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中二病ドラゴンさんは暗黒破壊神になりたい  作者: 禎祥
第七章 俺様、南方へ行く
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16

 さてここで問題です。町の人々を脅かしていた角熊を倒し、アスー皇国の首都アスーに向け出発しているはずの俺達は何故また森の中へと突き進んでいるのでしょうか?


『はい、エミーリオ君』

「申し訳ありません、リージェ様……俺が討伐証明部位を持ち帰るのを忘れたからです……」


 苛立ちを隠さない俺に、エミーリオが本気で申し訳なさそうに頭を下げながら答える。

 そう、そうなんだよ。昨日あれから意気揚々と倒したと町長に報告したんだよ。それなのに、あの孫が!


「手ぶらで倒したとか言われても信じられません」


 って!!

 仕方ないじゃないか! 確かに熊の群れのボスだと証明するあの特徴的な角が実は暗黒破壊神の欠片で、討伐と同時に俺に吸収されたとか説明したって理解されないどころかあらぬ誤解も受けるし。無いものは無いんだよ!!


「せめて代わりに証明となるようなものを持ち帰っていれば良かったのですが……失念しておりました」

『いや、エミーリオだけのせいではない。角は崩れてしまったし、俺様も失念していた』


 もう、溜息しか出ないね。

 そんな訳で、角は無くなってしまったがあの巨体で納得してもらうしかない、と死骸を回収しに来ているのだ。

 ついでに襲い掛かってくる熊の残党を倒しながら。


「そうだぞ、余計な足止め喰らいやがって。反省しろ」

『ぐっ』


 死骸を運ぶために借りてきた荷車の上に何故か乗っている1号が偉そうに言うが、何も反論できないのがかなり悔しい。

 因みに荷車って言っても、頑丈な板に車輪が4つついただけの簡素な造りのものだ。あの町の木こりが、まだあの辺りに凶悪なモンスターが棲みつく前に森の中で伐り出した木材を運ぶために作ったものだそうだ。森の中で使う目的で作られたから小回りが利くし重量もそれなりに乗せられるらしい。

 あの巨体を乗せても余裕があればさっき倒したのも持ち帰ろうか。運ぶのはエミーリオだけど。



「しかし、昨日の帰りは襲い掛かってこなかったのに、今日はずいぶんとしつこいですね。仇討ちのつもりなのでしょうか?」

『熊は一度獲物と定めると諦めないと聞くが』

「ボスが変わったのかもよ?」


 ほら、と1号が指をさす先に、群れをこちらにけしかけるように吠える巨体の熊がいた。

 角はないが、これまで倒した雑魚よりもでかい。


『はぁ、めんどくさ』

「来ます!」

「水よ、集いて俺様の命に従え! ウォーターカッター!」


 一瞬だった。

 エミーリオがこちらに走ってくる熊の足元横一直線に深さ10cm程度の溝を掘る。

 足を取られたその隙に、俺が溝に沿ってウォーターカッターを放つ。

 それだけで両断される。残党は所詮そのレベルなんだ。角つきのようにウォーターカッターを弾く固さもなければ、避ける素早さもない。


『さて、あいつを倒せば今度こそ終わりかな?』

「そのようですね」


 チャキ、とエミーリオも剣を構える。

 索敵も使うが、熊ほど強力なモンスターの気配はもうなかった。



「グォォォォォオオオッ!!」

「黙れ。天罰」


 鼓膜を震わす咆哮にエミーリオが一瞬怯むが、それだけだ。何の破壊力も持たないただの威嚇。そんなんじゃ、もう俺の足止めすらできない。

 逆に、立ち上がり咆哮するその隙だらけの腹に光線を飛ばしてやった。

 ドサリ、と上半身を失いゆっくりと倒れた。



「ふはは、はーっはっはっはぁーっ! 所詮貴様など俺様の敵ではないわ!」

『お前は何もしていないだろうが!』


 荷車の上で高笑いする1号に尻尾ビンタを見舞うと、俺が言いそうな台詞をアテレコしてやったのに、だって。失敬な。

 緊張が切れたのかツボに入ったのか、俺と1号のやり取りにしばらくエミーリオが笑っていた。



「さて、今度こそ終わりですね」

『そうだな。今度こそ文句はないだろう』


 いつもの如く倒した熊を鑑定して暗黒破壊神の欠片だけ取り出し、それ以外は疫病予防のためエミーリオの魔法で埋め、例の角熊は穴から引っ張り出した。おかげでエミーリオはフラフラだ。

 あ、MP譲渡とかってできるんかな?


「水よ、集いて俺様の命に従え。下僕に俺様の力を授けよ」


 以前水を作る際に回復魔法の力を溶かし込んだのを思い出しながら、休憩用に持ってきていた器に水を集める。

 見た目は何も変わらな……いや、うっすら光っているか? ドキドキしながらエミーリオに渡すと、相当喉が渇いていたのか一息に飲み干した。


「……なんだか、力が湧いてくる気がします」


 お、成功か。

 しかしエミーリオ、何の疑いもなく飲んだな。変な物だったらどうするんだ。

 そう呟いたらエミーリオはリージェ様のくださる物が変な物の訳ないじゃないですか、だって。やだ何この信頼。

 こうして復活したエミーリオと俺とで何とか巨熊を荷車に乗せる。と言っても俺はほとんど役に立ってないが。1号がテコの原理を教えて、俺がテコの重り役。何とかなるもんだな。



「もうすぐ日が暮れてしまいますね。野営にしますか」

「いや、町に戻ろう」

「『カナメさん?!』」


 森の中だと夕方でもかなり暗い。一番星と月が姿を現したばかりの、紫と赤のグラデーションを創り出している空を見上げて野営を提案したエミーリオに答える声はなんと、久しぶりのカナメさんである。

 どうやって来たのか……いや、愚問だった。あの気配のない美女が連れてきたのだろう。


『知ってて黙ってやがったな』

「へへ、驚いただろ」


 いたずらが成功したように笑う1号にはデコピンだ。

 ともかく、もう一度回復水を飲ませたエミーリオとカナメさんとで荷車を牽き、夜明けまでに町に戻ることに成功した。

 夜間であったにも関わらず門を開けてくれた門衛には感謝だな。


 結果だけ見れば、あれだけ腹立たしかったユーザが顎が外れるくらい驚く顔が見れたし、雑魚熊が持ってた暗黒破壊神の欠片も回収できて万々歳だったな。これで明日こそ本当に出発できる。

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