10
まだまだ出発までかかりそうだ、と俺はスキル上げをすることにした。
いやほら、キャンキャン騒いでいるバルトヴィーノとか、要さんにつれなくあしらわれて捨て犬化しているチェーザーレとか、それを見てぐふぐふ笑っているルシアちゃんとかちょっと混ざりたくないんだもん。
「えっと、取り敢えず今経験値貯められそうなのは鑑定ちゃんかな？」
鑑定ちゃん、これなぁに？ と俺は手元に広げられた薬草類に全てを見通す神の眼を発動する。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーー
【ローザ カニーナ】
抗菌作用のあるローザの実。絞った油は高級品で食用にもなるが、貴婦人達の美白美容液としての流通が主。風邪薬や便秘薬の材料として使われる。そのまま食べるのはお勧めしません。
【カモミッラ】
鎮静作用のある植物。花・葉・茎に薬効あり。胃薬、石化解呪薬、鎮痛剤、保湿クリーム、咳止めなどの材料に使われる。また、エキスを髪の艶出しに使うなど美容液としても人気。そのままでも食べられますが美味しくないですよ。
【シトラートス】
消化促進、抗菌作用のある植物。葉や茎が防虫剤、鎮痛剤、下痢止め、水虫治療薬、胃薬、活力剤、気付け薬などの材料に使われる。肉や魚の臭み取りにも使われています。
【シクロピア】
疲労回復効果とアレルギー抑制作用のある植物。葉や花が気管支炎の薬や鼻炎薬、ポーションなどの材料に使われる。お茶として好まれて飲まれてますよ。
【ジーラ】
種に強い芳香があり、肉の臭みを取るのに欠かせないスパイス。パンに加えることもある。妊娠薬や媚薬の材料にも使われる。炒めてから使うとさらに香りが強くなりますよ。
【アロール】
鎮痛作用、血行を良くする効果のある植物。葉に薬効あり。鎮痛剤や造血剤、解毒剤、毛生え薬、疲労回復薬、解氷剤の材料になる。肉の臭み取りや煮込み料理に使うのが良いですが加熱しすぎるとえぐみが出るので注意してくださいね。
【ハルディン】
抗炎症作用、解毒作用のある植物。根に薬効あり。解毒剤、皮膚炎用のクリームの材料に使われる。料理では色付けなどで使われていますが薬効が強いので多量接種はダメですよ。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーー
ほうほうほうほう。鑑定ちゃんの一言コメントが食えるか食えないかになってきたな。俺の知りたいポイントをわかってらっしゃる。
名前が要さんに教えてもらったのと全然違うなぁ。一応順にローズヒップ、カモミール、レモングラス、ハニーブッシュ、クミン、ローレル、ターメリックだ。そしてサラッと解呪とか妊娠とかヤバめな単語が見えた。さすが異世界。
んで、あと三種類。要さんが知らないって言った植物がある。
薄水色をした茎と葉のそれには、水滴のようなものがボコボコついていて、正直見た目はちょっと気持ち悪い。触るとブニッと弾力があって、認識が水滴からカエルの卵に変わった。
あー、鑑定ちゃん、これが何か教えてくれ。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーー
【ウィンディア】
茎や葉に水分を多く溜め込む植物。その温度は非常に低く、解熱効果がある。解熱剤や火傷、湿布、耐熱剤などに使われる。生のまま食べても美味しいですよ。体が冷えるので食べ過ぎ注意です。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「あっ！」
『うむ、美味い』
生でも美味いという文字を見て、見た目の気持ち悪さも忘れて思わず口に放り込んでいた。要さんが凄い顔してこっちを凝視してくるけど取り敢えず怒ってはいなそう。
シャキシャキプチプチとした食感がとても面白い。青臭さはなくてプチッてした後に口に広がる水滴が氷のように冷たくてほんのり甘い。味は少しキュウリにも似ている。
「あ、本当ですね。美味しい」
俺の真似して要さんが口に入れると、その感想を聞いてチェーザーレやバルトヴィーノが我も我もと口に入れる。
結局全員が一束ずつ食べたせいでウィンディアは無くなってしまった。
「火傷した時に貼り付けてるあの薬草がこんなに美味かったなんて」
「また見つけたら買いましょうか」
どうやら食材としての使われ方は一般的ではなかったようだ。
冒険者なだけあってアルベルト達はウィンディアを知っているようだがそのまま食べた味に驚いていた。
で、次はこれ。
一見毒草にしか見えない、黒に近い濃い紫の植物。形だけならゼンマイに似ている。
鑑定ちゃん、これなぁに？
ーーーーーーーーーーーーーーーーーー
【エレツィオーネ】
興奮作用のある植物。混乱や虚脱の状態異常を直す気付け薬の材料にもなるが、男性向けの精力剤や不妊治療薬としての使われ方が主流。生で食べると独特の甘みがあって美味ですが夜眠れなくなりますよ。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーー
食べるかあぁぁっ！
思わず投げ捨ててしまった。こ、これはいわゆる男性が自信を取り戻すためのアレなお薬ですか。こんなの女の子一人しかいない中で誰かの口に入ったら大変なことになっちまう。
買ってきた二人には悪いけど燃やさせてもらおう。
「あっ！」
事情を知らないメンバーの悲鳴が聞こえたけど気にしない。
因みに最後の一つ、色はどピンクで渦が外巻きのゼンマイのようなものはグラヴィダンツァという名前で効能は女性向けの媚薬だった。妊娠しやすくなるらしい。
「あぁっ！」
勿論速攻燃やした。買ってきた二人はそれが何かわからずって感じだけど、ベルナルド先生は知っていたみたいで頭を押さえて呆れていた。先生、こいつら叱っといて。
残念ながらスキルレベルは上がらなかったけど、焦らず地道に行こう。次の場所ではまともなものが見つかると良いなぁ。
