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Cross Of Blue Iron  作者: 福山 サミー 大介
竜と巨人編
66/331

切札

「シェリル、眠たいね。」

「……クゥーン。」


湖の畔の小屋での食事を終えると僕らは段々と眠たくなってきた。昨夜はミールの家に忍び込んで僕の両親の無実の証拠となる三本の刀を盗み返してきたのだ。それは一夜ぶっ通しのとてもハードな仕事だったので僕とシェリルの疲労が朝になってピークに達するのも至極当然のことだった。


「でもこの刀のケースは目立つよなぁ。」


足下に下ろした三つの木箱を見て僕はそう呟いた。そして僕は小屋の壁の隙間からふと湖に目線を移す。この湖は昔からゴミが浮いていたりして汚く訪れる人は少なかった。今でも訪れるとすれば探検ごっこ好きな子供ぐらいのものだろう。だが待てよ、ということは僕達以外誰もいない今のうちにここに刀を隠してしまえばいいのかもしれない。寝ている間に誰かに見つけられて盗まれたりする可能性が少ないからだ。それに万が一寝ている間に追っ手が来て捕らえられたとしても刀だけはコイチ一家の手に渡ることはない。僕がそう思った瞬間だった。


「クゥーン! 」


僕の思考に反応したかのようにシェリルが急に小屋を出ると近くの地面の砂を掘り始めた。おそらくシェリルも僕と同じことを考えたのだろう。彼女は前足で砂を掻きながら僕を見て「地面の下に木箱を埋めて早く隠してしまおうよ! 」と話し掛けているようだった。


「シェリル、お前は凄い奴だよ。」


僕の話す言葉どころか考えていることまでを完璧に察知してしまうシェリルをそう誉めながら僕も砂掘りに参加した。柔らかい砂ではあるが三つの木箱を完全に埋めるには長さ一m、幅四十cm、深さ三十cm以上の穴を掘らなければならない。眠たいのを堪えて僕とシェリルは懸命に掘った。もう太陽が顔を出しつつある。誰にも見つからないうちに埋めてしまわなければならないのだ。時間がない!


「シェリル、頑張ろう! 」

「クゥーン! 」


疲労と睡魔に襲われながらの作業だったがこれを終わらさなければ安心して眠ることは出来ない。僕とシェリルは汗びっしょりになって砂を掻き続ける。そうして暫くすると刀の入った三つの木箱が地中に完全に隠れるほどの大きな穴がようやく出来た。その穴に木箱を埋めその上に砂を被せ更にその上に拾ってきたゴミや木の枝なんかを並べる。カモフラージュは完璧だ。そう思うと僕を急に更なる睡魔が襲った。


「よし、これで……眠れる。」

「……クゥーン。」


僕とシェリルは小屋に戻ると倒れるように地面に横たわった。あ〜、眠い!




それから僕達はグゥグゥと寝てしまった。やはりだいぶ疲労が溜まっていたのだ。暫くして目が覚めてから小屋の屋根の隙間から外を覗くと頭上で燦々と輝く太陽が目に入った。時計が止まってしまっているので正確な時間は分からないがおそらく午後一時か二時といったところだろう。周辺には人が通る様子もない。


「クゥ〜ン。」

「シェリル、お前も起きたのか? 」


起きたばかりのシェリルの頭を優しく僕は撫でた。気持ち良さそうにしているシェリルは何とも言えず可愛らしい。ルカ先生がシェリルを見たら何て言うかな? 「可愛いわね。」って顔色一つ変えずクールに言うだけかな? それとも「きゃ〜! 何て可愛いパンダちゃんなの! 頭を撫で撫でしてあげる! 」って嬉々として言ってくれるかな?


「……ルカ先生! 」


僕はふとルカ先生のことを思い出した。すると脳裏にルカ先生との思い出がじわじわと蘇ってくる。勉強を教えてもらったこと、射撃を習ったこと、食事をしたこと、キスしたこと、そしてルカ先生のことを大好きな自分の気持ち。ルカ先生、どうしているんだろう?


「……クゥ〜ン。」


するとシェリルが僕を慰めるように優しく鳴いて頬を舐めた。気が付くと僕は涙をポロポロと零していたのだ。


「……シェリル、また気を遣わせちゃったね、ごめんね。」


僕は彼女の頭を撫でながら言った。またルカ先生と会えるのかな? ひょっとしたら二度と会えないのかもしれない、ついそんなことを考えてしまうと自然と涙が出てくる。シェリルがいてくれて明るく振る舞える自分がいるが正直なところ心の中は不安だらけなのだ。そんな僕の心を見透かしたかのように僕を励ましてくれるシェリル、ありがとう。僕は心の中でそう呟いた。


その後僕とシェリルはウトウトしながら過ごした。お互いに眠いのだけれど一度目が覚めてしまうとなかなかもう寝れない。やはり追っ手に見つかってしまうのではないか? と思うとなかなか熟睡は出来ないのだ。それでも午前中あれだけ眠れたということはそれだけ疲れ切っていたのだろう。暗くなるのを待ちながら僕はぼんやりとしていたがシェリルは足下に歩いてきた小さな蟹を不思議そうに眺めたり小屋の中をあちこち行ったり来たりして遊んでいた。そうしてようやく夕方になり陽が傾き始めた時、僕はシェリルに行った。


「そろそろ行こうか? シェリル。」


僕はシェリルを肩に乗せてカ・ツカレー山を目指して再び歩き出した。そして万が一追っ手に見つかった時のことを考えて刀はそのまま隠しておくことにした。この刀を背負って歩くことは目立つし何より身体への負担が大きいのだ。それにもし捕まってしまえば刀はコイチ達に没収されてしまう。僕の両親の無罪を証明し且つコイチ家を追い詰める材料と唯一なりうるこの刀を奪われることだけは何があろうとも絶対に避けねばならなかった。この刀は僕の切札なのだから。

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