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10話  化物姫

 宿の中に入ると一階は受付と酒場が一緒になっているようで、まだ外も明るいと言うのに活気に溢れていた。

 メリュジーヌはフードで顔を隠し、セリアとピロの後に着いて来ていた。



「いらっしゃい。あら? 随分可愛いお客さんだね。お使いかい?」



 受付の女性が陽気に語りかけて来る。

 年齢的には三十手前といったところだろうか。



「いえ宿の予約を取っているのですが……。ヴォルドゥーラの名前で予約は入ってますか?」



 セリアの発言でその場が静まり返る。

 受付の女性だけでなく、近くのテーブルで酒を飲んでいた男達も会話を止めた。



「ああ、しばらく滞在するかもしれないって言うから部屋は空けてあるね。宿泊費も前払いで貰ってるよ。アズデウスの皇子さんや使いの者が近寄らなそうな宿を選んだんだろうけど……。そこまでして王様は何企んでるんだろうね……」



 受付の女性は深い溜め息をつき、渋々と言った感じで対応を始めた。

 先程の気さくな雰囲気は消え、明らかに迷惑そうな雰囲気を醸し出している。



「あんた達噂の魔王の使いかい? 難儀なもんだねぇ。何だって魔王の手下なんかやってんのさ……。面倒事はやめとくれよ? あたしらは姫様の御結婚を妨害されたら困るんだ」



 突然態度を変え不機嫌になる女性。

 どうやらこの街では魔王ヴォルドゥーラの話しはかなり広まっているようだ。

 話し振りからすると、恐ろしい魔王というイメージは全く持っていなさそうである。



「どういう意味ですか? 姫は無理矢理……」


「関係ねぇんだよ嬢ちゃん」



 セリアの言葉を遮り一人の中年男性がテーブルから立ち上り話しかけて来た。

 セリア達の側に寄った男の酒気は酷く、相当の酔っ払いのようだ。 



「姫様がアズデウスに嫁がなきゃ俺達の身が危険なんだ。姫一人の為に戦争なんて誰も望んじゃいないんだよ。頼むからよ、魔王の旦那に言っといてくれや……。王様に余計な知恵を与えないようにってな」


「そうだ、首都防衛のためとか言って街中に置かれてやがる石人形……。あれだって俺らが逆らわないように置かれてるんだぜ? こないだちょっとぶつかった奴が街の外まで追いかけられてたしよ」


「姫にはさっさとアズデウスに行ってもらって、せめてあの人形だけでも撤去してもらわなきゃな、安心して外も歩けねぇよ。」



 酔っ払いの愚痴をを皮切りに、口々に文句を言い出す男達。

 セリアの隣でメリュジーヌは震えていた。

 心配そうにメリュジーヌのスカートを掴むピロ。

 セリアも怒りで肩を震わせ、どうにかなりそうだった。



「つまり……、メリュジーヌ様が……どうなっても……」


(落ち着けセリア! 分かりきってた事だ。誰も争いなんか望んじゃいない……。こいつらだって守るべき家族や生活があるんだ)



 振り絞るように呟くセリアをヴォルドゥーラは論した。

 セリアだってそんな事分かってはいる。

 それでも蔑ろにされているメリュジーヌ姫の事を思うと、込み上げてくる怒りを抑えられなかったのだ。



「行きましょう……」


「え、しかし……」



 セリアはメリュジーヌの手を取り宿を後にした。

 止まっている馬車を素通りし、歩き続けるセリア。

 街中にある川に掛かる橋の上まで来た所でメリュジーヌが叫んだ。



「セリアさん! どこまで行くのですか!?」



 メリュジーヌの言葉で立ち止まり、振り返るセリア。

 その目には涙が溢れ、頬を伝い落ちていた。



「何故……、貴女が泣くのですか?」


「だって……、酷いじゃない! こんなの……ただの生け贄よ! 許されて良い事じゃないわ!」



 驚いたように小さく呟くメリュジーヌ。

 セリアは叫びながら号泣し、今歩いた橋の袂の両脇に見える石人形が目に入る。



「あれだってメリュジーヌ様は関係ないわ! 一番の被害者はメリュジーヌ様じゃない!」


「キュ! キュキュ!」


「セリアさん……、ピロさん……、わたくしは……」



 泣きながら叫ぶセリアと、跳び跳ねて憤慨している様子のピロ。

 双方を見つめ、メリュジーヌは下を向く。

 そしてかぼそく声を出したところで、それを遮る者が現れた。

 酒場に居た酔っ払いの男達が追いかけて来たのである。



「よう嬢ちゃん、話しの途中だぜ? 嬢ちゃんの話しなんか誰も信用しないとは思うがな……。俺等もちょっとムキになり過ぎたわ。一応魔王の旦那や陛下には黙っててもらいたいんだが……。ちょっと酌でもしながら話しに付き合ってくれよ。」



