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中二病ドラゴンさんは暗黒破壊神になりたい  作者: 禎祥
第八章 俺様、勇者と対立する
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(閑話)

 くそっ、何でこんなことに!

 順調だった。全て順調だったんだ。あいつらが来るまでは。

 いきなり異世界だなんて訳のわからない状況で戦うことを強要されて、混乱しているクラスメイト達を支配するのは簡単だった。

 俺がちょっと宥めて皇帝との間に立ってやり取りをしているうちに、皆俺を尊敬してつい来るようになった。面白いほどに全てが俺の思い通りになるまでそう時間はかからなかった。


「良いか、勇者よ。レベルだけが強さではない。ステータスやスキルは訓練次第で伸び、強さはそれに左右される。レベルを上げるより、ステータスやスキルを上げよ」


 皇帝にそう言われた時だって、レベル上限にすら届かない凡人の戯言だと一笑した。

 実際、俺達は城にいる誰よりも強くなっていた。ちょっとレベルが上がっただけで戦闘の基礎を教えくれていた騎士達の誰も、かなり手を抜かなければまともに手合わせできないくらいになっていたんだ。


 そりゃ、最初は怖かったし嫌だったさ。罪人とはいえ人を殺すなんて。

 でも、殺さなければ殺されるという状況に追い込まれて。

 あっけないほど簡単に相手を倒せてしまった時に、レベルアップと同時に力がみなぎる感覚に包まれた時に、罪悪感も恐怖もどこかに吹き飛んだ。

 これはゲームだ。現実じゃない。自分にも皆にもそう言い聞かせたら、殺すことが楽しくなった。どんどん上がるレベルが。その度に強くなって新しいスキルを得られることが。


 もっともっと強くなりたい。この世界ではレベルが全てだ。レベルが高ければそれだけ強くなれる。レベル上限のない俺達はこの世界の誰よりも強くなることができる。

 そうすれば、何もかも俺の思い通りだ。もう誰の命令にも従わなくていい。

 だからこそ、レベルアップのための糧を求めて城を抜け出すようになった俺達に、訓練に出るなだのこれ以上殺すなだの言ってくる本庄が邪魔だった。

 これは現実じゃない。ゲームなんだ。だから、俺達に現実を思い出させるな。そう言ったら本庄は引きこもったまま出てこなくなった。



 実際のところ、俺は戦闘向きのステータスではない。MPはそれなりに高いが、それだけだ。俺の武器は「万物解析」。鑑定スキルの上位版だと思っている。一目見ただけでそのものの本質を見抜き、行動なら一番効率の良い結果を、物体ならその構造や作成方法などを導き出す。

 この力によって最初に宮本の能力や行動パターンを見抜いて打ち負かしたことで、宮本が俺を崇めるようになった。

 俺が何も言わずとも、勝手に皆を力尽くで俺に従えた。暴走することもあるが、これほど扱いやすい駒はない。

 聖女や聖竜が到着した時だって、この力で簡単に従えられると思ったんだ。だが――。


(な、何だこのバケモノは?! 全てのステータスが万越えだと?!)


 少女に抱かれた小さな竜を見た途端に俺の計画は狂った。

 俺の全感覚が、スキルが、こいつにはどうやっても勝てないと訴えていた。

 主導権を握るつもりだったのに、こいつが力に物を言わせてきたら抗いようがない。

 だから、皆を誘導した。竜のレベルが低いことを伝えれば、これまで刷り込んできたレベルこそ全てという考えから俺をリーダーに推すだろうと。

 そして、その通りになった。ここまでは良かったんだ。



『ふん、俺様を雑魚呼ばわりしていたからどれだけ本気を出せるか楽しみにしていたというのに、この程度か。期待外れだな。次はこちらの番だ』


 勝てるわけがない。

 あの竜との直接対決をうまく回避したと思っていたのに、宮本のバカが暴走したせいで戦うことになってしまった。

 案の定、誰の攻撃も通用しない。魔法も当たっているのにまるで効かない。こんなの、勝てるわけがない。


 目の前に広がるのは、空を覆い尽くす勢いで集まった巨大な水の塊。

 勝てるわけがない。やっぱり、こいつはバケモノだ。

 あっという間に俺達は水の中に閉じ込められてしまった。息ができない。苦しい。これはゲームじゃない。ゲームがこんな苦しいわけがない。意識が遠のく。俺は、ここまで……なのか……。



『頭部だけ動かすことを許可する。従うのであれば首を縦に』

「従う! 従うから、もうやめてくれ!」

「た、谷岡さん?! そんな……?!」


 竜の言葉を遮って命乞いをする俺に、宮本が愕然とした顔をしているが構うものか。そもそも、こんなバケモノに敵対する方が間違っているんだ。

 水を大量に飲んでむせながら他の連中も命乞いをした。本田と宮本だけはまだ竜を雑魚呼ばわりしている。実際に戦ってなお力の差に気付かないから馬鹿なんだこいつらは。

 今なら皇帝のあの言葉の意味がわかる。レベルよりも、ステータスを伸ばす方が大事だったんだ。



「本庄、今までごめん……」

「……うん、良いよ、わかってくれれば」


 俺は本庄にあの日のことを謝罪した。部屋から出れなくなるくらいに皆を煽り追い込んだことを。殺してしまいたいと思うほど邪魔に感じていたことを。

 本庄は言葉を呑み込むかのように少しだけ沈黙して、それから笑った。日本にいた頃と変わらない柔らかな表情で。

 俺は、今どんな顔をしているだろう? 日本にいた頃の俺と同じように笑えるのだろうか?


 ともかく、本庄は今までのことを水に流してくれた。正直拍子抜けするほどだった。

 次は、先生だ。俺は先生を怒らせた。いつも飄々としていて笑顔で、怒るところなんか一度も見たことのない先生を怒らせてしまったんだ。

 だから、きちんと謝らなければ。さもなければ、俺も消されるかもしれない。


「先生、本当にすみませんでした。本庄とは和解しました。もうあいつを追い込むようなことはしません」

「そうか! いや、それなら良いんだ! 俺の方こそ脅してすまんかった!」


 あんなに怒っていた先生は、以前と変わらない態度でそう言った。

 姿が変わってしまっているせいでわかりにくいけど、たぶん日本で生徒達とふざけていた頃と同じ全開の笑顔だと思う。だからこそ、怖い。怖いけど、聞かなくてはならない。

 昨日の夜まではいたのに、今はいなくなっている一人の女子生徒のことを。俺以上に本庄を邪魔に思い、実際に殺そうとしていた彼女のことを。

 あっさりと俺を許して竜達のいるところに戻ろうとする先生を引き留める。


「先生、教えてください。……五十嵐を、どうしたんですか……?」


 声が上擦るのを感じる。震えを必死に押し殺して聞く俺を、先生はゆっくりと振り向き見る。そうして、それまでの明るい笑顔とは違う、ひどく不安を煽るような表情で無言のまま嗤って去ってしまった。

 俺は立ち去る先生をそれ以上引き留められなかった。呼吸を整えるのに必死だった。自分の鼓動が周囲の音をかき消すほど大きく聞こえていた。

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