スチュアートさん
「そんなこと、許せません! 僕はあいつらには屈しません! 最後まで戦います! 」
僕は老人に向かってそう大きな声で叫んでいた。老人は僕の顔を見上げながらこう言った。
「お前さんもタンケーダと揉めておるようじゃな。何があったんじゃ? 」
老人の話を信用した僕はコイチとその父親から受けた非道な扱いについて話し始めた。草むらの上に二人で座り込んで話すこと二時間、日はいつの間にか高く昇っている。全てを話し終わった時僕は喋り過ぎたせいか喉がカラカラで少し興奮気味だった。僕は老人に紅茶の残りを飲ませてもらってようやく少し落ち着いた。
「そうか、お前さんも大変じゃのう。」
「……はい、このままではルカ先生にも顔向け出来ません。」
「そうじゃのう。」
老人はそれだけ言うと目を閉じて腕を組み黙り込んでしまった。そして高く登った太陽がジリジリと照りつける中、暫く僕らは無言になった。この老人と僕にはタンケーダ家に対する憎しみを抱いているという共通点があるのだ。僕はこの老人に無意識の内に同情を求めていたのかもしれない。
「この人は僕の話を聞いて今何を考えているのだろう? 」
僕は ふとそう思いながら老人の横で足元の草を眺めつつ黙っていた。暑い中を時折涼しい風が吹き抜けていく。そうして五分程経った頃だろうか、老人がおもむろに目を見開いて僕に向かって喋り始めた。
「お前さんのこれからの戦いにはそのドラゴンの力が必要じゃな。じゃがそのドラゴンは暫く動けんのじゃろう? ワシの家にワシが愛飲しとる滋養強壮剤があるんじゃ、そいつはよく効く。ドラゴンに効果があるかどうかは分からんけれども一度試してみるか? ワシの家まで取りに来い。」
老人は僕のこれからのことを考えてくれていたのだ。そのことはとても嬉しかった。だがシェリルをここに一人残すことは出来ない。僕はこう返答した。
「ありがとう、おじいさん。でも今は彼女の傍を離れることは出来ません。既に熊と蛇に襲われましたし……彼女を一人にはしておけません。」
「ほぉ、そのドラゴンはメスなのか!? 」
「メスとは言わないで下さい、女性です。人間の女性と何も変わりません。」
僕がそう反論すると老人は少し驚いたように目をパチクリさせた。
「名前はシェリルっていうんです。」
僕がそう付け加えると老人は改めてシェリルの方に目線を移して暫く眺めていたがまた僕の方を見るとこう言った。
「ふふふ、お前さんはどうやらこのドラゴンにも惚れておるようじゃのう。仕方ない、明日の朝までここで待っておれ。」
「……どうされるおつもりですか? 」
僕がそう尋ねると老人は笑いながらこう言った。
「滋養強壮剤を持ってきてやるわい。」
「えっ!? 」
「ついでに食い物もな。お前さん達はこれからが正念場じゃ。ちゃんと飯を食って体調を整えんとタンケーダとは戦えんぞ。」
僕は老人に慌ててこう言った。
「そこまでしてもらったら本当に申し訳ないですよ! こんな山の中腹に来てもらうだけでも大変なのに! 」
「ワシの家はこの山の麓じゃから近いんじゃ。それにこの山に登るのは毎朝の日課じゃから気にすることはない。」
「……本当に甘えてしまっていいのですか? 」
「おぅ、ええんじゃ。」
僕は老人に頭を深く下げてこう言った。
「すみません、ありがとうございます。」
だが老人は僕の礼には関心を示さずこう続けた。
「ところでお前さん、その銃の弾はあるのか? 」
そう言われて僕はハッとなった。
「……もう殆ど残っていません。」
「どれどれ、見せてみろ。」
おじいさんは僕の銃を手に取ると顔を近づけて暫く観察してからこう言った。
「S & WのM29か。お前さん、なかなか珍しい銃を使っとるな。この弾もワシの店に在庫があるかどうかを見てきてやるわい。」
老人は僕の使っている銃の型式を確認してからそれだけ言うと僕に背中を向け歩き始めた。どうやら山を降りるらしい。僕は背後から老人に声を掛けた。
「あ、あの! お名前を教えて下さい! 」
すると老人は振り向いてこう言った。
「おお、まだ言っておらんかったか? ワシの名はスチュアート、スチュアート・サトクリフじゃ。お前さんは? 」
「僕はユージーン、ユージーン・マイヤーといいます! 」
「ユージーン・マイヤー? どこかで聞いたことのあるような名前じゃのう。じゃあ、またな。」
スチュアートさんはそう言うと僕に再び背を向けて山を降りていってしまった。こちらの素性は全て話したのだ。もう後はスチュアートさんを信用して明朝を待つしかなかった。
その後は平穏な時間が過ぎていった。動物にも襲われることはなく人間も訪れない。僕はシェリルの傷がすぐにでも治ることを祈りつつ彼女の傷口にネックレスを押し付けていた。
「シェリル、大丈夫かい? 」
僕は彼女にそう話し掛けた。彼女はじっと目を閉じて寝ている。もし起きていたとしてもおそらく口を開くのも辛い状態だろう。僕は彼女に話しかけるのをやめてただネックレスを傷口に押し当て続けた。しんどい時にペラペラと耳元で喋られるのも嫌だろうと思ったからだ。
「……シェリル、早く良くなれよ。」
僕はそう呟きながら彼女の肌を摩った。その後僕は周囲を警戒しつつ来たるべき夜の為に薪となる木の枝を集め始めた。夜寝ている間も火を起こしておけば夜行性の猛獣が僕やシェリルには近寄ってこないと思ったからだ。不幸中の幸いでシェリルがここに着地した時に沢山の木を薙ぎ倒したので薪として使えそうな材料は至る所に転がっている。夜の備えは今のうちにきっちりとしなければならなかった。僕は汗まみれになって薪を拾い集めた。




