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7話  王様とお姫様

 城に到着し、広い部屋に通されるセリア達。

 ソファーに座り辺りをキョロキョロ見回している。



「何かしらこの部屋? 随分広いわ……。ウチより広いわよ。分かったわ! ここが噂の舞踏会場ね!」


(ただの応接間だろう……)


「このふわふわのは本当に椅子なのかな? 座って良いの? 怒られないかな?」


(座る以外の用途がねぇよ……)



 田舎者丸出しのセリアとウェイブにツッコミを入れていくヴォルドゥーラ。

 冷静に考えてみれば、二人とも村から出たことがない。

 ヴォルドゥーラの居た城も大昔の貴族が別荘として建てた簡素な建物。

 いきなりこんな大きな城に招かれては取り乱すのも無理はないだろう。


 応接間の扉が開き入ってくる者が二名。

 豪華な衣装を纏った壮年の男性。

 ベルフコール王国国王リンドブルム。


 先程見た白いドレスを着た儚げな美少女。

 ベルフコール王国第一王女メリュジーヌ。


 国王と王女が現れてすぐセリア達は立ち上った。

 そして姿勢を正して深々とお辞儀をした。



「御初にお目にかかりますわ。フィル村からヴォルドゥーラさんの代理でやって来ました。セリアと申します。」


「は、はははは始めまして! おおお同じくウェウェウェイブともももします!」


「キュ!」



 先程ヴォルドゥーラに習った通り、先に挨拶をするセリア。

 セリアを通してウェイブにも伝えたのだが緊張で言えていない。

 ピロはテーブルの上によじ登り、セリアの真似をして頭を下げている。



「ははは、楽にしてくれ。待たせてしまったかな? 私はベルフコール王国国王リンドブルム。遠路はるばるよく来てくれた」


「始めまして。わたくしはベルフコール王国第一王女メリュジーヌと申します」



 物腰が柔らかく、気さくに話すリンドブルム。

 メリュジーヌもスカートの両端を摘み、一礼して挨拶を交わした。



(ほう、本当に王族直々に応接間まで来るとはな……。小さな村の住民に礼を尽くすとは大したもんだ)



 ヴォルドゥーラは素直に感心する。

 ゴーレムなどを配置している国だ。

 もっと圧力を掛けた物言いを覚悟していたのだが……

 セリア達の挨拶も雑なのに咎める様子もない。



「まあ座ってくれ。いやしかし……、困ったな……。魔王殿の代理が少年少女とは……」



 リンドブルムは苦笑いを浮かべて困り顔だった。

 当てが外れた、まさにそんな態度を匂わせていた。



「一応お話しだけでも聞いて、ヴォルドゥーラさんに連絡を入れようと思っているのですが……。子供相手では難しいお話しでしょうか?」


「いや、これは失礼。代理として来ている君達に失礼だったな。うむ……、実はメリュジーヌの事なのだがな……」



 セリアの言葉に気を悪くしたと感じたリンドブルムは謝罪して話を進めた。

 メリュジーヌはうつむき、その表情は暗い。



「隣の同盟国、アデズウス帝国の皇子がメリュジーヌに求婚を迫っているのだ。といっても、すでに婚約は成されているようなものなのだが……」


「キュー!」



 国を跨いだ大きな話を語るリンドブルム。

 すかさずピロはポーチから小さな玉ねぎを取り出した。



「オーケー、それは球根よピロ。こんにゃくもあったら完璧ね。面白いけど今は少し黙ってなさい」



 小ネタをかわし、ピロの頭を撫でながら国王に向き直るセリア。

 さすがに真面目な話をする王様の前でボケ続けるのは無理だった。



「皇子様からのプロポーズとか素敵じゃないですか!」



 気を取り直し、少し興奮気味のセリア。

 しかしリンドブルムは神妙な面持ちであった。



「これは……脅迫なのだよ。メリュジーヌを差し出さねば、この国を攻め滅ぼすという……な。何せこの件を受け入れなければ同盟を破棄し、友好の証として贈った石巨人、ゴーレムを起動すると言ってきおった……」


