巨人と竜
「ギャアァーッ! 」
シェリルの放った炎に包まれた一匹の巨人が大きな悲鳴を上げた。炎は巨人に纏わりつくように燃え盛りその身体を焦がしている。巨人は倒れ込むと地面のコンクリートに全身をごろごろと回転させて押し当ててその炎を消そうとした。その苦しむ様子を見て他の二匹の巨人はシェリルへの突撃をやめそれどころかじりじりと後退りを始める。巨人といえども黒焦げになるのは怖いらしい。
「なによ? あんたらビビってんの? さっきまでの威勢はどうしたのよ!? 」
シェリルがそう巨人達に向かって叫ぶ。どうやらシェリルはちょっと興奮しているようだ。おそらくドラゴンと巨人というのは犬と猿みたいなもので相性が悪いのだろう。シェリルの荒々しい一面を初めて目の当たりにした僕はちょっと驚いていた。
「もう一発行くわよ! それっ! 」
シェリルの叫び声と共にまた新たな炎の渦が狼狽えている二匹の巨人のうちの一匹に浴びせかけられた。その炎はさっきのものよりもまた一回り大きい。どうやら炎の大きさはシェリルの精神状態の高揚に比例しているらしかった。
「グワァーッ! 」
また一匹の巨人が炎に包まれて悲鳴を上げながら地面を転げ回った。先に炎に包まれていた巨人はもう既に地面の上で横たわって動かなくなっている。その様子を見ていた最後の巨人は慌てて逃げ出した。
「待ちなさい! 逃しはしないわ! 巨人は皆殺しよ! 」
「よせっ! シェリル! 」
興奮の高まったシェリルは逃げる巨人を追おうとして建物の中に足を一歩踏み入れた。だが目的だった写真は撮れたのだしもう長居は無用なのだ。この騒動に気が付いたコイチの親父が自分の配下の兵を派遣してきたらややこしいことになる。確かにドラゴンの力は圧倒的だが彼らは大砲なんかも持っているかもしれないのだ。こんな狭い建物の中でもし包囲されて大砲の直撃を喰らえばさすがのシェリルでも無傷ではいられないだろう。僕は早く逃げようとシェリルの名を呼んだが興奮状態の彼女にその声は届いていなかった。彼女はまた口に大きな炎を蓄えて巨人を攻撃しようとしている。だがその時だった。
「ヒュン! 」
建物の奥の方から金属の破片のようなものがシェリルに向かって物凄いスピードで飛んできた。炎を今まさに吐こうとしていたシェリルだがその金属片に気が付くと慌ててそれを避けた。飛んできた金属片はシェリルの頭をかすめて彼女の後ろの鋼鉄製の扉に大きな音を立てて当たるとそのまま地面に落ちた。よく見るとそれは大きな斧だったのだ。とても人間が持てるような大きさではない。シェリルは斧が飛んできた方向を睨みつけた。
「誰!? 私に喧嘩を売ろうっての? あんたもここに転がってる黒焦げの死体の横に並べてあげるわ! 」
シェリルがそう叫んだ。シェリルが睨む方向を見ると背丈が五mぐらいの巨人が数少ない遮蔽物である建物の柱の一つの陰から姿を表した。先ほどの三匹の巨人とはまた違う奥にいた奴らしい。
「さ、さっきよりでかいぞ! 」
僕は思わずそう叫んでいた。だがその巨人は大きいだけではなく身体も筋骨隆々としていて左手に大きな盾を持ち右手に刃渡り二mはあろうかという大きな剣を持っている。顔立ちも引き締まっていて今まで見てきた巨人とはちょっと違うようだ。おそらくこいつが「魔物の飼育についての報告」に書かれていた武器を操る唯一の巨人なのだろう。おそらく建物の扉が開けられた後何が起こっているのかを建物の奥でじっと観察していたのだ。武器も持たず無闇に突っ走ってくるさっきの巨人達とは明らかに雰囲気が違う。するとその巨人は盾を構えたままシェリルに向かって走り出した。
「生意気な巨人ね! あんたもバーベキューにしてあげるわ! 」
「よせっ! 逃げろ! シェリル! 」
僕は止めようとしたがシェリルはやる気満々だ。口の中にまた炎を蓄えようとしている。だが巨人の動きは早い。盾に身を隠しながら猛烈なスピードでシェリルに迫っていく。巨人は目が一つしかないものが多いのだけれどその巨人には目が二つあった。体毛も生えておらず身体には古代の人間のように布を巻きつけている。皮膚は若干緑がかっているがそれ以外は遠目に見ればまさに人間そのものだった。
「ブオオオーッ! 」
シェリルと巨人の距離が二十m程まで縮まった時シェリルが激しく炎を口から吐き出した。だが巨人は盾でその炎を遮る。シェリルの火炎放射は強力なようだがその盾を溶かしてしまうまでの威力は無いようだった。巨人がシェリルとの距離をどんどん詰めてくる!
「まずいぞ! 」
僕は思わずそう叫んでいた。




