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中二病ドラゴンさんは暗黒破壊神になりたい  作者: 禎祥
第七章 俺様、南方へ行く
131/212

5

 ドナートは焦ったような顔で馬車を急がせながら道の少し離れた場所に生える木を指差す。


「見えるか? 幹に四本の線で傷がついている」


 ん~?

 あそこも、あそこにも、と指を指して教えてくれるが、薄闇の中では距離もあるしよくわからない。ましてや馬車は動いているのだ。景色がどんどんと流れ、指し示された場所も一瞬で後方に行く。ちょっとよくわからない。

 どっちにしろ、止まらない先頭馬車を不思議に思っているだろうアルベルトに状況を伝えないと行けないし、見てくるか。


「あまり森に近寄るなよ。アルベルトに伝えてくれ。ここはオルソの縄張りだと」


 オルソ? と思いつつ見に行くと、確かに幹に四本の縦傷があった。

 あいつよくこの暗さの中あの距離で見えたな。



『アルベルト、休憩はどうやらできなそうだ。ドナートが、ここがオルソの縄張りだと。確かに、あちこちの幹にマーキングがある』

「そうか。それで止まらずに走っているのか」

『オルソ、というのは?』

「熊種だ。ドナートは種類まで言っていたか?」


 いや、と首を横に振ると、そうか、と何か考えるように顎に手を当てた。


「熊種はピンからキリまでいる。動物としてのオルソは凶暴ではあるが、警戒心が強く慎重で襲いかかってくることはまずない」

『動物がモンスター化することがあるのか』

「人間だってモンスター化したのを見てるじゃないか。自然界だと……そうだな。ノルドで濃い瘴気に襲われたのを覚えているか?」


 言われて思い出すのはベネディジョンでのこと。

 どす黒く変色した建物の残骸に近づいたバルトヴィーノとチェーザーレが倒れたのだ。あの時は瘴気とやらが濃すぎて危うく死者が出るところだった。



「さすがにあそこまで濃い場所はそうそう無いが、この森を始め、人間が住めない場所ってのは少なからず暗黒破壊神の影響で瘴気が漂っている。それを吸い込み生き残っている奴が変化したものがモンスターって奴だな」

『すると、動物とモンスターの違いというのは』

「異形化していたり、姿が変わっていなくてもその生態とは全く異なる行動をするものという認識だ。攻撃魔法を使うようになるのはより強力な個体で、ダンジョンにでも潜らない限りそうそういない。ステータスが通常よりかなり高くて異常なほど攻撃的な個体をモンスターと分類している」


 

 道理で、旅の道中では動物型のモンスターばかりに遭遇するわけだ。あれはああいう種族のモンスターというわけではなく、もともと森に住む動物だったのだな。

 補足するとモンスターというのは全体的にとても凶暴で、他の生物を積極的に襲うらしい。

 俺のように人と共存している方が異常なのだと。って、誰が異常だコラ!


「で、モンスターも普通に交配して子供を作ることがある。この時期のオルソは子供を連れていて凶暴性が増しているんだ。モンスターでなくても厄介だぞ」


 ふむ、どこの世界でも子供を守る親は強いということか。


『いずれにしろ、熊型のモンスターとはオーリエンに行く道中で群れに遭遇したが余裕だっただろう? それほど焦ることとは思えないのだが』

「いや、あの時とは状況が違う」

『……勇者か』


 そうだ、とアルベルトは首肯する。

 あの時は守るべき存在はルシアちゃんだけだった。おまけに聖結界なんて身を守る手段もあったから戦いに集中することができた。

 だが、勇者達は? レベルが高いとはいえ、洗脳が解けた今どれだけ自発的に動けるかわからない。


「とはいえ、御者を代われる奴がいない以上、夜通し走り続けるわけにもいかないだろう。リージェ、ドナートに襲ってきたら迎え撃つってことで野営準備に入るよう言ってくれ」


 ドナートにそのまま伝えると、「了解」と短く告げて馬車を道の脇に入らせて停車した。

 後続の馬車もそれに続いて道の脇に避ける。戸惑いがちに馬車を降りてくる勇者達を放置し、エミーリオとバルトヴィーノが馬を休ませ、ベルナルド先生が竈を魔法で作り、アルベルト達が周囲を警戒するといういつもの野営の準備に入った。

 ルシアちゃんも率先して夕食作りを請け負ってくれている。それを見た女子たちが慌てたように手伝い始めた。うん、女の子が料理する姿って凄く良いね!



「我を害さんとする者よ、姿を現せ」


 さてさて、ニマニマしている場合じゃないな。ドナートが警戒してやまないオルソとやらはどんなものか。

 と、まだ俺の索敵範囲にはいないようだ。



「あの、アルベルト様、これを使っても宜しいですか?」

「それは……結界石か?」

「ええ、旅の間、野宿の時にあったら皆様ちゃんとお休みになれるのではと思って作っていました。これは簡易の術しか込めておりませんが一晩なら十分持ちます」


 女子たちに料理を任せたルシアちゃんが差し出したのは、白く輝く4つの小石。これで簡易とはいえルシアちゃんが眠ってしまっても大丈夫な結界が張れるのだ。

 馬車でずっと静かだったのは、小石に力を籠めるのに集中していたからだったのか。

 反対する理由がないと、すぐに起動してもらった。これでひと安心……か?


 視界の先には、まるで林間学校かのようにはしゃぐ勇者たちの姿。元気になったのを喜ぶべきか警戒心のなさを怒るべきか……。

 何となく拭いきれない不安に、俺とアルベルトはほぼ同時に溜息を吐くのだった。

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