表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
中二病ドラゴンさんは暗黒破壊神になりたい  作者: 禎祥
第七章 俺様、南方へ行く
159/212

28

 突然聞こえたその悲鳴に、ルシアちゃんが制止する間もなくいち早く店内へと駆け込んだ。

 小さな店の中には何故か人垣。飛び込んできた俺達には気づかずに、皆一様に店の奥を見て固まっている。

 その奥から、男女の言い争うような声が。何だ、痴話喧嘩か?


「やめなさいって言ってるでしょ!」

「うるせぇな! 俺達は勇者だぜ? 守られるだけのこいつらは前線で戦う俺達のために装備を供出する義務がある!」

「そんなわけないでしょ! 皇帝陛下が後見してくれてるんだから、そんな強盗紛いのことをしたら皇帝陛下に迷惑が」

「うるせぇっつってんだろ!」

「キャァッ」


 ルシアちゃんの後を追いかけて男女に近づいていくと、その言い争う内容がハッキリ聞こえてきた。

 台詞からしてどう考えても勇者達だ、とわかった途端、ゴッ、と鈍い音がした。同時に女の短い悲鳴。人垣が騒めきと共に少しだけ後ろに下がる。顔を腫らした店員らしきエプロン姿の男性が尻餅をついたような態勢で床に座り込んでいるのが見えた。


「差し上げますから、どうかこれ以上は……」

「ったく、トロいんだよ! さっさと渡せば良いものを」


 ルシアちゃんが慌てて人垣をかき分け前に出る。

 そこには、無理やり奪い取ったと見られる長剣を眺めて笑う本田と、同じようにニタニタと笑う数名の男子、倒れている小島とそれを介抱しようとしている数名の女子がいた。

 懐かしいなぁ、本田。よく俺のヒーローごっこに付き合ってくれたメンバーの一人で、確か小島がちょくちょく本田の後をついて回ってたっけ。ん? もしかしてこの二人付き合ってたのか?


「本田最低! よくも女子の顔を殴れるわね!」

「あぁ?」

「ひっ!」


 ぼんやりと懐かしい日々を思い出していたら、小島を助け起こそうとしていた女子が本田を非難していた。えーっと、名前何て言ったっけ?

 本田は本田で剣を抜き放って女子を一睨み。めちゃくちゃ凄みがある。何だか以前よりますます悪役がお似合いの顔になって。

 と、突然本田が剣を近くにいたエプロン姿の男性に斬りつけた。

 周囲から悲鳴が上がる。


「おやめなさい! 貴方、一体何のつもりですか!?」


 止める暇もなかった。それだけ素早い剣筋だった。

 右脇腹を斬られた男性は生きてはいるが、血が凄い勢いで噴出している。

 ルシアちゃんが本田を非難しつつ押しのけて男性に駆け寄り、回復魔法をかける。

 見る見る傷が塞がっていくが、相当な量の血が失われたようで顔は蒼白のままだ。


「何って、武器を手に入れたから試し斬りしたんだよ。いざ戦うって時になまくらじゃ困るだろうが」

「ならば精肉店でそれ用に肉を貰えば良いでしょう?! あなたは勇者ではなくただの殺人鬼です! 恥を知りなさい!」

「あぁ? 戦う術を持たない守られるだけの聖女が、勇者である俺を否定するって言うのか? 俺達が一緒に行かなきゃ、困るのはあんたじゃないのか?」

「そ、それは……」


 ルシアちゃんが言葉に詰まる。

 うん、本当は困らないのだけどね。決戦の前に日本に帰すから。

 あ、でもここで一緒に行動してもらえないと日本に帰せないのか。それは確かに面倒だな。

 じゃあ日本に帰さないでこの世界の人として自由に過ごしてもらう……ってのは1号に文句言われそうだな。


「あーあー、俺傷ついちゃったなぁ。皆も聞いただろ? 俺は勇者じゃなくて殺人鬼なんだってよ。土下座で謝ってもらわなきゃ、あんたを守る気も一緒について行って戦う気も起きねぇなぁ」


 本田の言葉に周囲にいた男勇者からも土下座コールがかかる。

 女子達やこの世界の人からは酷い、とか聞こえるが、一睨みで黙らされている。

 ルシアちゃんが震えながらゆっくりと身を屈めようとしていた。


『やめろ、ルシア。堂々としているのだ。正しいのはこちらだ』


 慌てて制止する。

 ルシアちゃんは何も悪くないのに、こんなことをさせるなんて。こんなことをする奴だったなんて。許さねぇ。


「天ば…」

「やめろ」


 俺が翼に光を溜めようとしたところで、本庄から制止の声がかかる。その声に我に返る。

 そうだ、ここで天罰なんて使おうものなら本田の後ろにいる女子達まで消し炭にしてしまう。


「グッ……な、なんだ? 体が急に……っ」


 本田が急に床に片足をついた。本庄が何かしているようだ。

 よし、もう大丈夫だ。俺は冷静だ。


「(ちっちゃく)血飛沫と共に踊れ」

「い、痛っ! いててててて! おい、何だ? 誰だ! やめろ!」


 イメージは鎌鼬。本田だけを取り囲むように、殺さない程度にズタズタに。

 本庄が容赦ないなって呟くのが聞こえたけど、これでもかなり加減しているよ?

 イメージ通り、他の人間には被害が出てないし。


「なら良いけど。気絶しているしそろそろやめて良いんじゃない?」

『む、そうか。店主、この罪人を縛るものはあるか?』

「は、はい」


 ルシアちゃんに治療してもらったエプロン姿の男性がロープを持ってくる。

 さり気なく逃げようとしていた他の男子を、気が付いた小島含む女子が取り囲んでボコボコにしていた。やっぱり女の子って怖い……。


「この度は、私達の連れが大変申し訳ありませんでした」

「そ、そんな! 聖女様は何も悪くありません。頭を上げてください!」


 本田達に代わって謝罪するルシアちゃんを、店主が大慌てで止める。

 それどころか、自分を治療してくれたお礼を述べて二人でペコペコ。

 そんな二人に、女子達が金貨を差し出した。


「本当に、申し訳ありませんでした。これ、彼らの持っていたお金です。武器の代金とお店の弁償に足りますか?」


 十分だと言って、店主は許してくれた。

 本田達は罪人として皇帝に報告すると約束し、縛り上げたまま小島達に協力してもらい連れて帰る。勿論、治療などしてやらない。

 彼らは出立の日まで牢屋で過ごすことになる。一応戦力なので、出立の際には連れていくことにできたのは良かった。


 あ、雑貨屋行くの忘れた。まぁ良いか明日で。

 夕食後に部屋でルシアちゃんに結界の石について色々聞きながら、作って欲しい物のイメージを伝えていた時、静かに扉が叩かれた。

 招き入れると、入ってきたのは昼間の騒動に関わった女子達だった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