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中二病ドラゴンさんは暗黒破壊神になりたい  作者: 禎祥
第八章 俺様、勇者と対立する
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5

 こちらです、とエミーリオが祭壇の奥に進む。一歩踏み出す度にその足を避けてわらわらときのこが動く異様な光景。

 そして、祭壇の奥の左側、ちょうど入口から死角になっている場所にこれまた不自然な木の扉があった。

 松明の光は祭壇に意識が向くように計算されていたようで、エミーリオに示されるまで祭壇に近づいてもそんな扉があることには全く気が付かなかった。


「凄いだろう! 探索していて見つけたんだ」


 1号がエッヘンと胸を張って言う。

 扉の奥は黒の使徒が隠れ住んでいた居住区になっていて、個室がたくさんあるらしい。

 谷岡達はそこに一人ずつ閉じ込めてあるのだと。


「おい! 出せ! ここから出せ!」

「てめぇ、こんなことしてタダで済むと思ってんのか!」


 エミーリオの足音や1号の話声を聞きつけて扉をガンガン叩きながら怒鳴る声が聞こえる。

 一見普通の木の扉なのだが、勇者のステータスでも破れないってどうなってるんだこれ?


『これ、壊されないのか?』

「見ての通り、大丈夫みたいだよ」

『普通の木であろう? 一体どうなっているのだ?』

「企業秘密」


 言い方にカチンと来て思わず両手の爪を食いこませてミチミチと引き裂こうとしてしまった。

 1号が大慌てでペラっと喋ったので解放してやった。1号もとい木下が持っているスキルを掛け合わせてちょっとした罠を仕掛けたんだと。


「まあ、見た方が早いよ。エミーリオ、開けてやって」

「はい」

「『!』」


 一番近くにあった扉をエミーリオが無造作に開ける。鍵かかってないんかい!

 扉は外開きになっていて、エミーリオが全開にしたことで中が見えたのだが誰もいない?

 さっきまで扉を叩いて大声出していた奴はどこへ……と視線を彷徨わせると地面から生えた本田と目が合った。両腕と頭だけ出ている状態だ。

 扉の鍵のこととか本田のこととか驚きすぎて固まる俺に対し、本田もまたあっけなく開いた扉と俺の姿に固まっている。


『どんな状況だこれ?』

「えーっとだな、まずこの扉以外の壁面には風魔法で衝撃を吸収するようにして壊せないようにしたわけ。そんで、扉の前に土魔法で落とし罠と、土魔法と光魔法と超速再生スキルの合わせ技で穴が開いたら塞がるようにしといたの」

「つまり、扉に近づいたらこうなるということです」

「ついでに魔法やスキルも光魔法の結界もどきで封じてみた」

「……っ! 見せもんじゃねぇぞこら! とっとと助けろ! ここから出せ!」


 再び本田がもがき始めたが、わきの下まで埋まっている上に少しでも隙間ができるとまた自動で埋まるという蟻地獄よりも凶悪な罠に文字通り手も足も出ない様子。ああ、いや、手は出てるか。

 扉に手は届くが、壊せるほどの膂力を発揮できるような距離ではなかったようだ。

 というかきのこ、一体スキルをいくつ持っていやがるんだ?


「他の部屋も同じようになっています」

「これなら他のメンバーと協力して脱出もできないし、悪い子にはお仕置きってことでしばらく頭を冷やしてもらおうかと」

「てめぇ、教師のくせにこんな事して許されると思ってんのか!」


 キャンキャン吠える本田の声が反響して頭が痛い。

 教育委員会に訴えるとか、俺が何したって言うんだという言葉に珍しく1号がキレる。


「ほほう……教育委員会ねぇ。この世界にそんなものがあったかなぁ? ねぇ、エミーリオくん?」

「聞いた事のない機関ですね」

「ぐっ」


 自分が手も足も出ないもんだから、1号が教師であることにつけ込もうとしたのだろうが……異世界で教育委員会とか言ってもねぇ。

 因みに法に訴えるというのも無理だぞ。1号はアスー皇国に属していないからな。アスーの法律では裁けない。

 マスコットのような顔を凶悪に歪めて1号は更に畳みかける。気の抜ける顔のはずが、何でここまで凄みが出るんだ。


「それにお前、自分が何もしてないって言うが、そんなことはないだろう? 武器屋の店主で試し斬りしようとしたって? ためらいもなくそれができたってことは、初めてじゃないだろう? そのレベルになるまでに何人殺した?」

「そ、それは……だって、あいつら罪人だって皇帝が言うから……」


 1号の畳みかけに本田がしどろもどろになってきた。

 先ほどまでの威勢はどこへやら。目が泳ぎ始める。


「ほほぅ? では、香月を殺そうとしていたのは?」

「香月?」

『本庄だよ。貴様らの殺意を察して引きこもっていたのだ』

「だ、だってあいつ、俺達の邪魔ばっかりするから……そうだよ、邪魔なんだよ。俺達は勇者だぞ! 皇帝より偉いんだ! 俺達は勇者だから、暗黒破壊神を倒すためなら何したって正しいんだ! 強くなるために殺したって良いんだよ!」


 その言葉に、1号が黒い笑みを引っ込める。エミーリオもそんな訳ないでしょうと怒り顔だ。

 皇帝は俺に対して下手に出ていたし、勇者に対しては対等に接していたようだった。特に行動を制限することもなく、援助することさえあった。だから自分達の方が皇帝より偉いと勘違いしたのだろう。

 1号は、他の部屋に閉じ込めてある奴らにも聞こえるように声を張り上げる。


「そうか……なら、同じく勇者の称号を持つ俺がお前らを裁いても正しいってことだ。良いか、お前ら! 俺の甥っ子を殺そうとしておいて、のうのうとここから出られると思うなよ! 一人ずつ処理してやるよ!」


 本田が顔を青褪めさせ、甥? と小さく呟くのが聞こえた。

 無表情で剣の柄に手をかけているエミーリオを見上げて震え始める。


 処理、とか紛らわしい言い方してるけど、日本に帰すだけ……だよな?

 他の部屋からも怯えるような呟きが聞こえる。これだけ脅かせば大人しくなるだろう。

 取り敢えず、今後は1号を怒らせないようにしよう。うん。

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