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中二病ドラゴンさんは暗黒破壊神になりたい  作者: 禎祥
第七章 俺様、南方へ行く
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20

 勇者を拾った。

 いや、別に拾ってくださいとか言われた訳でも道に落ちていたわけでもないのだが。

 遡ること1オーラほど前。




「助けてくれ!」


 いよいよアスーの首都まで残すところ二日という距離まできていた俺達は、道の路肩に馬車を停めてオロオロする初老の男に声をかけられた。

 馬車は馬こそ無事だがあちこち傷だらけで、男自身もボロボロだった。


「どうした?」

「レオーネだ! レオーネの群れに襲われた! たまたま乗り合わせた冒険者が引き付けてくれてここまで逃げてこられたが、あの子一人じゃやられちまう! あんた達も見たとこ冒険者だろ? あの子を助けてやってくれよ!」


 馬車を停めてドナートが事情を聞くと、男はそう懇願してきた。

 どうやら年若い冒険者が一人、囮になっているという。レオーネが何を指すかわからないが、群れだというしなかなか手強そうだ。

 旅も順調だし、経験値は欲しい。ってことで引き受けることにした。それに、おっさんがしがみついていて断れそうにもなかったし。


『ルシア、この者に治療を。エミーリオは食事の準備をしてくれるか?』

「はい」


 ちょうどお昼時であったこともあり、勇者達やこの商人が少しでも不安を和らげられるよう美味い物を食べさせてやってくれと食事の支度を任せる。

 冒険者が怪我を負って動けない場合、俺だと運べないのでチェーザーレ達に来てもらうことにしたら、クドウとあと5人ついてくると言い出した。

 急を要するため、勝手にしろと言って索敵し、嫌な気配が多数ある方に向かって飛ぶ。




 暫くして聞こえてきた金属がぶつかるような音、咆哮、罵声。

 そこには、ど派手な赤い髪を逆立てた、勇者達と同じくらいの年齢の男が一人大剣を振り回しながらライオンの群れと戦っていた。

 男を取り囲むライオン達は雌。やたらとデカく、毛並みは黒に近い茶色。爪と牙が鋭利になっている他、足や背にバチバチと光る雷のようなものを纏っている。普通のライオンではあり得ないから、モンスター化しているということなのだろう。


「くそっ、しつこいんだよ!」

「グルゥォォオオオ」


 男はその雷の感電を警戒してなのか剣の柄に布を巻いていて、ライオンの爪や牙をいなすだけで攻めあぐねているように見える。

 男に次々と襲いかかる雌ライオン達から離れて優雅に座り見学する雄ライオン。なるほど、習性は地球のライオンと同じか。


「血飛沫と共に踊れ!」


 ひとまず、男の背後から飛び掛かろうとしていた雌ライオンを切り刻む。

 男は突如乱入した俺に驚いた様子だが、即座に飛び掛かってきたライオンがいたせいで俺に構う余裕はないようだ。


「ミドウ、魔法で攻撃! ナガサワ、当たらなくてもいい。弓を射れ!」

「はい!」


 後からやってきたバルトヴィーノが指示を出し、矢のような炎がライオンに突き刺さる。

 ナガサワと呼ばれた男子の放つ矢はへっぽこだが、乱入者を追い払おうとするライオンの足止めになり、その隙にドナートがどんどん眉間に矢を射かけ屠っていく。

 まさかの連携。勇者共いつのまにこんなに強くなった?


「リージェ、今のうちに群れのボスを!」

『了解!』


 ハーレムを潰されて怒りの咆哮を上げる雄ライオンを、ウォーターカッターであっさりと倒した。

 やっぱこの技使い勝手良いな。咆哮で動きを止めてる相手など恰好の的だ。




『――≪リージェ≫が経験値8,750獲得しました――』


 いつもの聞き慣れたアナウンスに、思わずショボ、と思ってしまった。

 最近は暗黒破壊神の欠片を取り込んだ強力なやつとばかり戦っていたからだろう。

 あ、それどころじゃなかった。冒険者は無事か?


「助かったぜ。あいつら電撃纏ってたせいで剣で攻撃できなくてさ」


 乗せてきてくれた商人の馬みたく黒焦げにならないようにするだけで精いっぱいだったと声をかけて来た。

 辺りを見ると確かに、雄ライオンの死骸の横に炭化した馬が一頭倒れていた。

 始めは電撃を飛ばしてきたそうなのだが、それで仕留めた馬が食べられなくなって雷を使わずに倒そうとしてきたんだろうって話ながら、男は年齢より幼く見える無邪気さで笑う。その笑顔になんかデジャヴ。


「で? お前らもこっちに来ていたんだな。工藤、長澤」

「お前……まさか梅山か?」

「えっ?! 梅山君? どうしたのその髪!」

「おいおい、久しぶりだからってまさか俺の事わからなかったってか? ひでぇなぁ」


 まさかのまさか。

 助けた男はアスーに召喚された勇者の一人だった。

 髪は黒髪だと色々不便なので染めたんだと。それにしても派手だ。



「取り敢えず、街道まで戻ろうぜ。ここじゃまた化け物共が集まってきちまう」

「あ、ああ、そうだな」


 道中、梅山は聞いてもいないことをベラベラと喋る喋る。こちらが口を挟む隙も無いぐらいに。

 ゲーマーだった梅山はファンタジー世界で勇者として召喚されたというのに、ずっと城に待機させられていたのが気に入らなくて抜け出して冒険者をしていたんだと。

 で、世界を見て回りたくなって商人の馬車に乗せてもらっていたら襲われ、商人を逃すために挑発スキルで引き付けながら街道から離れたんだと。


「ああ、そうだ。皇帝が聖女一行が来るまで待機とか言ってたけど、お前らがそうだろ?」

「そうだよ」


 梅山はミドウが聖女だと勘違いしているのか、彼女の方に向かって尋ねる。

 ミドウは梅山が苦手なようで、クドウの後ろにサッと隠れてしまった。


「そうか。ちぇ、もう少し自由にできると思ったのに、俺もついてねぇ。じゃぁ、とっとと行こうぜ」

「い、行くって?」

「決まってんだろ? 暗黒破壊神とかいう奴を倒しにさ」


 と、こんな感じで終始梅山のペースのまま、新たな勇者が一向に加わった。

 ミドウが聖女って勘違いはルシアちゃんを紹介したことで解けたんだけど、今度は勇者は聖女と結ばれるもんだっていってルシアちゃんの肩に手を回したりベタベタベタベタ。

 今も勇者たちの馬車じゃなく、ルシアちゃんの馬車に乗り込んでずっと喋り倒している。

 何だろう、俺、こいつ凄く嫌い。

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