスターと戦ったり、世界を救うために旅をしていたんだ」



 まるで遊園地にでも行ってきたかのように、目を輝かせながら興奮気味に取材に応じる少年少女達。

 生還した生徒達のその荒唐無稽な証言は、皆示し合わせたように一致していた。

 その内容は戻ってきてから未だ精神医療センターに入院中の生徒が証言する内容とも一致しており、帰還してから打ち合わせる機会がなかったことから全員が同じ場所にいたことは間違いないと記事は綴る。

 異世界にいたという信じがたい証言に真実味を帯びさせたのは次の生徒達の証言。



 ――それを証明できる?

「あ。ポケットに入れっぱなしだったの、証明になるかな? これ、私が使っていたロッド」

「俺は、モンスターを倒した時に武器の素材にしようと剥ぎ取っておいた牙と核」

「ふふふ、私のは凄いよ? 一緒に旅をしていたドラゴンの鱗と尻尾の毛!」

「え? ずるーい! いつの間に!」



 了承をもらって専門家に解析鑑定してもらった結果、ロッドは白樺の木材に紫水晶で細工を施されたものであり、少女が言うような魔法の力などは確認できなかった。

 しかし、牙は猫型の大型獣だが現存する何れの動物とも一致しなかったという。

 鉱石と鱗、動物の毛についても同様で成分分析をしてもそれが何であるのかすら不明であった。



 世紀の大発見か、はたまた子供達による何らかの加工物か。様々な憶測がネット上に渦巻き人々の関心の高さを伺わせる。ただし、事件としてではなく都市伝説の類として。

 死者をも出したこの一件を面白がっているとしか思えない。



 ――じゃあ、君達はどうやって異世界から帰ってきたの?

「先生が見つけてくれたんだ」

「勇者として戦うなんて、そんな危険なことをするなって。先生が連れ戻しに来たの」

「正確には先生と先生の奥さんが、だね」



 ――先生って、君達の担任の?

「そうだよ?」

「他に誰がいるの?」

「ずっと私達を探してくれてたんだって」



 彼らの言う教師K氏は生徒達失踪事件の重要参考人として捜査が進められており、K氏が事件後ずっと自宅と弟H氏宅を往復するだけの生活であったことは警察が証言している。

 H氏宅へ足繁く通うのは、H氏の息子もまた失踪事件の被害者であり、未だ発見されていないからである。

 警察の証言するK氏の行動から、K氏が自ら捜索していたとは考えられない。

 仮にK氏が生徒達を探し連れ戻しているという生徒の証言が本当であれば、何故自分の甥を真っ先に連れ戻さないのか?

 生徒達をどうやって見つけ出したのか? どうやって連れ戻したのか? 何故警察に協力を要請した自分の無実を主張しないのか? 謎は深まるばかりである。





「ふんっ、くだらん!」


 部下の机の上に出ていたオカルト雑誌を、音を立てて叩きつけ秦野は毒吐く。

 その音に秦野の前に直立不動だった瀬田と黒木がビクッと肩を揺らす。

 今世間を騒がせているのは自分が担当している事件。そう、これは事件なのだ。こんな嘘八百が並べ立てられた怪しげな雑誌に何がわかるというのだ。

 真相はもっと現実的でなければならない。他殺体が出ている以上、必ず犯人がいる。

 警察の威信にかけてでも、犯人を捕まえなければならない。まだ見つからない生徒達が殺される前に救出をしなければ。


「ですが、何度も言っております通り木下は完全にシロです。妻のルナ、弟の本庄要にもアリバイがありますし、そもそも動機がありません」

「家の中からも何も出てこなかったっすもんね」


 表情も言葉も固い瀬田と対照的に、学生気分が抜けていないような口調と服装の黒木が最重要参考人は犯人ではないと口を揃えて言う。その言葉に、秦野がまた血管を浮かせる。

 とても同期同世代とは思えない対照的な二人は、いつだって秦野の悩みの種だった。


「何もないわけあるか!」


 木下は怪しすぎるのだ。現場にいて失踪した一人でありながら、当日の夜には何事もなかったかのような顔で関係各所に自ら連絡をしてきた掴みどころのない教師。

 それからの行動もおかしい。妻と二人暮らし、弟の所へ通っているとしても、とても三人では消費しきれないほどの食料品を毎日買っているのだ。そして、それは弟が職場に行くようになってからも続いている。

 何故あんな量の食料が必要になる? 本庄宅こそが監禁場所ではないのか?


「そもそも貴様ら、容疑者と仲良くなってんじゃねぇ! 令状もないのに家に上がり込むな! それと黒木、何度も言うがシャツの裾は中にしまえ! ズボンを腰履きするな!」

「えー」

「えー、じゃない!」

「班長が証拠証拠言うから家の中捜索してんじゃないっすか」

「木下は容疑者じゃなくて重要参考人ですよ。木下が犯人だというなら令状取ってきてくださいよ」


 だらしない格好と口調の黒木に続き、瀬田までもが秦野に盾突く。

 見た目も口調も正反対の二人だが、何だかんだで息ピッタリなのだ。特に、秦野に口答えする時は。


「ぐっ……だから、令状を取れるだけの証拠を見つけてこいって言ってるんだ!」


 こんな所で管を巻いてないでとっとと行ってこい、と追い出す。

 自分で引き留めたくせに、とぶつくさ言っている黒木に聞こえているぞ、と怒鳴ると逃げるように去っていった。


 警察は捜査令状なしで家宅捜査をしてはならない。不正捜査によって見つけた物証は、例え被害者の血がべったりついた凶器であっても証拠とは認められないのだ。

 だが、捜査令状を取るにはそれなりに木下が犯人であるという証拠を揃えなければならない。しかし、秦野は未だに木下が犯人であることを示す有力な証拠・証言を得られずにいた。

 このままではこの事件は迷宮入りするだろう。何とかしなければ……秦野は焦っていた。


「そうだ、違法捜査だとわからなければいい。映像合成の得意な奴がこの前見逃してやった万引き犯にいたな……」


 証拠がなければ作ってしまえばいい。

 誰もいない部屋で、ニヤリ、と秦野は嗤った。

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