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Cross Of Blue Iron  作者: 福山 サミー 大介
竜と巨人編
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再会、プリンセス・シンシア!

「やぁ、ミック。今日は打ち合わせ通り頼むぞ。」


僕らが法廷に続く通路を歩いていると突然一人の中年の男がミックに扮するビルに背後からそう話しかけてきた。金髪をオールバックにしてそこに茶色い縁の眼鏡をかけたやや面長の背の高い男だ。いい歳の割には着ているスーツも派手な黄色でとても法に携わっている人間には見えない。


「ん? そのおっさんとガキは何者だ? 打ち合わせでは証人は女一人だったんじゃなかったか? 」


その男は僕とシゲを見てそう言った。その言葉で僕はピンときた。この男は遊び人のような格好をしているが実は原告であるタンケーダ側の弁護士なのだ。おそらく事前にこの男とミックは裁判の流れの打ち合わせをしていたのだろう。ミックが連れてくる筈の証人が事前の打ち合わせでは女一人だったのにどういう訳かミックが僕とシゲの二人の男を連れているのをこの男は不審に思ったのだ。だがそんなことを知らないビルはこう言い返した。


「君は誰だ? 」

「何を言ってるんだ!? 昨夜打ち合わせをした後一緒に飲んだところじゃないか!? 俺だ! イースティンだ! 」

「そんなチャラチャラした男に知り合いはいないんだが。」


ミックになりきる魔法はかけられているのだが当然ビルはこの男と会ったこともないのだから知り合いの訳がない。ビルとそのイースティンという男との間に不穏な空気が漂う。


「……まずい。」


僕は思わずそう小さく呟いた。ここでビルに上手く立ち回ってもらわなければ裁判の前にいきなり躓くことになるのだ。だが僕がそう焦っているとシェリルの右前足がピクッと動いた。するとビルの態度が急に和かなものに一転した。


「あ〜! すまんすまん! イースティンだったな。ど忘れしていたよ。申し訳ない! 」


ビルは忘れていたものをふと思い出したように急に声のトーンを高くしてそう答えた。するとイースティンと名乗るその男は苦笑いをしながら答えた。


「おいおい、頼むぜ、ミック。しっかりしてくれよ。」


僕は思わずニヤリとしてシェリルの方を見た。シェリルもニヤリとして僕を見ている。どうやらシェリルがビルに魔法をかけたようだ。ビルはイースティンにこう答えた。


「すまなかった。ところで彼ら二人のことだが歳の若い方は私の助手だ。そしてもう一人が証人だ。ちょっと段取りが変わったのだ。」

「そうか、打ち合わせ通りしてくれるなら男でも女でも構わない。ちゃんとやってくれよ! 」


そう言うとイースティンは先に法廷に入っていった。どうやら上手く誤魔化せたらしい。シェリルがおそらくビルに機転を効かす魔法をかけたからだ。シェリルのお陰で取り敢えず危機は脱したようだった。


「よし、行くぞ。」


ビルはそう言うと僕らを連れて法廷の入り口のドアノブに手を掛けた。ビルが先頭でその次はシゲ、最後尾が僕と僕の肩に乗るシェリルだ。ドアの左右には兵士が二人立っていて袖を金色に装飾された赤い制服と黒いズボンを身につけ肩にはライフルを掛けている。服装からしてどうやら王の近衛兵であろう。彼らはジロッと僕らを見たが何も言わなかった。やはりミックはここでも有名人なのであろう。


「ユージーン、そこに座ってくれ。」


法廷に入るとビルが僕にそう言った。僕はビルに言われた椅子に座る。法廷の中は思っていたより狭い。どうやら僕が座った席は被告側の証人が座る椅子だったようだ。僕の正面左手に証言台がある。そして真正面には一人用の小さなデスクが一つあり更にその向こうには四、五人座れるぐらいの大きなデスクがある。僕の正面右手にはビルとシゲが座った。背後には柵で仕切られた傍聴席があり傍聴席への入口はまた別のドアがあるようだった。雰囲気はどことなく物々しい。


「さぁ、今日もさっさと終わらして飲みにでも行くか。」


さっきのイースティンがそう言いながらビルとシゲの正面、僕から見ると左手の証言台を挟んだところに座った。こんなふざけたことを言う奴が弁護士をしているのかと思うと僕は少し腹が立ってきた。


「この野郎、今に見てろよ! 」


僕が心の中でそう叫んでいると真正面の大きなデスクの後ろからぞろぞろと人が入ってきた。黒い法服を着た男が二人、茶色のマントを纏った僕と同い年ぐらいの少年が一人、黒いドレスを着た五歳か六歳ぐらいの少女が一人、順番に並んで歩いてくる。


「あっ! 」


僕は心の中で思わず声を上げた。その四人の最後尾にいる少女に見覚えがあったからだ。彼女の名はシンシアといい僕が優勝した射撃大会で僕に優勝メダルを授けてくれたお姫様だ。国民にとても人気のあるお姫様で今回の裁判では彼女が王族の人間として参加するのだろう。まだ幼いのに人を裁くなんて大変だな、僕はそう思った。


「ジュリアン様、シンシア様、こちらへ。」


黒い法服を着た男の一人がそう言って大きなデスクの中心に座りその左隣に僕と同い年ぐらいの少年とシンシア姫を座らせた。そしてもう一人の法服の男は小さなデスクに座った。どうやら大きなデスクの中心に座った男が裁判長で小さなデスクに座った男が書記なのであろう。ではあの少年は何者なのだろうか? シンシア姫は落ち着いているのにその少年はやけにおどおどして落ち着きがない。僕がチラチラとその少年を観察しているとシンシア姫がこう言った。


「お兄様、しっかりして下さい! そんな態度では国民に笑われますよ! 」

「う、うん。分かってるよ。」


なるほど、ジュリアンというのはシンシア姫の兄なのだ。どうやら兄妹二人でこの裁判に参加するらしい。


「裁判長、今日は宜しくお願いしますわね。」


シンシア姫がそう言うと大きなデスクの中央に座る法服を着た男が頭を下げた。裁判長はところどころ白くなった髭を蓄え丸い眼鏡をかけた初老の男だ。雰囲気の落ち着いたその男にも物怖じすることなく言葉を発するシンシア姫の姿は立派だが可愛らしくもある。さすが王族一人気のあるプリンセスだと僕は思った。

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