ドラゴンの魔法
「その回転式の拳銃がどうかしたのか? 」
シゲはそう言って僕がリュックから取り出した拳銃を受け取った。そこで僕は指をパチンと鳴らした。
「うわぁっ! 蛇だっ! 」
シゲは突然驚いてそう大声を上げると拳銃を放り投げた。拳銃が僕の足元にガチャッと音を立てて落ちる。狼狽えるシゲの目の前で僕はもう一度指をパチンと鳴らした。するとシゲが呆気にとられた様子でポツリとこう言った。
「あれっ? ただの拳銃だ……。」
「そうだよ、ただの拳銃だよ。」
シゲは目を何度も擦って不思議そうに拳銃を見ている。僕はシゲにその拳銃を拾ってもう一度手渡した。シゲは拳銃を恐る恐る手に取る。僕はそこでまた指をパチンと鳴らした。
「うわぁぁーっ! やっぱり蛇だっ! 」
シゲは腰を抜かすほど驚いてまた拳銃を放り投げて後退りした。その様子があまりに滑稽だったので僕は笑いを堪えながらもう一度指を鳴らす。するとまたシゲが不思議そうな顔をして地面に放り出された拳銃を見つめながら言った。
「あれ、やっぱり拳銃だ。どうなってるんだ、これは? 蛇に見えたり拳銃に見えたり……。何かのマジックか? 」
「シゲ、驚かせてすまない。実はこれはシェリルの魔法なんだ。」
「魔法だって!? 」
シゲはまた驚いて目を大きく見開き僕の方を見た。だがその反応も無理はない。僕も傷の癒えたシェリルがこうした魔法を操るのを初めて目の当たりにした時飛び上がるほど驚かされたのだから。僕はシゲにこう言った。
「シェリルはあらゆる人や物の外見を自分が思う姿に変えて見せることが出来るんだ。さっきみたいに銃を蛇に見せたりね。だからシェリルが魔法をかけている間は銃は蛇に見えたんだ。シゲに魔法の凄さを知ってもらおうと思って実際に体験してもらったって訳さ。」
「へぇ〜っ! 凄えな! 」
シゲはまだ不思議そうに銃を見つめている。その様子を見てシェリルがニコリとしていた。だがそこで僕はシゲに真面目な顔をしてこう言った。
「この魔法を明日の裁判で使おうと思うんだ。」
「何っ!? この魔法を? どうやって? 」
シゲは慌てて僕の方を見た。僕はそこでシェリルと顔を見合わせてからニヤリと笑って言った。
「僕の父さんの担当弁護士を今から誘拐する! 」
「誘拐だって!? 」
「ああ、誘拐する。そうすれば明日の裁判には父さんの弁護士は何時になっても現れない。」
「そんなことをしてどうなるんだ? 担当の弁護士が現れなかったらタンケーダの息のかかった別の弁護士が代わりに出てくるだけだぜ。」
「そこでだ。父さんの弁護士の代わりをシゲの弁護士の先生にやってほしいんだ。」
「はぁ? どうやって? 」
「さっきの魔法を使うのさ。」
僕はそこでまたシェリルと顔を見合わせて微笑んでからシゲに言った。
「シゲの弁護士の先生の姿を魔法で父さんの担当弁護士の姿に変えるんだ。そうすればシゲの先生はどこから見ても父さんの担当弁護士さ。」
「なるほどな、そうすれば裁判途中での王族への直訴という形を取ることなく俺達も最初っから裁判に参加出来て正々堂々と皆の前でタンケーダを追い詰めれる訳か。」
「魔法を使っているから正々堂々とは言えないのだろうけれど、その通り。」
僕は笑ってそう言ったがシゲは何かを考え込んでいる。僕はシゲに尋ねた。
「シゲ、何か問題があるのかい? 」
「いい案だとは思うんだが……先生が何て言うかと思ってな。」
「シゲの先生が? 」
僕がそう言うとシゲは腕を組んで俯きつつこう言った。
「先生は真面目なんだけどちょっと意固地なところがあって……。科学的に証明されていないことは絶対信じないし魔法なんかは特に毛嫌いしている。そんな先生に今の作戦のことを伝えても賛成してくれるかどうか……。」
「目の前でこの魔法を見せて説明しても……駄目かな? 」
「『何かのトリックだ! 』と言って絶対信用しないと思う。それにそんなことをしたらヘソを曲げて俺達への協力すらしてくれないかもしれない。真面目で良い人なんだけど……ちょっとそういうところがあるんだ。」
「……う〜ん。」
僕は困ってしまった。妙案だと思っていたのだがシゲの先生がそんな感じではプランは変更せざるを得ない。僕もシゲに習って腕を組み俯いて違う方法を考えようとした。だがその瞬間シェリルがこう言った。
「ねぇ、ユージーン、それであればそのシゲさんの先生に魔法で暗示をかけたらどうかしら? 自分がユージーンのお父さんの担当弁護士だという暗示をね。」
するとシゲが言った。
「なるほど! それが出来るなら絶対その方が良いよ! 先生は真面目な人なんだけれど意固地で融通が効かないところだけが欠点なんだ。……あの先生に魔法を信じさせるのはおそらく無理だと思うから。」
「じゃあそれでやってみようか。シゲ、色々と助言をくれてありがとう。」
これで方針は決まった。するとシェリルがシゲに話し掛けた。
「シゲさん、ユージーンのお父様の担当弁護士の名前と家の場所って分かるかしら? 」
シェリルにそう尋ねられてシゲは一瞬ちょっと驚いた様子を見せた。まだシェリルに話しかけられることに慣れていないらしい。シゲはちょっと緊張した感じでこう答えた。
「分かりますよ。名はミック・ジャグアー、オーチャードストリートの7番街の大きな屋敷に住んでいます。」
シゲはシェリルに敬語で話しをした。それを聞いてシェリルは笑いながら言った。
「シゲさん、敬語はいらないです、普通に話しましょう。」
僕も笑顔で相槌をうった。
「シェリルも『さん』はいらないね。シゲでいいよ、なぁ、シゲ。」
「あ、あぁ、そうだな。」
僕ら三人は顔を見合わせて笑った。その後僕とシェリルはシゲを家まで送った後父さんの担当弁護士の家の住所に向かった。




