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Cross Of Blue Iron  作者: 福山 サミー 大介
竜と巨人編
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また落第点?

「よ~し、今日はこの前のテストを返却するぞ。名前を呼ばれた奴から受け取りに来い。」


抜き打ちテストが終わってから三日後の朝、ヤンナギ先生がニヤニヤしながら腕に答案用紙の束を抱えて教室でそう言った。クラスの皆が一斉に「え~! 」と不満げな声を上げる。


「先生、もうその答案用紙いらないっスよ! 捨てちゃって下さい。」


誰かがそう冗談を言った。皆ドッと笑う。ヤンナギ先生もそれを聞いて脂ぎった顔が一瞬更にニヤけた。でもその後先生はちょっと真面目な顔つきをしてまた僕らに言った。


「お前たちが馬鹿なままだと俺の評価が下がって給料を減らされちまうからな。このテストを見て自分たちの頭の悪さを自覚してもっと勉強しろ! そして俺の給料を増やせ! ……まぁそれは冗談だが中には俺の給料アップに貢献してくれる優秀な奴もいるぞ。では名前を呼ぶ。」


その台詞で教室は一瞬静まり返った。ヤンナギ先生の言うことは多分真実であり本音なんだろうけど言い方から何から全て腹が立つんだよな。その後先生が答案を配り始めるとやっと教室にはいつもの喧騒が戻ってきた。嬉しそうであったり悲しそうであったりの様々な声が教室内に響く。暫くするとコイチが呼ばれた。


「コイチ、今回もよくやったな。92点だ。」


先生がコイチに答案を渡しながらそう言った。クラスの皆が驚嘆の声を上げる。その中をコイチが得意そうな顔をして悠然と歩き先生から答案用紙を受け取った。くそ~、見てるだけでムカつく野郎だ! 僕がムカっ腹を抑えていると今度はシゲが呼ばれた。


「お前もなかなか優秀だな。はい、90点! 」


「こら!シゲ! なんでコイチに負けてんだよ! 勝てよ! 」と僕は心の中で叫んでいた。でもシゲはやっぱり頭が良い。コイチと違ってシゲの点数が良いのは僕にはとても喜ばしいことだった。僕は小さくだけど一人拍手をしてシゲを祝福した。


「次、ユージーン、ユージーン、マイヤー! 」


いよいよ僕の番が来た。ヤンナギ先生の顔が更に意地悪な顔になっている気がする。あ~あ、どうせ点数が悪いのは分かっているけどさ、そんな顔をしなくてもいいじゃないか! 全く!


「おい、みんな! 明日は台風だぞ! 雨ガッパを全員用意しておけ! ユージーンが93点だ! 」


えっ! 僕が93点? いや、多分これは嘘だな。この人はこうやって人をぬか喜びさせて陥れるつもりなのだ! くそ~、こいつはもう僕にとっては教師じゃない! なんて酷い野郎だ! 僕は怒りに震えつつ先生の顔も見ずに教壇の前に進み出て答案用紙を受け取った。


「あれっ!? ……本当に93点だ。」


僕は思わず目を見張った。先生の言ったことは本当だったのだ。僕が不思議そうな顔をして突っ立っているとシゲが笑いながら言った。


「凄いぞ! よっ! クラストップだぞ! 」


その声を聞いたクラスの皆がまたドッと笑う。でもそれに続いて皆すぐに僕を祝福してくれた。普段僕の成績が悪いことを知っているクラスメイト達が大きく拍手をしてくれて僕を囃し立てる口笛がピューピュー飛び交う。その祝福はちょっと大袈裟で僕は思わず照れた。


「本当によく頑張ったな、次もこの調子でな! 」


そう言うヤンナギ先生の表情は僕が初めて見ると言っていいほどの柔和なものだった。僕は更に照れてしまいすこし俯きながら席に戻った。するとその席に戻る途中でミールちゃんが声を掛けてくれた。


