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中二病ドラゴンさんは暗黒破壊神になりたい  作者: 禎祥
第八章 俺様、勇者と対立する
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 幼女達が長旅でお疲れでしょう、と夕食を振る舞ってくれた。

 野菜炒めに筑前煮風の煮物にスープ、ナンのような形状の薄いパン。材料は全て村の中で彼女達が育てたものらしい。

 まだ料理に慣れていないのか、味は微妙としか言いようがない。というより。


「肉が入ってない」

「ちょっと!」


 お、俺は言ってないぞ?!

 思ったことがそのまま口から出てしまったのかと慌てたが、失言したのは本田だった。


「だってよぉ。具材は野菜ばっかりだし、ちゃんと切れてなかったり、火が通ってなかったり。とても食えたもんじゃねぇ」

「やめなさいよ! あんなに一生懸命私達のために作ってくれたのに、そんなこと言うの失礼よ」

「そうだぞ本田。嫌なら食うな」


 意外なことに、本田を叱る小島に援護するように怒りを顕わにしたのは宮本だった。

 本田の発言に悲しそうな顔をしていた幼女達に今まで見たこともないような優し気な笑顔を見せると、匙いっぱいの野菜を口にほおばり親指を立てて見せた。

 噛む音がシャリシャリ言っているのは火が通り切っていないからだ。


「大丈夫。美味いよ。良いお嫁さんになれる」

「で、でも……それ火が通ってないってそっちのお兄ちゃんが……」

「大丈夫だから。良いんだよ。野菜なんてそもそもみんな生で食べれるもんばっかりなんだから」


 宮本は再び野菜を口いっぱいに頬張るともごもごと口を動かしながらうん、食える食えると言った。

 漢だな、宮本。見直したぜ。

 他のメンバーも宮本を見習って残さず食べた。本田は結局本庄に作り置きの料理を出してもらってたけど。

 俺も最初はメロンばっかりだったもんな。長旅の間に舌が肥えてしまっていたようだ。食べられる時に食べられるものを食べないとな。反省。



「あの、料理を教えていただけませんか?」

「良いよ。じゃあ、畑の作物は何があるか見せてもらって良いかな? それで作れそうなレシピを一通り教えるよ」

「私も手伝いますわ」


 食事の後くつろいでいると、料理を担当していた幼女達が本庄に話しかけてきた。

 きっと本田に料理を出してやっていたからだろう。本庄が了承すると歓声を上げてぴょんぴょん跳ねていた。その愛らしい様子にルシアちゃんも本庄も笑顔になる。俺に妹はいなかったが、もしいたらこんな感じなんだろうか。


 暇なのでついていくと、食卓に並んだ以上の種類があった。

 これらはすべて木下が日本から持ち込んだものらしい。種や苗を持ってきて植えて、それを魔法で成長させたのだと。


「でね、村長が、魔法を教えてくれたの。私達だけでも野菜を育てられるようにって」

「他にも、料理とか、お風呂とか、柵の直し方とか、病気や怪我の治し方とか」

「お裁縫とか、お勉強も! できるといっぱいいっぱい褒めてくれるの!」


 回りながら幼女達から次々と飛び出すのは、木下のことばかり。本当に木下を慕っているんだなぁ。

 作物は全部は収穫せずに、次に植える種にするようにと教わったらしい。他にも、ここでずっと生きていくためのあらゆる知恵や工夫、技術を叩き込んでいるようだった。


「……やっぱり、村長いなくなっちゃうのかなぁ」

「村長がいなくなったら、私達どうなるんだろう」


 幼女達が、ポツリと不安を吐き出した。

 彼女たちは、幼いながらも解っているんだ。木下がいつまでも自分達と一緒にはいられないこと。そのために生きる術を授けようとしているのだと。


『いなくならない人間などいない。むろん、貴様らの村長であってもだ。いつか必ずその日はくる。だから、一緒にいられるうちは一緒にいろ。覚えられることはすべて覚えろ。そうすれば、いつかその日が来ても村長がいなったことにはならない。貴様らが覚えている限り、そいつは生きているんだ』

「……あい。ちび竜、凄いの」

「覚える! ずっと覚えてるの!」


 柄にもなく説教臭くなっちまったぜ。でも、幼女達が元気になったし良いか。

 ふと、ルシアちゃんがクスクスと笑っていた。


『なんだ?』

「いえ、レガメの皆様とダンジョンの外に出た時も同じこと言っていたなぁって。やっぱりリージェ様は優しいのです」

『なっ……忘れろ!』

「忘れませんよ。さっきリージェ様が言ったんじゃないですか。覚えている限りその人は死なないって」


 ルシアちゃんが笑う。その顔はいつになく大人っぽくて。ドキッと心臓が跳ねるのを感じた。

 俺だって、覚えているよ。ルシアちゃんの笑顔、怒った顔、心配した顔、泣き顔も寝顔も全部全部。特に、初めて会った時に見た綺麗なはだ……か……。


「きゃーっ! リージェ様?!」

「あ、ちび竜が鼻血ぶーしたー」

「栗栖ってムッツリだったんだね」


 いやいやいや、だってあんなん忘れろってほうが無理だし。

 俺の鼻に布を押し当てて背中をトントンしてくれるルシアちゃんに抱かれて部屋に戻ると、安静にしていなさいって男連中の中に放り込まれた。

 ルシアちゃんと幼女達が本庄から料理を教わりながらはしゃぐ声を感じながら、俺達は1号を囲んで本題に入る。即ち、ここで勇者達を置いて行くってことだ。


「俺は残るぜ。あの子達のために肉を獲ってやりたい」

「俺は断固アルベルトさん達について行く」

「ダメよ! 最初から、ここで待機って話だったじゃない」


 この村を最初に見た時にここは天国か、と叫んでいた宮本はこちらが説得するまでもなく残ることを選択した。野菜ばかりのあの子達が肉を食えるように、狩猟を教えたいんだと。

 ある程度狩猟の技術をあの子らが身につければ日本に帰ることも了承するだろう。

 本田と小島が言い争いを始めた時、外で何か爆発するような音がして、続いて家が大きく揺れた。

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