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Cross Of Blue Iron  作者: 福山 サミー 大介
竜と巨人編
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夜間飛行

「バサッ! バサッ! バサッ! 」


シェリルが背中の翼を羽ばたかせてヘフナー王国の上空を飛んでいる。地上の人々に気配を悟られないようにかなり上空をだ。僕はシェリルの背中にへばりついて恐る恐る眼下のところどころに輝く街の灯を見つめていた。


「ちょっと怖いけど、空から見る夜の街って綺麗なんだね! シェリル! 」


僕はシェリルに向かって大声を出した。上空は風の音が凄くて大声で叫ばないと相手に自分の声が聞こえないのだ。


「何? 私が綺麗って? 」


シェリルが長い首を背中の上に乗っている僕の方に向けてそう返してきた。僕は笑いながらまたこう切り返す。


「そうそう! 君は最高に美人のドラゴンだよ! 」


すると急にシェリルは背面飛行を始めた。


「あわわわ! 落ちちゃうよ! シェリル〜ッ! 」


シェリルはすぐ通常飛行に戻った。


「言葉に気持ちがこもってなかったから、罰よ! 」


そうクールに言い放った後に笑うシェリルを見つめながら僕は苦笑いした。一歩間違えば死ぬって、全く!


「そろそろ目的地付近ね。」


目の前に灯のない真っ暗な地面が大きく広がってきた。おそらくそこはコイチの家の敷地の中に広がる森だろう。僕はシェリルに指示を出した。


「シェリル、ゆっくり高度を下げて、気付かれないようにね。」

「分かっているわよ。」


僕とシェリルは高度を下げつつゆっくりと真っ暗な森林の上を何度か周回した。巨人トロールのいそうな場所の見当をつける為だった。上空からでは人間の僕の目では分からなかったがシェリルによると巨人トロールが潜めそうな大きな建物は四つほどあったという。僕とシェリルは順番にそれらの建物を調べていくことにした。


「一番南の建物から調べよう。」

「分かったわ。」


シェリルは一つ目の建物のすぐ近くに降り立った。翼を羽ばたかせずに広げたまま滑空させたので物音が全くしない。着地も静かで高いところから飛び降りた猫のようにしなやかだった。周囲に人がいないのを確認しつつ僕はシェリルに聞いた。


「どうだい? 巨人トロールはいそうかい? 」


その建物は高さが十mで幅二十m、奥行二十m程の木造の建物だった。だが見るからに古そうで僕の目から見ても巨人トロールを閉じ込めておけるような頑丈な建物には見えなかった。


「う〜ん、この建物からは巨人トロールの気配はしないわねぇ。」


シェリルが人間より遥かに優れた嗅覚と聴覚を駆使して念の為に建物を調べる。だがやはり一つ目はハズレのようだった。


「ここにはいないわね。」

「じゃあ次に行こう! 」


シェリルは僕を背中に乗せたまま飛び立って二つ目の建物に向かった。一つ目の建物から五百m程離れたところまで飛ぶとシェリルはまたすぐに高度を下げる。そして二つ目の建物のすぐ近くに舞い降りるとシェリルはまた目を閉じ耳を澄ました。


「ここは乳牛を飼っているみたいね。牛の鳴き声とミルクの匂いがするわ。」

「じゃあ次だ! 」


二つ目の建物も違っていてそこは牛舎のようだった。僕とシェリルは三つ目の建物を目指してまた夜の空に駆け上がる。そして北に進路を取ったその時だった。


「ユージーン、ちょっと待って! この辺りから巨人トロールの匂いがするわ! 」

「えっ!? 」


僕は慌ててシェリルの背後から地面を覗き込んだ。だが真っ暗で何も見えない。シェリルによると人が二、三人入れば一杯になるぐらいの小さな小屋があってその付近から巨人トロールの強烈な匂いがするという。


「そんな小さな小屋なのかい? 」

「匂いはその辺りからするわ。行ってみましょう! 」

「そんなところに巨人トロールがいるのかな? 」

「ふふ、私を信じなさい! 」

「わぁっ! 」


シェリルが急降下を始めたので僕はまた振り落とされそうになりながらも必死にシェリルの身体にしがみついた。それにしてもシェリルは何となく楽しそうだ。僕と一緒にいて楽しいと思ってくれているなら僕も嬉しいな。でもひょっとしたらそれは演技で僕が暗い気分にならないように気を遣ってくれているのかもしれない。どちらにせよ君には感謝の言葉しかないよ、ありがとう、シェリル。


「見張りが一人いるわね。」


小屋の上空を滑空しながらシェリルはそう言った。どうやら小屋の前にライフル銃を構えた男が一人立っているらしい。だが続けてシェリルはこう言った。


「ユージーン、ちょっと待って! 小屋の後ろに大きな建物が建っているわ! かなり大きくて頑丈そうよ! 木の枝や葉でカモフラージュされていて近付かないと分からないようになっているわ! 」

「何だって! 」


ただでさえだだっ広いコイチの家の敷地の中の森の奥にある建物なのにわざわざ偽装する必要があるだろうか? 怪しい! そう僕が思った時シェリルが言った。


「その建物はかなり分厚い壁と天井のようね。けれど微かに巨人トロールの吠えるような声が聞こえるわ。間違いないわ、ここよ! ここに巨人トロール はいるわ! 」


その建物を調べる為にはスパイ映画のように見張りの男をひっそりと気絶させるか殺すかしなければならない。もし見つかればライフル銃で撃たれたり応援を呼ばれてしまうかもしれないからだ。だがシェリルは大胆にも滑空して高度を落とすといきなり見張りのすぐ横に降り立った。えっ!? 見張りの男の前に突然姿を現すなんて何を考えてるんだ!? 通報されたらどうするんだよ!? 僕がそう言いかけた時その見張りの男はシェリルを見て驚くと気を失い倒れてしまった。シェリルは僕にウインクしてきたが僕は苦笑いをするしかなかった。


「結果オーライだけど……強引だなぁ、シェリル。」

「ふふ、この方が手っ取り早いでしょ? 」


僕はシェリルの背中から地面に降りると建物のところへ駆け寄った。そのカモフラージュされた大きな倉庫のような建物は高さが十m、幅が五十mぐらいある。奥行きもかなりありそうだ。入り口は両開きの巨大な扉になっておりそこにはこれまた大きな閂がしてあった。閂には大きな錠前がかけられていて警戒の厳重さを物語っている。確かにここは怪しい!


「鍵はどこかしら? 」

「ここだよ。」


僕はそう答えながら気を失った気弱な見張り役の腰ベルトに掛けてある鍵を手にした。この鍵を使えば倉庫の中に入れる筈だ。だが中に待っているのはおそらく凶暴な巨人トロールだ。写真を撮ってすぐに逃げなければならない。僕は手にした鍵を錠前に差し込みながらシェリルを見て言った。


「写真を撮ったらすぐ飛び去ろう。なるべく危険は犯したくないからね。」

「分かったわ。」


僕は鍵をひねって錠前を開けると大きな閂を引っ張った。その作業にはシェリルも協力してくれて閂がドスンという音と共に地面に抜け落ちる。僕とシェリルはそれぞれが両開きの扉を左右に引っ張った。いよいよ巨人トロールとの対面だ!

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