ドラゴンの友達
「そう、おそらく……。」
目の前の黒く美しいドラゴンは目を閉じると俯いて言葉を続けた。
「私のお父さんが誰かにあげた心臓の一部がどういう経緯かは分からないけれどあなたのお祖母様の手に渡ったのだと思うわ。あなたのお祖母様はおそらくお父さんの心臓の一部から放たれているエネルギーを感じることが出来たんではないかしら? 」
「う、うん。そうかもしれないね。」
「お祖母様はあなた方人間の言うところのフェンダー地方を旅行されたことはないかしら? 私のお父さんが晩年を過ごしたのはフェンダー地方にあるとある森の中なの。」
「……どうだろう? 分からないけれど確かにおばあちゃんは旅好きであちこち行っていたって話は聞いたことがあるよ。」
フェンダー地方というのはヘフナー王国の南東部に位置する森林地帯だ。そのドラゴンの言う通りそこでおばあちゃんはネックレスを手に入れたのかもしれない。確かにおばあちゃんはこのネックレスをやたらに有難がっていた。僕や父さんは何も感じなかったけれどおそらくおばあちゃんはこのパワーを感じることが出来ていたのだろう。
「私も炎を操るドラゴンだから感じるのだけど……あなたのネックレスからはドラゴンとして同じ属性を感じるの。おそらくそのネックレスは私のお父さんの身体の一部だと思うわ。」
「そういえば……僕は昔からドラゴンの夢みたいなのをよく見ていたよ! 青白い炎の向こうから僕をじっと見つめるドラゴンの夢を。それって……? 」
「おそらくそのネックレスが原因ね。ドラゴンの身体はたとえそのドラゴンが死んだ後でも目には見えない形で色々な影響を及ぼすわ。」
僕の身の回りに起こった不思議なことは全てこのネックレスに繋がっているのかもしれない。僕はもう目の前のドラゴンがシェリルであることを確信していた。彼女の語り口調には嘘は感じられないし全ての話の辻褄が合うからだ。僕は彼女に質問した。
「昔護身用の刀を作ろうとしたことがあったんだ。炎で真っ赤に焼かれた鉄をハンマーで叩いてね。でもその作業中に突然目の前にドラゴンが現れたかと思うと僕は気を失ってしまったんだ。そして目が覚めたらこの刀が足元に落ちていた。これって……? 」
僕はそう言いながらリュックから剣の根本に十字架の描かれたムラサメを取り出した。するとシェリルは言った。
「あなたはその刀を作る時に物凄く集中していたんじゃない? そしてその時おそらくあなたの頭の中では自分が作ろうとする刀のイメージがしっかりと出来上がっていたのだと思うわ。それに刀を作る時には炎を使っていたでしょう? あなたが一心に『良い刀を作りたい』と願った思いと完成した刀のイメージ、そして炎にドラゴンの力が反応してその刀は作り上げられたのよ。私のお父さんは炎を操るドラゴンだったから炎が近くにある環境ならば影響が出やすいわ。」
やはりムラサメが作られたのはネックレスのお陰だったのだ! あの時は幽霊の仕業かと真剣に思っていたのが今となれば滑稽だ。そして僕は自分の身に起きた別の不思議な事象についてもまたシェリルに質問した。
「地下牢に囚われている時にこの刀がまるでマジックのように突然現れたことがあるんだ。それもひょっとして……? 」
「あなたが無意識のうちに強く『刀よ、手元に来い! 』と念じたのだと思うわ。その思いに反応したネックレスが炎のドラゴンの力を借りて作られたその刀を呼び寄せたのよ。」
そういうことだったのか! 僕の身の回りに起こった不思議なことは全てこのネックレスの持つ不思議なドラゴンの力が関係していたのだ! 僕は胸元のネックレスを手に取りじっと見つめていた。
「そういう不思議な力があるからゴブリンは私を執拗につけ狙ってくるのよ。ログハウスの近くでゴブリンに襲われたことがあったじゃない、覚えてる? 」
「そうか! あれって奴らは君を狙っていたのか! 僕はてっきりゴブリン達がライフル銃でも欲しがっているのかと思っていたよ! 」
ゴブリン達は何度か僕らの前に現れた。彼らにすれば余程シェリルを手に入れたかったのだろう。僕は全ての話に納得がいった。
「ユージーン、私の話、そして私があのシェリルだっていうこと、信じてくれる? 」
「勿論だよ、ありがとう、シェリル。それにしても不思議な縁を感じるよ。君のお父さんのお陰で僕は生き延びれているとも言えるんだからね。」
僕はそう言うとにこりと微笑んでシェリルと握手をした。シェリルの手の甲は黒い鱗に覆われていて三本の長い指の先には鋭い爪が伸びている。凄いや、シェリルは本物のドラゴンで人間の僕と友達なんだ! そう思うと僕は凄く嬉しくなった。もしシゲにこのことを話したらシゲはどれだけ驚くだろう? そんなことを想像するだけで僕は楽しくなった。
「どうしてそんなにニコニコしているの? 」
突然シェリルがそう質問してきた。どうやら知らぬ間に僕の顔に笑みが浮かんでいたらしい。
「シェリル、君と友達になれて嬉しいのさ! ちなみに今僕達は何処にいるんだい? 」
「ここはカ・ツカレー山のもう一つ隣の山の中腹よ。ちょっとした広い野原があったからあなたをここへ取り敢えず連れてきたわ。大丈夫? 火傷なんかしてない? 」
「大丈夫だよ。ありがとう、シェリル。」
僕はシェリルにそう笑顔で御礼を言った。シェリルは軽く会釈をするような素振りを見せたがその後急に無口になった。どこか浮かない顔をしているように見える。どうしたのだろう? するとシェリルはやや俯き気味のままこう言った。
「……ごめんなさい。」
「え? 何のことだい? 」
「私があなたに近付いたのはネックレスの力の恩恵に預かることが目的だったってこと、怒ってない? 」
彼女は少し淋しそうな顔をしている。僕はすかさずこう言った。
「そんなこと気にしてないさ。今こうして仲良くしているんだから過ぎたことはどうでもいいよ。」
「……ありがとう、ユージーン。」
僕らはお互い目を見合わせて微笑んだ。シェリルはそんな小さなことを気にしていたのだ。心の優しいドラゴンだな、そう思いながら僕は無意識にシェリルのお腹のあたりを摩った。手の甲とは違ってお腹の鱗はまだ柔らかく感じた。するとシェリルが言う。
「きゃっ! レディのお腹を突然触るなんて失礼ね! 」
「あっ、ご、ごめん! 」
「ふふふ、冗談よ。ちょっと人間の女性っぽく言ってみただけよ。」
僕とシェリルはまた笑顔で見つめ合った。そして僕はまるで野生の狼のような端正な顔立ちのシェリルを見てると凄くワクワクしてきた。ドラゴンの友達がいるなんておそらく広いヘフナー王国の中でも僕ぐらいのものだろう。でもシェリルはこれからどうしたいのかな? 僕のことを仲の良い友達だとは思ってくれているのだろうけれどやはり僕達は種の違う人間とドラゴンなのだ、二人でいて窮屈だと思うこともあるかもしれない。
「あ、あのさ、シェリル。ドラゴンの姿を取り戻した君はこれからどうしたいんだい? 何かやらなければいけないことでもあるのかい? 」
「う〜ん……。」
彼女はそう言うと暫く考え込んでしまった。嫌だなぁ、何処かに行ってしまうとか言い出さないでくれよ! シェリル!




