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4話  最初の炎金術

 先行した子コパルンに着いて林を進んでいくセリア達。

 人の頭程の大きさの穴があちこちに空いている広い場所に出た。



(ここはコパルンの寝蔵のようだな)


「何? この子自分の家に私達を招待したって訳?」



 ヴォルドゥーラとセリアがひそひそと話をしていると、林の奥から人影が現れた。

 犬の顔をした毛むくじゃらの大男。こいつが親玉なのだろう。



「随分大きなコパルンね。あんたがこの子達に悪さをさせていた奴ね!キツくお仕置きして上げるから覚悟しなさい!」


「キュー……キュキュー……」



 ひたすら強気な態度を崩さないセリアだが……

 大男を見た案内役の子コパルンはその短い手で顔を覆い震えている。



「ようやく連れて来たのか……。そろそろテメェラ食っちまおーかと思ったが……。人間の子供二匹。良いねぇ。今日は御馳走だぁ……」



 大男はセリアとウェイブを見ながら舌舐めずりをしていた。

 ジュルジュルと品のない音を立ててセリア達に近付いてくる。



「セセセセリアちゃん……。ここここれ、コパルンじゃないよ……」


(ワーウルフだな……。主に夜道で人を襲い食らう魔物。コパルンを脅してここに人間を誘い込ませそうとしたんだろう。逃げた方が良い……)



 声も身体も震わせるウェイブ。

 ヴォルドゥーラも真面目な口振りで撤退を促している。



「女は後だな……、逃げられると思うなよ? まずは足を食い千切って……生きたままゆっくり味わわせてもらおうか……うお!?」



 脅しをかけながら近付いてくるワーウルフ。

 セリアはワーウルフに躊躇いもなく火球をぶつけた。

 しかし一瞬たじろいだ程度で致命的なダメージはなさそうだ。



「ウェイブくん! 戦闘準備よ! 人を食べるなら仕留める他にないわ!」


「わわわわかったよ!」


(やんのかよ!? 無理はするなよ! 可能なら逃げろ! コパルン共とは違う、確実に命を狙ってくるぞ!)



 セリアは明確な驚異を前に、戦う事を決意する。

 むざむざ食べられる気はないし、臆病なコパルンを利用するその性根が気に食わなかったのだ。

 それをウェイブは震えながらも了承し、ヴォルドゥーラはあくまで撤退を視野に入れて臨むよう警告した。



「ぐ……、エサの……分際でぇ!」



 威嚇するワーウルフに、ウェイブは勇気を振り絞り斬りかかった。

 ワーウルフはその剣を飛び退いてかわし、反撃に移る。



「怖い怖い怖いぃぃ!」



 ウェイブは叫びながらワーウルフの爪をかわし続けていた。

 攻撃は苦手だが、身のこなしならセリアより断然上である。

 ワーウルフとウェイブは互いの攻撃をかわしながら、一進一退の攻防を続けている。

 セリアも隙を見て火球を飛ばしているが全く当たらない。



「埒があかないわね……。もっと強力な技ないのヴォルドゥーラさん。ウェイブくん一人じゃさすがにキツそうだわ。下手に火の球投げてもウェイブくんの邪魔になるだろうし……」


(これ以上やったら林が……。むしろいつ燃え広がってもおかしくないんだから少しは躊躇しろよ……)



 機敏に動き回るワーウルフを相手に、中々攻撃に移れないセリア。

 ヤキモキしているセリアは他の手段を取りたいのだが、周囲の被害と撤退を考えるヴォルドゥーラは行動を決めかねていた。


 ワーウルフは思いのほか手こずっている事に徐々に苛立ちを覚えている。

 その隙を逃さず、ウェイブが斬り込んだ。


 ウェイブの剣がワーウルフの脇を掠める。

 ワーウルフは咄嗟に距離を取り、切られた腹部を押さえていた。



(お~! やるじゃないかウェイブ!)


「さすが、やれば出来る子ウェイブくん! そのままやっちゃって~!」



 声援を飛ばすヴォルドゥーラとセリア。

 何故かウェイブの顔色はすぐれなかった。



「ききき切った……、僕が……、あわわわわ……」


「ちょっと、落ち着きなさいって!」



 ウェイブは初めて剣で生物を傷付けた事で動揺していた。

 セリアの声すら届かないほどに。



「くそ! 危機感のないエサが彷徨く場所が見つかったと思ったのに……。だったら……お前からだ!」



 ワーウルフは脚のバネを生かしセリアに飛びかかって来た。

 狼狽えているウェイブも反応しきれない。



「えっ……」


「キュー!!」



 その牙がセリアに届く直前で、子コパルンがワーウルフの腹部に体当たりをした。

 僅かにワーウルフの体勢が崩れた事で、その攻撃を辛うじて避けられたセリア。

 ワーウルフは勢い余って倒れ込み、同じく倒れたコパルンを睨み付ける。



「この……、望み通りテメーから食ってやらぁ!」


「キュー!!」



 起き上がったワーウルフが子コパルンに近付いていく。

 その牙が子コパルンに迫り、子コパルンは涙を流しながら硬直していた。

 セリアはその様子を見てられず、なりふり構わずワーウルフに向かって飛び出した。



「セリアちゃん!」


(バカ! 無茶だ!)



