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5話  首都への旅立ち

 村に戻って来たセリアとウェイブ。

 村の入り口で心配そうに待っていた村長は目を丸くしている。



「コパルン退治に行ったのに……なんでコパルンを引き連れて来るんだ……」


「その事なんですけど……」



 セリアとウェイブはコパルンが林道で悪さをしていた事情を説明した。

 そしてコパルン達に謝りに来させたのだ。



「なるほどな……。確かにいつもは楽しそうに悪戯するコパルン達だったが……。ここ数日は切羽詰まったような表情で悪さをしていたしな……。まあそういう事なら咎めんよ。我々の身を案じてくれたのだしな」



 村長はコパルンを本当に始末しようという気はやはりなかったようだ。

 フィル村にとって、コパルンとは愛しい隣人。

 手の掛かる子供のようなものなのである。



「ところでウチの草むしりはどうなってるの? 報酬にウチで取れたお野菜を沢山用意してるのだけど」



 もう夕暮れだと言うのに近所のおばさんが無茶な依頼をして来た。

 この村の人々はまるで空気が読めないのだ。



「ええ~、もう今日は疲れたよ~。服だって泥だらけだし~」


「そうだよね…僕ももうフラフラで……」



 セリアもウェイブももはや体力の限界でそれどころではない。

 予想外の大仕事をも成し遂げたのだ。



「そうなの? せっかく行商から甘いイチゴも沢山買い取ったから、食べてもらおうと思ったのに……」


「ほらウェイブくん行くわよ! 草むしりなんてちゃっちゃと終わらせるわ。どうせもう汚れてるんだからちょうど良いのよ。この程度で弱音を吐いていてはヴォルドゥーラさんの弟子は名乗れないわ!」



 おばさんの言葉でセリアの体力は回復した。

 この村ではイチゴの栽培などしていない。

 めったに食べられない御馳走なのだ。



「うぇ!? 無理だよ~。 フェールおばさんちの庭無駄に広いんだもん!」



 ウェイブの言う通り、確かに今から始めるのは自殺行為ではある。

 セリアはふと、まだそこに居るコパルンの集団に視線を移した。



「あんた達……、草むしり手伝いなさい。村に迷惑掛けた上に私達に無償で仕事させたんだから……そのくらい良いでしょう? ね? お・ね・が・い」



 セリアは可愛らしくお願いをした。

 左手で子コパルンを掴んで宙ぶらりんにし、右手には炎が燃え盛っている。



 ーーーーーーーーーー



「ちゃんと根っこから抜くのよ! 本当にただむしってるだけじゃすぐ生えてくるからね!」


「キュー!!」


「キュッキュ! キュッキュ!」


「キューキュキュー!」


「キュキュ! キュッキュー!」



 セリアの号令でとても楽しそうに草をむしるコパルン達。

 それに釣られ、セリアとウェイブもいつのまにか全力で草むしりをしていた。

 かなり早く小一時間程で終了である。



「どーよ! 私が一番多いわ!」



 額の汗を拭いセリアが勝ちどきを上げた。

 セリアは基本サボリ魔であるが、重度の負けず嫌いでもあるのだ。



「あらあらありがとうね。ほら、報酬のお野菜とイチゴよ。ミルクもあるからイチゴはここで食べていくと良いわ」


「やったぁぁ!」


「わあ、美味しそう……」



 おばさんの持って来たイチゴを大喜びで食べ始めるセリアとウェイブ。

 コパルン達はゾロゾロと林に帰って行こうとしていた。



「あんたたち! どこ行くのよ?」


「キュ?」



 まだお仕置きは終わってないと言わんばかりのセリアの言葉に、少し怯えたような反応を示すコパルン達。



「こっち来てイチゴ食べなさいよ! あと野菜は全部持ってって良いわ」



 こっちに来なさいと手招きするセリア。

 基本的に村の中で作られた野菜などは村で配っている。

 ヴォルドゥーラのように報酬として貰っても仕方がない。



「キュ? キュー?」



 理解出来てないのか、混乱している様子のコパルン達。

 セリアは諭すように語りかける。



「ほとんどあんた達が働いたんだから、この野菜はあんた達に貰う権利があるのよ。キューキュー言わず貰って来なさい。私達を泥棒にさせる気?」


「キュ! キュー!」



 セリアの指示を受け、嬉しそうに大根や人参を抱えるコパルン達。

 皆でイチゴを食べきり、コパルン達は跳び跳ねながら林に帰って行った。



「あら? あんたは帰らないの?」


「キュ」



 セリアの隣には小柄なコパルン。

 何度も鷲掴みにされたコパルン一匹がセリアから離れようとしない。



「セリアちゃん気に入られたみたいだね」


(こいつずっとお前の側に居たヤツだな。お前を庇ってワーウルフにも体当たりしてたやつだ)



