黒いドラゴン
「ユージーン、起きて。」
僕に誰かがそう囁いてくる。ウトウトしていてとっても気持ちが良いのに……煩いなぁ。頭の中がトローンとした感じのこの心地良さを邪魔しないでほしいんだけどな。
「ねぇ、ユージーン。起きてってば。」
その声の主はどうしても僕を起こしたいらしい。誰が僕を起こそうとしているのだろう? そういえばどこかで聞き覚えのある声だな。そうだ! この声はさっき炎の中で僕に話しかけてきた謎の声だ。
「あなたは助かったのよ、ユージーン。だから起きて。」
助かった? そうだ、さっきは炎と煙に包まれて気を失っちゃったんだっけ。あんな逃げ場のない状況で本当に僕は助かったのかな? 実はもう死んでいて幽霊になっちゃっているとか?
「大きな怪我はしていなさそうね。」
声の主は僕のことを心配してくれているようだ。僕は目を瞑りぼんやりとしたまま謎の声に問いかけた。
「僕はどうやって助かったのです? 何も覚えていないのです。」
すると謎の声は優しく答えてくれた。
「私があなたを助けたのよ。」
「えっ? 」
すると僕の頭の中にシェリルの姿が浮かび上がってきた。可愛らしい顔で僕を見つめている。
「シェリル! 」
僕は思わずそう叫んでいた。だが待てよ、シェリルはさっき僕の目の前で無残にも殺されてしまったではないか! その光景を思い出すと僕の目には涙が溢れてきた。おそらく僕は夢を見ているのだろう。ひょっとしたらシェリルは死んでも僕のことが気になってこうしてあの世から僕の夢にわざわざ出てきてくれたのかもしれない。でも夢の中とはいえせっかくシェリルとこうして話をすることが出来るのだ。僕は溢れ出る涙を堪えて彼女に何か話しかけようとした。
「……シ、シェリル。」
だがそれは出来なかった。僕は彼女の名前を呼んだだけで声が詰まってしまった。
「ユージーン、あなたと過ごした時間は短かったけど楽しかったわ。」
「……ぼ、僕もだよ、シェリル。」
僕は涙を流しながらも懸命に声を絞り出した。
「もっとあなたと過ごしたいのだけれど……そばにいていい? 」
僕は大きな声で答えた。
「勿論だとも! 僕だって君といたいさ。君の何気ない仕草にどれだけ救われたことか! 君がいなけりゃ僕は寂しさで押し潰されていたよ! ……でも君は死んでしまったじゃないか! 」
僕が泣きながらそう言うとシェリルは僕を見つめながらこう答えた。
「私は実は死んではいないの。あなたの前にもう一度姿を表してもいい? 」
死んではいない? どういうことだろう? 僕が夢から目覚めたらシェリルが目の前にいるのだろうか? 僕は言った。
「勿論いいよ! 是非会いたいよ! 」
僕がそう言うとシェリルは嬉しそうにしている。そして彼女はこう続けた。
「私の姿が今までと変わっていても、私のこと好きでいてくれる? 」
どういうことだろう? やっぱりお化けになって出てくるのかな? まぁそれでもいいか、お化けでも何でもシェリルには会いたいよ。僕はこう返事をした。
「勿論だよ、シェリル。」
「ふふ、本当ね? 」
彼女はそう言って悪戯っぽく笑ったようだった。けれども考えてみればレッサーパンダのシェリルが僕と会話出来る訳がない。やはりこれは夢なのだろう。でもシェリルとお喋りが出来るなんて夢とはいえ素敵だな、暫くこのまま夢を見続けられたらいいのに!
「う、う〜ん。」
僕は目を覚ました。どうやらかなり熟睡していたらしい。不思議な夢だったなぁ、と思いつつ僕は鉛のように重い瞼を頑張って開けた。周囲は暗くまだ時間は夜のようだ。そして僕は広い草原の上に寝かされている。だが目が暗闇に慣れてくると僕の目の前に誰かが立っているように見えた。誰だろう? 僕は目を凝らした。
「!! 」
その正体が分かった時僕は一瞬声が出なかった。その生き物は全身をやや黒い鱗に覆われ大きな翼と鋭い爪を両手両足に持ち、長い首の先についた頭を僕の方に向けている。なんと僕の目の前にいたのは黒いドラゴンだったのだ! 僕は心臓が止まるほど驚いた。だが暫くの間そのドラゴンを見つめていると恐怖感は急激に薄らいでいった。そのドラゴンの持つまるで古代の彫刻にでも出てきそうな端正な顔立ちが妙に優しく知性的に感じられて僕に危害を与えるような感じが全くしなかったからだ。それでいてその顔立ちはどこか女性のような美しさをも感じさせるものだった。僕は初めて見るそのドラゴンに興味を持った。
「き、綺麗だ…….。」
僕は仰向けに寝転んだまま思わずそう呟いてしまった。すると僕の頭の中でさっきの夢の中で聴こえていた声がまた話しかけてきた。
「ふふ、いきなりお世辞? 」
僕は上体を起こすと思わずこう言い返した。
「いえ、お世辞なんかじゃありません! 本当に綺麗ですよ! 」
「ありがとう、ユージーン。」
僕はそこでふと我に返った。
「えっ! 君がシェリル!? シェリルなのかい!? 」
するとそのドラゴンは僕を見つめて言った。
「……そうよ、私がシェリルよ。あなたが可愛がってくれたのは私。実はドラゴンなの。」
僕はまた驚いて声が出なかった。でもそのドラゴンの目を見つめ返すととても優しい目をしている。僕はそのドラゴンに聞いた。
「……本当に、君があのシェリルなのかい? 何故今までレッサーパンダの姿をしていたんだい? 」
「それは……今から話をするわ。」
そのドラゴンは話し始めた。




