反撃
「良かった! 隠したままになっている、あったぞ! 」
僕はカ・ツカレー山の麓に生える一際大きな木によじ登ってライフル銃を片手にそう叫んでいた。そのライフル銃は街中で持って歩くと目立つのでミールの蔵に潜入する前にその大きな木に隠しておいたものなのだ。大きな木の枝に引っ掛けて隠しておいたライフル銃は生い繁った葉に紛れて誰にもその所在が暴露ることはなかったらしい。今後は追っ手との戦いも予測されるのでライフル銃は僕にとって絶対に必要なものなのだ。僕はライフル銃を手に木を降りた。もう夜の八時で周囲は真っ暗になっている。ようやく僕が動き回れる時間がきたのだ。
「これからどうしよう? 」
動き回れるとはいえこのままログハウスに戻るかどうかを僕は悩んでいた。また以前のようにゴブリンに襲われるかもしれないと思ったからだ。だが屋根の下でゆっくり眠れるのはログハウスしかない。それにひょっとするとシゲが僕に連絡を取る為に来ている可能性もある。結局僕はログハウスに行くことにした。
「シェリル、行こうか? シゲが待ってるかもしれない。」
「……クゥーン。」
シェリルは浮かない顔をしている。どうやらログハウスには行きたくないらしい。ゴブリンに襲われたのが怖かったのだろうか? でもシェリルの鋭い爪があればゴブリンぐらい軽く撃退出来そうなものなのにな、と僕はふと思った。
「さぁ、行こう。」
僕がそう促すとシェリルはようやく僕の肩にぴょんと飛び乗った。僕はライフルの弾をリュックから取り出すとライフル銃に装填しようとした、追っ手にいつ襲われても反撃出来るように。だがその時だった。
「ウ〜、グルルル、グルルル! 」
激しい唸り声が聞こえたかと思うと山道を下の方から大きな犬が二匹僕の方に走ってくるのが見える。結構でかい! ひょっとすると犬ではなく狼かもしれない。まっすぐ僕の方に向かって走ってくる!
「ちっ! 装填は間に合わないか。」
犬だろうが狼だろうが危害を加えてくるつもりならば戦わなければならない。僕はライフル銃を両手で胸の前に水平にして構えた。するとその二匹の動物は僕に飛びかかってきた。くそっ、二匹同時に攻撃されるのはまずい! 一匹は撃退出来てももう一匹から攻撃を受けてしまうからだ。
「このっ! 」
「バキッ! 」
僕は二匹のうちの一匹を銃床で思いっきり殴りつけた。鈍い音が響く。そして僕は慌ててもう一匹の攻撃にも対応しようとした。だがもう一匹は攻撃をしてこない。ふと気が付くともう一匹にはなんとシェリルが逆に飛びかかっていた。シェリルはその鋭い爪で相手の顔を切り裂いたようだった。
「キャゥ〜ン! キャン! キャン! 」
どうやらその二匹は狼ではなく身体の大きな猟犬のようだった。その猟犬達は僕らに撃退され文字通り尻尾を巻いて逃げ出した。なんだったんだろう、今のは? 僕がそう思っていると二匹の犬の来た方向から松明をかざした五頭の馬がやってくる。馬の上にはライフル銃を持った五人の男が明かりに照らされている。僕はピンときた。追っ手だ!
「おい、ワンコロがやられたぞ! 」
「誰や!? そこにおるのは? 両手を上げて出てこい! やないと撃つで! 」
周囲は暗く松明の明かりだけでは僕のことは追っ手からははっきりとは見えていない筈だ。そう考えた僕は山道を脇へそれて木の陰に隠れた。
「オイコラ! 逃げんなと言うとるやろが! 」
「ダーン! ダーン! 」
怒声に続いていきなり僕は銃撃を見舞われた。幸い弾は当たらなかったもののいきなり撃ってくるなんて無茶苦茶だ。人の命を何とも思わないこのやり方は間違いなくコイチの手の者のやり方だ。僕の心の中に怒りの炎が一瞬でメラメラと燃え上がった。
「シンシア杯チャンピオンの腕前を見せてやる! 」
相手は松明を持っていて格好の標的だ。おそらくこちらが武装していないとでも思っているのだろう。馬鹿め! 今までの恨みを晴らしてやる! 僕は暗闇の中でライフル銃に弾を装填すると横に五人並んでいる中の一番左側の馬上の男を狙った。だがその時僕の心の中で一つの躊躇いが生まれた。
「このまま引金を引けば……僕は間違いなく人殺しになってしまう。」
確かに僕は今までにも他人に刀で切りつけたり無我夢中で銃を向けて発砲したことはあった。だがそこには明確な殺意はなくいわば相手を脅したり追い払ったりすることを主な目的としていたのだ。巨人は殺したことがある。だが人間を殺してもいいものなのだろうか? 僕の母さんは「他人を傷付けては駄目! 」といつも言っていた。僕は引き金を引くかどうか迷った。
「あの辺りにおる筈や! 例のガキかもしれんぞ! 」
「適当に撃ちまくったれ! 」
そういう声が聞こえた後僕のいる周辺に「ダン! ダン! 」と銃弾が撃ち込まれた。くそっ! あいつらは僕の命など何とも思っていない。僕はふと顔を上げた。すると相手はもう近くまで迫っている。僕が一旦狙った男は髭を生やし長髪で人相が悪く太い上腕二頭筋には何かの刺青が入っているのが見えた。ニヤニヤとしながらライフル銃を構え僕のいる場所付近にランダムに銃弾を撃ち込んでいる。こんな奴に気を遣うことなんかねぇ! 僕は再びその男に狙いを定めて引き金を引いた。
「ズドーン! 」
「ぎゃぁっ! 」
その男が落馬するのが見えた。今のは胸辺りを直撃して死んだかもしれない。だがこれも仕方ないのだ、僕の両親の無実を証明する為には。
ーーそれに殺らなければこっちが殺られてしまうのだから。




