巨人の写真
「ねぇ、ユージーン。あれじゃない? 赤いレンガ造りの家って。」
「あ! あれだよ! 山の麓にポツンと一件だけ建っているあの家がそうだ! 」
陽が落ちて暗くなったところで僕とシェリルはスチュアートさんの家に向かっていた。今日の夜空は月明かりが無く真っ暗だったが僕とシェリルはスチュアートさんの家を上空からすぐに見つけることが出来た。いつも人目を気にして灯りのない山奥で過ごしているせいだろうか、ドラゴンであるシェリルはともかく僕もいつの間にか夜目が非常に効くようになっていたのだった。
「シェリル、降りよう。静かにね。」
「分かったわ。」
シェリルは翼を大きく広げて滑空を始めた。そして数秒後、殆ど音を立てずにスチュアートさんの家の裏口の前に着陸した。シェリルがちょっと戯けて言った。
「着陸成功! 」
「上手いもんだよ、シェリル! 」
シェリルは傷が癒えてからというもの常に僕を元気付けようとしょっちゅうこんな感じで戯けたり冗談を言ってくれたりしている。そんなシェリルの気遣いを見ていると当事者の僕が不安に駆られて下を向いている訳にはいかないという気持ちになるのだ。頑張らなければ! 僕はシェリルの背中からゆっくりと地面に降り立った。
「お!? ユージーンとシェリルか? 」
するとスチュアートさんが裏口の門を開けて姿を現した。
「よく気が付きましたね! 結構静かに降りたったと思ったのに。」
「ここはワシ以外誰もおらんからのう。ほんの僅かな音や気配でもワシには感じることが出来るんじゃ! シェリルも元気になったようじゃのう。」
そう言ってスチュアートさんはシェリルを見上げた。シェリルは微笑むとお礼を言った。
「スチュアートさん、あなたの介護のお陰で元気になりました。この御恩は一生忘れません。」
「ハッハッハ、そんな大袈裟なことはしておらんぞ。まぁ元気になって何よりじゃ。」
スチュアートさんは少し照れた様子でそう言った。だがスチュアートさんはすぐに真顔に戻ってこう言葉を続けた。
「そんなことより写真じゃ! 現像は出来ておる。ちょっと待っておれ。」
スチュアートさんはそう言って家の中に入って行ったかと思うとすぐに大きな封筒を持って再び僕らの前に姿を現した。
「これが例の写真じゃ。ピンボケもあったが何枚かには巨人がバッチリ写っておる。見てみるか? 」
そう言うとスチュアートさんは蝋燭を持ってきて火を灯すとその封筒の中身を僕らに見せた。そこにはタンケーダの敷地の中で見たカモフラージュされた倉庫のような大きな建物を背景に凶暴な巨人がはっきりと写っていた。
「……凄い。バッチリじゃない。」
シェリルがそうポツリと言った。確かにこの写真を王族に見せればかなりのインパクトだろう。僕も思わずこう言った。
「……これなら勝てるかもしれない。」
だがそこでスチュアートさんは言った。
「こらこら、相手は百戦錬磨のタンケーダじゃぞ! 浮かれるのはまだ早いわい! 慎重に事を進めなければイカンぞ! 」
僕はハッとしてスチュアートさんの方を見た。スチュアートさんの言うことはもっともであり相手はあのタンケーダなのだ。気を引き締めなければならない、そう肝に銘じつつ僕はスチュアートさんにこう言った。
「その通りですね。気を付けます。本当にありがとう! スチュアートさん! 」
僕はスチュアートさんと抱き合った。スチュアートさんと会えていなければこの写真は現像出来ていなかったどころか僕らは山の中腹で野垂れ死んでいたかもしれない。僕のスチュアートさんに対する感謝の気持ちは言葉では言い表せない程深く大きかった。
「さぁ、ここで時間を無駄にしていてはイカンのじゃろ? お前達は今日中にやらなければいけないことがあるのじゃろうが? 」
「そ、そうですね。今からシゲの家に行かなきゃ。」
僕がそう言ってスチュアートさんから身体を離すとシェリルがスチュアートさんに頭を下げながら言った。
「スチュアートさん、本当にありがとう。この件が終わったらまた寄らせてもらいます。空中散歩はその時させて頂きますね。」
「ハッハッハ、そんなことはもうええんじゃ。明日頑張れよ! 」
僕とシェリルは大空に羽ばたきスチュアートさんの家を後にした。スチュアートさんは家の外で僕とシェリルにずっと手を振ってくれている。僕も精一杯手を振ってそれに答えた。それはお互いの姿が見えなくなるまで続いた。
「本当に良い人ね。スチュアートさんて。」
「あぁ、ああやって心配してくれているスチュアートさんの為にも僕らは勝たなきゃいけない。」
次の目的地はシゲの家だ。僕らは夜空をシゲの家に向かって真っ直ぐに飛んだ。




