決闘……ちょっとやり過ぎたかもしれない
僕は先の戦で家族を失い、1人寂しく朽ち果てかけたところをじいちゃんに救われた。両親ともに商人をしていて、僕も将来は商人になる予定だった。
じいちゃんはこの国の中心にある王都に住んでいる。王都には来たことがなかったので色々と驚かされた。その中でも憧れの学園を見れたときには、もう死ぬのかと思う程だ。
この世界の商人の卵が集まる商人学園。ここの学園長は黄金王と呼ばれていて、世界で一番金を持っていると言われている。
なんと、じいちゃんはここの学園長だった。ビックリ。そうと知った僕は必死で頼み込んだ。入学させてくれ、と。
二つの条件を課されたが、なんとか入学できた。
入学当初は色々と大変だった。そう、僕達商人には大事な信頼、というものがある。しかし、全く伝のない僕にはこれを培うのはとても大変だった。
だが、それも簡単に終わってしまった。
「ユシファ。何を考えているの?」
そう後ろから声をかけてきたのは幼馴染……もとい、恋人のルー。本名をルートリア・クラヌ・ベルン。ベルン男爵の娘だ。
ベルン男爵は僕の住んでいた地域を治めている方だ。僕の両親は男爵お抱えの商人だった。僕とルーの年が同じで、交流もあったことから親公認で付き合っていた。
戦のとき、たまたま家族で慰安旅行に出掛けていて無事だった男爵一家は戦が終わってすぐに町や村の復興をしていたそうだ。ルーは必死になって僕を探していたようだが、僕の両親の墓を見つけたときには、部屋にとじ込もっていたそうだ。全く、墓に僕の名前がない時点で生きていると気づいてほしいもんだが。
ルーいわく、生きていたら、絶対に自分のところに帰ってくる、なのに帰ってこない。なら……とそんな風に思っていたらしい。
僕はといえば、頭の中から抜け落ちていた。そもそも、あと十日も戻ってこない家の人らを頼れるかって言う話でもあるし、じいちゃんに拾われたときには既に王都にいたしな。 冷静沈着と言われることの多い僕だけど、その時ばかりは混乱していたらしい。
「で、何を考えていたの?」
勝ち気な性格と真っ赤な髪と瞳は炎のようだ。
「んー、これから、どうすっかなぁ……と」
「稼がないの?」
「そりゃ稼ぐけどさ。どうしようかなぁ……と」
その時、教室のドアが音を立ててと開いた。入ってきたのは、紫の髪をモミアゲにしたいかにも不良、という青年。事実不良だ。恐喝により金を稼ぐ。ただ、相手はきちんと選んでいる。主に後ろぐらいことをして稼いだやつからとっている。
よくも悪くも賢いやつだ。やっていいことと悪いことはきちんと理解しているタイプ。扱いが結構めんどくさいタイプとも言う。
「おい、ユシファルド。このワノール、お前に決闘を申し込む!」
「は?」
「……ホントにするなんて」
青年、もとい、ワノールは僕に手袋を投げてきた。決闘を申し込むときには相手に手袋を投げるというしきたりがあるが……わざわざ新品を買ってくるとは。
いや、それよりも。
「ルー?」
何かを知っていそうなルーに問いかけると彼女はあらぬ方を向いて口笛を吹いた。
じーー。見つめていたら、観念したようで、自白を始めた。
「いや、あ、あのね? こう、煩かったのよ。付き合ってくれって。彼氏いるからって、断ったんだけど……どうしても、って言うから、あんたと決闘して勝ったら考えてあげるって……あんたなら、負けないって、信じてる、から……」
段々潤んできた瞳を見て、頭に手をやりわしゃわしゃと撫でる。一つ息を吐いたあとワノールを睨む。
「僕のルーに手をだすなよ。ワノール。そんなだからモテないんだよ?」
「んだどっ!」
「決闘は三日後から、三日後の放課後、第一会議室にて」
「ちっ! じゃあなあっ!」
そう言葉を捨ててワノールは去っていった。
「ゴメン」
「いいよ、それより、決闘のルールを考えないとなぁ……」
「私も手伝うよ」
「ありがとう」
そして、三日後の放課後。何だかんだで騒ぎになって、先生が審判をかってでてくれた。先生も元商人だったりするから、贔屓とか、賄賂、とかはない。信用、信頼、の大切さを知っているからだ。
「では、ユシファルド側から提出されたルールを確認するぞ」
紫のスーツがよく似合っている、美人で、冷徹な先生が言う。
「二人、ユシファルド、ワノールのポイントを0にし、多く稼いだやつの勝ちだ。誰かに借りても構わない。しかし、1人につき1日100ポイントまで。暴力は無し。例えばの話、1人から一万借りようと思えば100日もかかる。競売スペースの利用も許可する。ただ、使用料は自分で稼げよ? 質問は?」
「スキルの使用はどーなってんだ?」
「許可する」
スキル。才能ある人間にのみ開花する、固有の能力。僕の両親も持っていて、能力は父はアイテムボックス、母は思考加速。ノワールは確か、代価交換。物を直接金に替える。ルーには残念ながらない。
「期限は?」
「十日後の13日の午後2時までだ」
今はちょうど三日の午後2時一分前。分かりやすくて良い、ベストタイミングだ。
「他にはないか?」
「ああ、ねぇよ」