 ウェイブとヴォルドゥーラの制止も聞かず、ワーウルフに飛び蹴りをかますセリア。

 脇腹に蹴りが食い込み、吹き飛ぶワーウルフ。



「く……、次から次へと……、もう……許さねぇ!」


「許さないのはこっちのセリフよ! いたいけな私を狙い、私を庇ったコパルンを泣かせた罪、万死じゃ済まされないわ! 覚悟しなさい犬男!」



 激昂するワーウルフに臆することなく、啖呵を切るセリア。

 セリアは右手を地面に向けたまま、力強く手を開く。

 指輪からは赤く淡い光が溢れ出した。



(わかった……、やって見せろセリア! 大気から塵を集め、虚空に示せ!)



 ヴォルドゥーラの言葉を受け、セリアは右手に意識を集中する。

 その手の内に炎が逆巻き、それは徐々に細長く伸びていく。



「火の玉なんざ当たんねぇよ!」



 ワーウルフはセリアに向かい駆け出した。

 あっという間にセリアの前に、そしてその爪がセリアの喉元に伸びて来る。



「想いをここに! 炎金術エバポレート!」



 セリアの叫びと呼応し、炎が形を変える。

 その手の内に、美しく輝く緋色の剣が現れた。


 セリアの喉元に向かっていたワーウルフの右腕が宙を舞う。



「な、え?」



 丸腰だったはずの相手に腕を切られ動揺するワーウルフ。

 セリアは剣を上段に構え、踏む込みと同時に全力で振り下ろした。


 ワーウルフは頭から両断され、叫ぶ間もなく大地に倒れる。

 その身体は切り口から燃え盛り、やがて灰となって空に舞った。



「上手くいったわ! 凄く綺麗……素敵!」



 セリアは自分で作った緋色の剣を掲げご満悦だった。

 その瞬間緋色の剣は炎に変化し、大気に混ざり消えてしまった。



「あら? 消えちゃった……」


(大気中の素材だけでは足らないからな。セリアの精神力から作り出した魔力を簡易的に変換した物質だ。魔力の繋りが無くなれば消える)


「まりょく? なにそれ?」



 残念がるセリアに説明を施すヴォルドゥーラ。

 セリアは難しそうな単語に興味を示すが、あまりの出来事に固まっていたウェイブと子コパルンがセリアの元に駆け寄ってくる。



「凄いやセリアちゃん! ヴォルドゥーラさんみたいにカッコ良かったよ!」


「ふっふっふ……、それはさすがに言い過ぎね……」


(ウェイブのやつめ……、良い子に育ちやがって……)



 大興奮のウェイブの称賛が飛んで来る。

 ウェイブは身振り手振りではしゃいでいて、セリアとヴォルドゥーラはさすがに照れていた。



「キュー! キュキュー!」



 コパルン達も跳ね回り喜びを表現している。

 同じように跳ね回る子コパルンの頭を鷲掴みにし、宙に吊り上げるセリア。



「キュキュ?」


「待てやワンちゃん。一緒に喜んでいるようだけど……。私達を生け贄にしようとしたのにただで済むと思ってんの?」



 疑問を抱いている様子の子コパルン。

 セリアは笑顔でありながら、その表情には僅かに怒りが滲み出ている。



「ま、待ってセリアちゃん! きっと僕達に助けを求めてたんだよ!」


(おそらく人間が間違って林に入らないように警告していたんだろう。本来は寂しがり屋の優しい生き者なんだよ。お前達の強さを見て、子供ながらに何とかして貰えると思ったんだろうな)



 ウェイブの制止とヴォルドゥーラの考察。

 それを聞いたセリアの怒りは簡単に走り去っていった。



「なんだ……そういう事。ならまぁ、許してあげるわ! もう悪戯しちゃ駄目よ?」


「キュキュキュー!」



 優しい笑顔でそう告げるセリア。

 子コパルンは嬉しそうに両手を広げ喜んでいる。

 なお、以前鷲掴み宙吊りのままである。

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