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Cross Of Blue Iron  作者: 福山 サミー 大介
竜と巨人編
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ドラゴンと修行僧

「でも実はあの時の前足の怪我は大したことがなかったわ。ただ石に力を吸い取られて力が出なかった、それだけだったの。」


ここまでの話を聞いていて僕はそのドラゴンが本当のことを言っていると思った。そうなると目の前の黒いドラゴンはシェリルということになる。頭の中ではそう判断することは出来ても心の奥底からそう信じることはなかなか難しい。見た目が違いすぎるのだ。僕はそのドラゴンに質問をした。


「あの時初めて会った僕に対して君は全く警戒する様子がなかったよね? それどころか君は自分の方から僕に擦り寄ってきてくれた。あれはどうして? 」

「それは……。」


彼女はそこで初めて言葉を詰まらせた。何か僕に言いにくいことがあるのだろうか? 僕は彼女が口を開くのを待った。


「……実はね、あなたが首に掛けているネックレスの力が私には必要だったの。」

「ネックレス!? この青いネックレスのことかい? 」


僕はそう言うと服の上から手を入れてお婆ちゃんの形見の青い十字の形をしたネックレスを取り出した。


「そう、それよ。そのネックレスがドラゴンの力を吸い取ろうとする石の効力を弱めてくれたの。それどころか僅かずつではあったけれど私に力をくれたわ。だから私はあなたに付き纏ったの。そのネックレスのお陰で私は徐々に回復していったのよ。」


このネックレスが? 何故? 僕には訳が分からなかった。


「このネックレスは僕がお婆ちゃんから貰ったものだ。このネックレスにそんな力があるのかい? 」

「あるわ。そのネックレスからは目には見えないエネルギーが放出されているの。おそらくそのネックレスは元々は炎を操るドラゴンの心臓の一部よ。」

「ドラゴンの心臓の一部!? 」

「聞いて、ユージーン。」


驚く僕が開けた口を閉じるのを待ってから彼女は話を続けた。


「昔ある凶暴なドラゴンがいたわ。そのドラゴンは大きな翼で世界を飛び回り炎を吐いて暴れまわっていたの。自分の持つ強大な力に酔いしれて何の罪もない何百、何千という人間やゴブリン、巨人トロール、そして時には同じ種族のドラゴンでさえも焼き尽くしていたわ。」


確かに昔はドラゴンがよく現れて街を破壊していったって話を父さんはしていたっけ。そんな凶暴なドラゴンが今の時代に現れたら確かに大変なことになるだろう。


「最初そのドラゴンは自分を捕らえようとする人間やゴブリン達から身を守る為に戦っていたのだけど自分の持つ圧倒的なパワーに気が付くと彼は自分の力を試すかのように自分以外のあらゆる生物への殺戮を始めたわ。しかも楽しみながらね。でもそれはそのドラゴンの孤独の始まりでもあったわ、彼の悪評はすぐに全世界に広まったから。」


そりゃそうだろう。周囲の生物を殺しまくっていては孤独にならざるを得ない。所謂自業自得ってやつだ。


「でもそんな殺し合いだけの生活を百年も続けているとさすがにそのドラゴンも疲れてしまったの。殺し合いに嫌気がさして彼はとある深い森の奥に隠れ住んだわ。」

「散々人を殺しておいて調子がいいような気もするけれど……それで? 」

「暫く彼は平穏な生活を送ったわ。そしておまけにその地で伴侶となるドラゴンとも出会うことが出来たの。彼は安らかな生活に幸せを感じてひっそりと生きたわ。でもそれは長続きはしなかった。そのドラゴンに恨みのあるゴブリンや巨人トロールが彼を探し出したの。そして罠にはまり彼も、そして彼の妻も殺されかけたの。」


それは因果応報というやつだろうか? 人間の世界もドラゴンの世界も生きていく上での原則のようなものは変わらないのだなと僕は思った。そして彼女は話を続けた。


「だけど彼とその妻は殺されなかったの。たまたま通りがかった修行僧に助けられたわ。」

「修行僧? ていうことは人間に!? 」

「そう、人間の修行僧によ。」


数百、数千の人の命を奪ったドラゴンを助ける必要があったのだろうか? 僕はその話の続きを促すように彼女の瞳を見つめた。


「その修行僧は強大な魔法を操ってゴブリンや巨人トロールを追い払ってドラゴンを助けたわ。それどころか魔法で結界を張ってドラゴンが住むその地に魔物が入れないようにまでしてあげたの。そしてこう言ったわ。」

「何て? 」

「私は今まで名も知らぬ赤の他人から施しを受けることにより生きてこられた。だから私も周りの困っている赤の他人に手を貸すのだ、とね。そして更にこうも説いたの。一時の感情に身を委ねてはならない、常に移り変わる世の中で他人を思いやりつつ穏やかで安定した心で過ごせば苦しみが生じることもないと。感動したそのドラゴンはその修行僧にもっと色々な話を聞かせてほしいと頼み込んで結局丸々一週間説法を聞き続けたわ。」


人間がドラゴンに教えを説くなんて! そんなことが有り得るのだろうか? 確かに話し上手なお坊さんの説法というものは人の心を打つことがよくある。けれどもそれがドラゴンの心すら揺り動かせるものだということは僕は思いもしなかった。その修行僧はおそらくかなりの高僧だったのだろう。


「それからそのドラゴンは変わったわ。殺生は一切しなくなり困った人や動物を助けることに力を注ぐようになったの。自分の今までの罪滅ぼしをするにはそれしかないと思ったようね。」


そこまで変われるそのドラゴンも凄いがその修行僧も大したものだと僕は思った。信仰心をあまり持ち合わせていない僕だがもし僕がその僧と出会うことがあれば僕もそのドラゴンのように変わるのかもしれない。


「そのドラゴンは死期が近ずくと他人に自分の臓器のほんの一部を削り取って分け与えたりまでしたわ、それが大きな生命力のパワーをもたらすことを知っていたから。」

「臓器を削り取る? 自分で? そんなことが出来るのかい? 」

「ドラゴンには出来るわ。勿論ドラゴン自身には苦痛が伴うし身体にも相当な負担がかかるけれどね。ただドラゴンの場合臓器はすぐに再生されるわ。削り取る量が僅かであればね。」


人間が同じことをやろうとすれば死んでしまう。とても人間には真似が出来ることではないのだ。だがもし仮に肉体的にそういうことが出来たとしてもそこまで他人の為にやれる人間なんているだろうか? 僕はそのドラゴンの冥福を心の中で祈った。


「彼はその後暫くして死んでしまったけれど晩年はとても穏やかに過ごすことが出来たわ……それが私のお父さんなの。」

「えっ!! お父さんだって!? 」


僕は目を丸くした。

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