「ユージーン君、凄いね! 」


もう僕は天にも昇る気持だった。テストの点数が上がるだけでこんなに良いことが起こるなんて! 僕はついついニヤつきながらもミールちゃんに軽く会釈した後着席した。だけどその時一瞬コイチの顔が目に入った。コイチだけは悔しそうな顔をして僕の方を睨みつけている。それを見てまた僕の心は更に晴々としたものになった。やったぜ! あのクソコイチにあんな表情をさせてやったのだ! ざまぁみやがれだ! けど今回のテストは正直なところおそらくまぐれだろう。コイチの鼻の穴に指を突っ込んで持ち上げてから散々自慢してやりたいが次のテストで負ければその仕返しが倍になって返ってくる。僕は妄想を止めて照れ笑いをしながらコイチから目を逸らしそのテストを席でまじまじと見つめた。このテストを父さんに見せたら絶対に驚くぞ! 僕はその日の授業を普段通りに受け続けたが内心は喜び一杯で先生の話の殆どを聞くことが出来なかった。


「どうしたの! ユーちゃん!? 明日は大地震でもくるんじゃない!? 」


学校から帰り家で夕食の時に僕が家族に答案を見せると母さんが笑いながらそう言った。母さんまでがヤンナギ先生と同じようなことを僕に言ったので僕はすこしムカついたが父さんがそれを制しながら言った。


「よくやったな、お前は頑張れば出来るんだから。母さん、今日は一杯飲もうか。ブランデーを出してくれ。」


余程嬉しかったのか父さんはそう母さんに言うと僕の方に向き直りニコリと微笑んだ。いつも苦虫を噛み潰したような表情の父さんが僕に微笑むなんて珍しいことだ。僕もつい嬉しくなってニコリと微笑み返して頷いた。すると父さんは言葉を続けた。


「クラスでトップの成績というのは大したものだ。だがこの一回のテストの結果で満足せずに継続させるようにな。」

「ユーちゃん、そろそろルカ先生来られるんじゃない? 今日は予習とかは出来ているの? 」

「今日は大丈夫、ばっちりだよ。」


僕はそう返事をしながら時計を見た。ありゃ! もう7時20分だ! そろそろルカ先生が来るな~と思っていると案の定ワカバさんがダイニングにノックをして入ってきてこう言った。


「ユージーン坊ちゃま、先生が来られましたよ。」

「ご馳走様! じゃあ僕は部屋に戻るね! 」


僕はそう言うと自分の部屋へ戻り急いで勉強の用意をした。



「先生、今日学校でテストが返ってきたんですけど……93点でした! クラスでトップだったんです!」


僕は誇らしげにそう言った。ルカ先生に誉めてもらいたかったのだ。でも先生の表情は全く変わらずいつも通りクールだった。そして淡々とこう言った。


「その答案用紙、見せてくれる? 」

「はい、これです。」


僕は自信満々にその答案用紙をルカ先生に差し出した。先生は顔色一つ変えずにその答案用紙をじっと覗き込んでいる。


「この問題はこの前解き方を教えたものと似たような問題ね、そして次の問題はと……あら、これも最近教えたものと一緒だわ、ラッキーだったわね! まぁでもよく解き方を覚えていたわね。……あら! こっちはまたイージーミスしてる! 見直しはしたの!? 」


僕は先生が諸手を挙げて喜んでくれるものと思っていたので先生の冷静な反応には正直なところがっかりだった。くそ~! やっぱりこの女は冷徹な女だ! 僕はちょっとしゅんとしながらルカ先生に返事をした。


「見直しは一応したんですが……。」

「したのに間違いに気が付かなかったの?! …… まぁ仕方ないわね、次は気をつけなさいよ。」


僕は何も言わずにテストを机の中にしまった。あ~あ、もう泣きそうだよ、全く。


「でも良かったわね、以前に比べればあなたの学力はかなり上がっているわ。このまま努力を続ければ志望校にも十分行けるわよ。」


ルカ先生のその言葉に僕は驚いて思わずルカ先生の方を見た。多分この言葉がルカ先生に初めて貰った誉め言葉だったからだ。ルカ先生は言葉を続けた。


「頑張ってね、ユージーン君。」


そう言って微笑むルカ先生はとんでもなく綺麗だった。その顔は綺麗過ぎて思わず抱き寄せてキスをしたくなるぐらいだった。でもそんなことをする勇気など僕にあるはずも無い。僕はその一瞬のドキドキ感をすぐに捨てて机に向かい今日もルカ先生と一緒に勉強を始めた。

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