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Cross Of Blue Iron  作者: 福山 サミー 大介
竜と巨人編
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水炊き

「……腹減ったなぁ。」


陽が落ちて周囲が暗くなってきたので集めた薪に火を起こしながら僕は溜息混じりにそう独り言を言った。腹がキュルキュルと音を立てている。今日は朝スチュアートさんから貰ったサンドイッチを食べただけだ。リュックの中には缶詰が二個しか残っていない。これを食べれば手持ちの食料は底をつくのだ。シェリルが動けるようになれば何か食べれる植物でも探しに行けるのだが生憎シェリルはずっと寝ている。この状態で彼女から離れることは出来ないのだ。僕は朝から殆どの時間をシェリルの傍にいて彼女の傷口にネックレスを当てることに費やしていた。


「最後の缶詰を食べようか? シェリル。」


僕はそう言いながら脇に下ろしたリュックの中を弄り缶詰と缶切りを取り出した。明日スチュアートさんが来てくれなければ僕ら二人は餓死するかもしれない、そんなことを思いながら僕は一つの缶詰の蓋を開けた。


「シェリル、少ないけどお食べ。」

「……う、うん。」


消え入りそうな声で返事をしたシェリルの僅かに開いた口の隙間から僕は缶詰の中身を放り込んだ。その缶詰の中身は鮭だった。鮭はシェリルの好物のようだったがその量はあまりにも少ない。不憫に思った僕はもう一つの缶詰の蓋も開けるとその中身の半分をシェリルの口の中に放り込んだ。二つ目の缶詰の中身は鰊だった。これも缶詰の中ではシェリルが好んで食べるものだがその量は少なすぎる。僕はシェリルに上げた鰊の缶詰の残りを頬張ると仰向けになり天を見上げた。


「この調子で大丈夫かなぁ……。」


僕はついそう不安を口にした。父さんや母さんの裁判の日まで迫っている。僕が頼れるのはシェリルとシゲだけだがシェリルは傷を負って寝込んでいるしシゲとは音信不通のままだ。シゲと連絡を取りたいがシェリルがこの有様では傍を離れることは出来ない。一体今何をすれば良いのだろう? そう考えながらも気持ちいい風に吹かれて僕はそのままうとうとと眠ってしまった。



「おい、ユージーン! 寝ておるのか? 」

「えっ!? 」


僕は誰かにそう声を掛けられて目を覚ました。僕はシェリルの横の草むらの上でいつの間にか大の字になって寝ていたらしい。目の前には今朝会ったスチュアートさんが大きな荷物を担いで立っていた。


「どうやら熟睡しておったようじゃな。」


スチュアートさんは微笑みながらそう言った。僕はスチュアートさんの突然の来訪に驚きつつも両手で自分の顔をパンと叩いて立ち上がるとこう言った。


「スチュアートさん! 来てくれたんですね! でも明日の朝じゃなかったでしたっけ? 」

「お前さんが腹を空かしておると思ったから予定を早めて来てやったんじゃ。家にあった食い物を持ってきてやったぞ。ここまで運ぶのは大変じゃったわい! 」


そう言うとスチュアートさんは背中に担いだ大きな荷物を地面に下ろした。スチュアートさんはわざわざ僕の為にこれだけの荷物を運んできてくれたのだ。僕は思わずスチュアートさんに聞いた。


「……どうしてここまでしてくださるんです? 」

「ふん、お前さん空腹で死にそうなんじゃろうが! そんな奴を放ってはおけんじゃろ。」


スチュアートさんはそう言うと荷物の脇に腰を下ろした。どうやら荷物の中身は野菜やお肉といった食材らしい。そして食材と食材の間からは大きな鍋までもが見えていた。


「こら! ぼけっとしとらんで食事の用意を始めんか! まずはかまどを作れ! 」

「は、はい! 」


僕はそこら辺に転がっている石を集めてくると即席のかまどを作りスチュアートさんが持ってきてくれた鍋をその上に乗せた。


「外で食う飯は美味いからのう! 」


スチュアートさんはそう言うと持ってきた水筒の中の水を鍋に注ぎ始めた。僕はそんなスチュアートさんを見ていていつの間にか少し涙ぐんでしまった。


「おっと、昆布を入れるのを忘れておったわい。こいつを入れるとまた美味くなるんじゃ。」

「……は、はい。」


独り言のようなスチュアートさんの言葉に僕は涙を拭いながらそう返事をした。


「ユージーン、そろそろ野菜を入れようかのう。」

「はい。」


暫く経つと水が沸騰してきたので僕は野菜を入れた。スチュアートさんの持ってきた食材はキャベツや椎茸、鶏肉等だったが中には僕が初めて見るような野菜もあった。一体どんな料理を作るのだろう? 勝手の分からない僕は取り敢えずスチュアートさんの指示通りに動いた。


「ユージーン、次は肉じゃ。肉を入れろ。」

「は、はい。」


鍋に野菜を入れて煮立った頃僕は鶏肉を入れた。そして待つこと数分、スチュアートさんはこう言った。


「ふふ、出来たぞ!これが水炊きじゃ! 」

「水炊き? 」


目の前の鍋の中でグツグツと音を立てている料理がどうやら水炊きというらしい。美味しそうだがマイヤー家ではこういう料理は食卓に並んだことはなく初めて見るその水炊きを見ながら僕は目をパチクリとさせていた。

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