(魔術大国アデズウスか……。確かに良い噂は聞かないな。強力な魔導兵団を組織し、他国に大きな顔をしていると聞く。なるほど……、さっきのゴーレムは街を守るための物ではなかったか)



 真剣な表情を浮かべるリンドブルム。

 ヴォルドゥーラもいつになく真面目である。

 先程のゴーレムが暴れだしたら騎士十人がかりでも対処は難しい。

 何体配置されてるか知らないが、街を丸ごと盾に取られたも同然だった。

 浮わついた話しでないと分かった瞬間、セリアは激昂した。



「何よそれ! あんまりだわ! 少しでもときめいた自分が許せないわ!」


「ひどい……」



 セリアとウェイブは激しい憤りを覚える。

 簡単に言ってしまえば、メリュジーヌ姫は生贄にされるのと同じなのである。



「そんな暴挙に出る国に大切な姫を渡したくはない……。こちらでも色々対策を考えていたのだがね……。例えば……、キミ達はレイルハーティア教団を知っているかい?」



 国王の質問にかぶりを振るセリア達。

 教団といえば宗教なのだろうが、フィル村の住民は神など信じていないのだ。

 豊作だろうと凶作だろうと、運命を受け入れるという、言ってしまえば諦めの早い集団なのだ。



「近隣諸国で広まっている大規模宗教だ。自然神レイルハーティアを崇める組織。その象徴として神の力を宿すと言われる神器をいくつか祭っている。その一つにメリュジーヌが呼応したのだ。教団はメリュジーヌを信仰対象として祭り上げてきた。私はこれを好機と考えたのだ……。国を上げて盛大に神の子として祭り上げればアズデウス帝国も無理は言って来ないだろうとな……」



 長々と語る国王の話しをうんうんと聞いているウェイブ。

 一方のセリアは無言で顔をしかめ、ドンドン不機嫌になっていった。



「しかしアズデウス帝国は納得しなかった。神の子として拘束し、婚約自体を反故にでもしようものなら……。たとえ多くの民に理解のある大規模宗教といえど排除すると言って来たのだ。こうなるとメリュジーヌを亡くなったことにして地方にやるか……。拐われた事にして隠し通すか……。依頼というのは魔王殿の立場から意見を聞こうと考えたのだよ」


(あくまで王女を渡したくないらしいな。だが難しい問題だ……。ゴーレムの配備を受け入れた時点で詰んでいる。どっちにしろ、最終的にはこの国も奪うつもりだろう。遅いか早いかの違いだ……)



 リンドブルムの言葉とヴォルドゥーラの考えを聞き、眉をひそめていたセリアが口を開く。

 小難しい話などどうでも良いと感じるセリア。

 セリアが気になっているのはそこではなかった。



「メリュジーヌ姫様の意見が聞きたいです。」



 セリアは睨み付けるかの如くメリュジーヌを見つめた。

 メリュジーヌは萎縮したように言葉を紡ぐ。



「わたくしは……、この国のためになるのなら……」



 この一件を受け入れるかのような姿勢を見せるメリュジーヌ。

 ぼそぼそと話す口振りに苛立ったセリアは、テーブルを両手で叩き立ち上がった。



「私は! メリュジーヌ姫の本心が聞きたいの!」


「わ、わたくし……は……」



 セリアの気迫に押され、メリュジーヌが困惑していると応接間の扉が開き……

 挨拶もせずに無造作に入って来た偉そうな若者。



「ここに居られましたか……。ギーブル王子から城に魔王を呼んだとお聞きしましたが? 正気ですかな……、リンドブルム陛下」



 黒を基調とした身分の高そうな装いをした青年。

 金髪で美しい顔立ちをした二十歳前後の男だ。

 だがその顔立ちが台無しな程に不機嫌そうな表情をしていた。

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