 ウェイブとヴォルドゥーラの言葉を聞き、子コパルンを抱き上げるセリア。

 あの死闘を共に戦ったコパルン。セリアは不思議な縁を感じていた。



「そっか、私としたことがお礼を言ってなかったわね。助けてくれてありがとうね。お礼にあんたを私の弟子にしてあげるわ! 魔王の孫弟子よ。一緒に都に行って立派なコパルンになると良いわ!」


(立派なコパルンってなんだ……)


「キュキュー!」



 セリアは強引にコパルンを弟子に迎えた。

 勝手に孫弟子が増えたヴォルドゥーラは唖然とするしかなかったが、コパルンの方は嬉しそうに両手をばたつかせている。



「名前も必要ね……何が良いかしら……」


(オスかメスかも考えて決めた方が良いんじゃないか?)


「それもそうね、あなたの名前はピロよ!」


(シカトかい! しかも早いな!)



 名付けという重要責任を抱えたセリア。

 ヴォルドゥーラの意見も聞いた上で聞き流し、秒で問題を解決させた。

 こうして新たな仲間を加え、林に薬草集めに向かったり、大ムカデを退治したり、草むしりなどやっている内に……

 あっという間に三日が経過した。



 ーーーーーーーーーー



 旅立ちの日。

 自宅で首都に向かう準備をするセリア。



「どう? 似合う?」



 足元まである大きなマントを着用しているセリア。

 ヴォルドゥーラの城にあった戦利品から使えそうな物を持って来たのだ。



「よく似合ってるわよ。でもお母さん心配だわ……。あなたいい加減なんだもの……。都で恥かかないようにするのよ」


「いつでも帰ってくるんだぞ……ピロもな、くれぐれも気を付けて……。うぅ……ピロォ……」


「任せてよ!」


「キュー!」



 母と父の心配をよそに、腕を上げて張り切るセリアとピロ。

 父はピロの心配を過剰なほどしているが気にしてはいけない。

 ピロの身体には可愛らしいポーチがくくり付けられている。



「セリアちゃ~ん! 騎士様が到着したよ~」


「あら、来たみたいね! じゃ行ってくるわ!」



 家の外からセリアを呼びに来たウェイブ。

 セリア達は村の入り口に向かい、村長と話をしている二名の騎士の側に整列した。



「……ということでこの二名……、いや三名をヴォルドゥーラさんの代理人として同行させてもらいたいのですが……」


「なるほど……、それなら陛下にお伝えしますが……。本当に大丈夫ですか? 見たところまだ子供と……、魔物のようですが?」



 村長から事の経緯を説明された騎士。

 話の通りの子供で心配を募らせているようだ。



「甘く見ないでくださらないかしら? 魔王の一番弟子にして魔王を継ぐものセリアと……、魔王に剣術指南を受けた騎士志望のウェイブくん。そして私の抱き枕……じゃなかったわ……。魔王の孫弟子のピロよ! そんじょそこらの子供じゃないですわ!」


(言葉使いがおかしいぞセリア……)



 ここぞとばかりに饒舌に語るセリアにヴォルドゥーラがツッコミを入れる。

 今回の件は渋っていたが、セリアは都に行ける日を心待ちにしていたのは間違いないのだ。



「そ、それは失礼した。ま、まあとにかくすぐに出発するので乗ってくれ。国王陛下は一刻も早くと仰せなんだ」



 騎士はセリアの気迫に押され、無理矢理納得させられた。

 かくしてセリア、ウェイブ、ピロは馬車に乗り……

 一路ベルフコール王国の首都、エントリバースへ向かう。


 果たしてヴォルドゥーラ帝国建国は成るのか?

 ウェイブは騎士になれるのか?

 セリアは結局何になるのか?

 ピロは仕える相手を間違えていないのだろうか?


 夢に向かう小さな一歩が今、ここから始まる……

 旅の終わりなど、想像もしないかのように……

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