 下卑た笑みを浮かべながら話す酔っ払いの男。

 すでにセリア達は数人の男達に囲まれていた。



「こいつら……」


(子供を取り囲んで威圧した上に脅迫か……。情けないにも程があるぞ……。こういう教育に悪い輩はお仕置きが必要だな……)



 セリアの悲しみは一瞬で怒り一色に染め上がった。

 忍耐強いヴォルドゥーラでさえ、もはや穏便に済ますつもりはなかった。

 セリア達の怒りに触れた事に気付かぬ男の一人が、メリュジーヌのフードを除き込む。



「お、こっちの嬢ちゃん偉いべっぴんじゃねぇか! お前も一緒に……」



 男は言いかけて大きく後ずさった。

 酔いが一瞬で冷めたらしく、引きつった顔をしている。



「おい……、まさか、メリュジーヌ姫……」


「は? 嘘だろ!」


「やべぇって……」



 自分達の今の行ない、そして先程の暴言の数々を思いだし青褪める男達。

 そこに宿の受付に居た女性が走ってきた。

 メリュジーヌ達の前まで来て地面に手を付いて頭を下げる女性。



「い、いま騎士様が見えられて……。ま、まさかメリュジーヌ姫様だとは……。御無礼を……何卒、何卒お許しください!」



 素通りして来てしまったので、馬車を引いていた騎士が驚いて事情を問い詰めに入ったようだ。

 続いて猫を抱いた小さな男の子も走ってくる。



「おかあさんどこ行くの~? あ、さっきのお姉ちゃん!」



 どうやら受付の女性は男の子の母親のようだ。

 血相を変えて飛び出した母親を心配して追いかけて来たのだろう。



「ジル! あんたは部屋に戻ってなさい!」


「え~やだ~」



 すがるジルを一喝する女性。

 こんなところを見せたくないし、関わらせたくもないのが見てとれる。



「いや、ちょっと待てよ。なんでわざわざこんな所に……。まさか国外逃亡する気か!?」



 最初に話し掛けて来た男が開き直ったようにセリア達を問い詰めた。

 先程の無礼な態度すら踏み倒して揉み消すつもりなのだ。



「そんな! わたくしは……」


「いい加減にしてよ! 寄ってたかって大の大人が!」



 無茶苦茶な言い分に怯えながらも声を振り絞るメリュジーヌ。

 セリアはすでに爆発寸前である。



(よし、こいつらには少し痛い目に……。ん? なんか妙な気配が……)



 ほんの一瞬だけ辺りを覆う違和感に反応するヴォルドゥーラ。

 その時、橋の反対側からやって来る馬車に異変が起きた。



「ヒヒィィィン!」


「おわ! どうした!?」



 馬車を引く馬が突然暴れ出して荷台が外れ、馬はそのまま酔っ払いの男達に襲いかかって来たのだ。

 皆その場から急いで離れるも、腰を抜かし尻餅を付いた一人の男が取り残されている。



「ひ! ひぃぃぃぃ!」



 叫ぶ男の前に歩を進めたメリュジーヌは軽く馬の首筋を押さえ、片手で馬を止めた。

 走って来た馬の勢いを片手で止めるなど、およそ人間の出来る事ではない。

 メリュジーヌが得たという神の力の効果なのだろう。



「落ち着いて……。大丈夫ですよ……」


「ブルルルィ……」



 優しげに馬に語りかけるメリュジーヌ。

 すぐに馬は安心したように大人しくなった。



「ば……化物姫……」



 尻餅を付いている男は咄嗟にそう呟いた。

 メリュジーヌの一連の行動に理解が追い付かず、恐ろしさを感じたのだ。



「あんた……、助けてもらっておいてなんて言い方!」


「良いのです……。その……通りですから……」



 セリアが声を荒らげ、男を責め立てるのを制止するメリュジーヌ。

 その表情は何もかも諦めたように悲しさに溢れていた。



「にゃ~!」


「タンタル! 降りといで! 駄目だよそんな所登っちゃ!」



 橋の袂に立っている一体のゴーレムの頭に猫がよじ登っている。

 今の騒ぎに怯えたのだろう。

 猫を捕まえようとジルもゴーレムをよじ登ろうとしていた。



「ジル! やめな!」


「おい! そんな事したら!」



 受付の女性と男が慌てて叫ぶ。

 時すでに遅く、ゴーレムの目が光り稼働を始めていた。

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