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中二病ドラゴンさんは暗黒破壊神になりたい  作者: 禎祥
第七章 俺様、南方へ行く
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 まだ赤髪の勇者が合流してからまだたった半日しか経っていない。

 だというのに。


『何だ、この空気は!』


 ギスギスしているにもほどがある!

 せっかく1号が精米してくれたお米だって焦がしつつもうまく炊けたというのに。

 俺の大好物、肉こんもり料理も味をなくすほどの空気の中、焚火の薪が爆ぜるパチパチという音だけが流れていく。


「まったく、少しは仲良くなれないのか? そもそもお前達、同郷の者同士だろう?」

「「無理です」」


 見かねて諭そうとするアルベルトに重ねるように即答する勇者達。元凶の赤髪の男はフン、と鼻を鳴らした。

 合流したときからルシアちゃんの馬車に乗り込むなどしていたせいもあって、元々距離を置かれていたのだが、昼間の一件もあって今は全員からそっぽを向かれている。

 何があったかと言うと、まぁ、モンスターと遭遇したんだが。



「どけ! 俺が倒す!」


 馬たちを休ませるのにちょうど良さげな草原があり、休憩を取っていた時のことだった。

 接近していた角兎に気付き、赤髪が隊列を組もうとしていた勇者を押しのけて前に出たのだ。



「ハッ、この程度の相手にもたつくとか、マジで雑魚だな! お前らそれでも勇者かよ。こんなちっこい兎にビビってカッコ悪い。知ってるかおい? 勇者ってのは勇敢な者って意味なんだよ。お前らのどこが勇者だ? 真っ先に! モンスターを倒す! この俺こそが勇者に相応しい!」

「真っ先に、って。隊列を組もうとしていた長澤を突き飛ばして飛び出していっただけじゃないか、梅山」

「フン。隊列だ? なんだ? 僕ちゃん一人じゃ怖くて戦えませーんってか?」


 毛皮も肉も取れないくらいズタボロになった兎を顔の高さまで持ち上げ掲げる赤髪。役立たずだのせめて盾にはなれよとか、言いたい放題だ。

 他の勇者は悔しそうに下を向く者、嫌そうな顔をする者、様々だったがペラペラと冗長する赤髪に反論する者はいない。


「ハッ、自分の立場が分かったかよ? お荷物のお前らはせいぜい俺の邪魔だけはするなよ。真の勇者たるこの俺のな!」



 と、それからまた馬車を分かれたまま進み、現在に至るわけだ。

 どうやら別の馬車にいる間に怒りが再燃したようで、今や全員から完全に無視されている。


「あの、ちょっと良いですか?」


 1号を肩に乗せた工藤が声を潜めながら話しかけてきた。相談したいことがあるそうだ。

 俺を抱っこしたルシアちゃんと、アルベルトは勇者達の使っている馬車へと招かれた。


『それで? 話とは何だ?』

「実は、梅山の事なんですけど。あいつだけ、今すぐ日本に送り帰すってできませんか?」

「口も態度もあれだが、お前達の仲間だろう?」


 工藤が声を潜めたまま切り出すと、馬車の中にいた勇者からも口々にお願いしますと頭を下げられた。

 アルベルトがアスー皇国を出るまで何とかうまくやれないかと取りなすが、それはできないと口を揃える。


「あいつは、俺達の知っている梅山じゃありません。あんな言動をする奴じゃなかった。少なくとも、今のあいつとは一秒だって一緒にいたくありません」

『1号はどう思う?』

「俺も賛成だ。遅かれ早かれ全員日本に帰す予定だった。命の危険もある道程で、協調できない奴は全員を危険にする」


 ふむ、俺もあいつ嫌いだし、皆がそれで良いなら構わないか。


「ですが、アスーの皇帝陛下には何とお伝えしたら……」

『そうだな。俺達と梅山が合流したことはあの商人が知っているし、すぐにバレるから行き会っていないことにはできない。なら、出ていったことにするか?』

「それだと、聖女が到着したということで捜索隊が出され、見つかるまで城に引き留められるぞ」


 アルベルトが俺の案を即座に却下する。

 ふむ……連れ戻すからそれまで待機していてくれってのは十分あり得るな。そうなると、他の勇者達を帰してやれなくなる。


「死んだことにして下さい。先生に聞いたんですけど、この力って、地球でも使えるそうなんです。だから、あいつが日本で暴走しないよう、俺も明日帰ります」

「俺と工藤とで、梅山を見張る。何とか元の人格に戻るよう矯正するつもりだ」


 工藤の帰る発言は事前に馬車の中で相談していたようで、他の勇者達も頷いている。皆決意に満ちた目だ。


「幸い、ここに来るまで何度かモンスターと遭遇している。モンスターに特攻かまして即死したと言えば良い。工藤もその時一緒に死んだと。アスーを始め、オーリエンやオチデンからは責められるかもしれんが……」

「……それは仕方ありませんわ。各国からの追求は任せておいてくださいませ」


 ルシアちゃんも、今夜赤髪を帰すことに賛成なようだ。……キスされそうになってそうとう怒っていたもんな。無理もない。

 赤髪は以前遭遇した角熊にやられたことにするとして、その爪などを証拠品とするよう口裏を合わせた。そして。



「あの、コウキ様。ちょっと宜しいですか?」

「何? ルシアちゃんまで、もっとあいつらに歩み寄れとか言う訳?」


 うわ、完全にやさぐれてる。

 焚火をぼーっと見つめたまま、振り向きもしない赤髪に、ルシアちゃんはめげずに作戦を続行する。


「そうではありませんわ。馬車の中で、少し言いすぎましたので何かお詫びをしたいと考えまして。ここでは他の殿方の目もあって恥ずかしいですから、馬車の方に来ていただけませんか?」

「あ、ああ。わかった」


 まんまと引っかかった赤髪。他の人に見られたら恥ずかしいお詫びって何だろう? まさかキスしてくれるとか? いやいや、その先も……ムフフ♪ などと小声でブツブツ言いながらニマニマとしまりのない表情でついてくる。


「ごめんあそばせ」

「ぐえっ」


 梅山が馬車へ乗り込もうとした瞬間、先に上がっていたルシアちゃんが思い切り梅山の腕を引っ張る。即座にそこで待機していたアルベルトが体勢を崩した梅山の鳩尾に一発膝蹴りを入れる。と同時に後頭部を殴打した。アレはきつい。

 小さく呻いた後、赤髪はその場に崩れ落ちた。俺が奴の頭の上に降りてゲシゲシと地団太を踏んでみても起きる気配はない。


『良いぞ、1号』

「ああ、もう来てるよ。ルナ、頼む」


 アルベルトが赤髪の剣とマントを素早く奪い取る。それに後でモンスターの血を塗り付けて遺品として提出するんだと。

 例の如く気配のない金髪美女が突然現れ赤髪を抱えると、来た時と同じように音もなく消えていった。

 あばよ、赤髪。清々したぜ。

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