「ありません」
「では、あと三十秒後にスタートとする。それをもって、お前達のポイントはゼロ、となる。安心しろ、もとの数字に決闘が終われば戻る。ただし、負けた方からは1000ポイント引くがな」
先生はカウントダウンを始めた、25、20、15、10、9、8、7、6、5、4、3、2、1そして、開戦の火蓋が切っておとされた。
「……はい、百ポイント」
「ありがとう。助かる」
支給された端末に表示されていた数字がゼロから百になる。この端末は「すまぁとふぉん」と言うらしい。最新技術で作られている。
「じゃあ、手筈通りに、よね?」
「そうだ」
「じゃあ、行ってくるわね」
「ああ。助かる」
先ずは、皆に募金をしてもらおう。これはあいつもきっと考えているから、そこまで差はつかない筈だ。
「募金をお願いします」
「いいぞ~!」
一言言っただけで、予想通りこぞって募金をするやつが現れた。理由は予想がつく、ここまで大きな噂になっているんだ、賭けをしているやつがいても仕方がない。学園も黙認している。
まあ、あいつに賭けたやつはあいつに募金をしているだろうから、やはり差は出ない筈だ。
あっという間に4500ポイントが集まった。ルーの分も足せば4600ポイントだ。46人か、この学校は百人だから、半分以下か。
じゃあ。これを元手に荒稼ぎといきますか。
4600ポイントだったので、十日後には46300ポイントを募金だけで稼いだ。よく履歴を見ると、三日目にはしてなかったやつが5日後にはしていたり、その逆もいた。それで、300ポイント程、予想を上回った。自分でも荒稼ぎをしていたので、合計2,401,500ポイントとなった。
結果が発表された。
――ワノールのポイントは69,450だった。
ワノールは唖然としている。観客達もだ。ルーだけは当たり前よ、みたいな顔をしている。当たり前か。約34,57倍差なのだから。
「なっ! テメェ……どんなイカサマしやがった!」
「イヤだなぁ……イカサマなんてしてないよ?」
僕的にはもっとワノールも稼ぐと思ったのに。だって、そうだろ? 借りた金を返さなきゃいけないし、それに、ただ返しただけじゃ意味がない。
「ならっ、どんな手で……」
「話して欲しがったら、自分から言えば? 敵にホイホイ情報与えるほど馬鹿じゃあないんで」
「ちっ! わぁったよ、話しゃいいんだろ簡単だ。募金と一緒に要らねぇもん貰って、金に替えた。文句あっか? 最後の方にゃあ貰えるもんも減ったがな」
「べつに? ないよ? とっても有用なスキルなんだね」
僕とは約三十五倍差だったわけだけどね。ちょっと調子に乗りすぎた。反省。最後の方で減ったのは、こいつに……いや、他人にあげれるものがなくなってきたから。だろうな。
「僕も君とやったのは同じことさ。募金をして、スキルで増やした。それだけさ」
そう、言ってしまえばそれだけ。ちょっとだけ、僕の方がスキルの能力が強かっただけ。まあ、僕がルールを作ったのだし、そこら辺は有利になるようにしているさ。僕のスキルが何か気になる?
――種明かしをしよう。
「僕のスキルは商品創造簡単に言えば、お金を商品に替える。お前と真逆の能力だ」
「だとしたら、なんであんな差が」
「僕の能力は相場の半分以下の値段で好きな商品に替えれるのさ」
嘘だけどね。いや、厳密に言えば嘘ではない。実際には相場の3分の1なだけで。替えたものが全て売れた訳じゃないし、手数料とかで引かれて、一日辺り二倍が限度……だけどね。規模がもっと大きくなれば別だけど。
「んなの、チート過ぎんだろ……」
「チートよね。ホントに。でも、能力を使わなくてもユシファならあんたの二倍の点数を出してたわよ? だって、私のユシファだもの」
「マジかよ……」
な、なんか過大評価し過ぎじゃないかルー? そんなに稼げないぞ? せいぜい1,7倍が限度だぞ。
「なぁ。あいつらさ、組んだら最強だよな」
「どー言うことだよー」
「だってさ、ワノールが物を金に替えて、ユシファルドが金を物に相場の半分以下でするんだろ」
「あ……」
「あいつらがパートナーなったら誰も勝てなくね……」
観客達のざわめきが聞こえてくる。確かに、能力の相性はいい。
「ダメったらダメ! ユシファのパートナーは私なんだからね!」
そう叫ぶルー。あまりにも可愛すぎて仕方がないのですが。
「僕の彼女は世界一だからな……金運は無いけど」
「うるさいわねっ! あんたが稼げばいいのよ! 私の彼氏は宇宙一なんでしょっ!?」
「ぬぁぁぁぁ、お前らノロケんじゃねぇぇ!」
ワノールには悪いけど、諦めて貰おう。
「……おい、ワノール」
「ん、ああ、諦めるさ。ここまで仲のよさを見せつけられちゃなぁ」
ため息を吐きつつもその瞳には笑顔が浮かんでいて。
「お幸せになっ! このバカップル」
ワノールは走り去っていく。その背中に向けてルーが言う。
「バカップルとか死語じゃないの?」
ずっこけたワノールを見て、皆で笑ったのであった。
サブタイより。
>ちょっとやり過ぎたかもしれない?
35倍差はちょっとなんだ……。