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処方箋

作者: 高橋まりあ


 涙が止まらなくなったことが、無い。泣くということは、自分の感情に酔うことであると同時に冷静な自分と出会うことでもある。これが、一般的なことかは知らない。


 つらいことや悲しいこと、生きているとそれなりに傷つくことが誰にでもある。そういう時、私は泣いてみる。


声を上げて

声を押し殺して

涙をぼろぼろ流して

一滴の涙を頬につたわせて


 最終的に冷静になり、やめる。かわいそうでもないことや泣くほどのことでもないこと、そういう風に冷静に考える自分と出会うからだ。


 冷静になり、泣くことをやめても悲しさに襲われる。感情に理性で蓋をしているのだから当然のことではあるが。そういう時、私は自分の命を止めない為に行われる生物としての営みに身を委ねる。


食べる

寝る


栄養を補給し、休息をとる。あくまで必須栄養素ではなく、食べたいと感じたもの。効果的な睡眠方法や体勢ではなく、眠れる瞬間に寝る。

 人はこれを現実逃避と呼ぶかもしれないし、代替行為ととるかもしれない。こうやって誤魔化す、自分を透明にする。否、自己を塗りつぶすことで誤魔化すのだ。


 一人の夜。歌を、歌う。笑う。踊る。

知らず知らずのうちに話しかけた。ここに相手はいないのでスマートフォンの音声認識機能に、だ。悲しい。

「かなしいときー」

古い、お笑い芸人さんのネタと同じトーンだった。音声認識は大変正確に私の声を捉えた。優しい声が手のひらの上、スピーカーから返事を寄越す。


「私は、かなしいときはチョコレートを処方します。」


そうか、チョコレート、処方してくれるのか。


 翌朝、会社につく前にコンビニエンスストアでチョコレートを買ってデスクで食べた。幸せの味はしなかった。甘かった。


甘かった。


 少しだけ、救われた気がした。これでいいのだ、今はこれでいい。

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