父さんの刀を探せ!
「コッ、コッ、コッ、コッ。」
石畳の道路の上にリズミカルな音が響いている。それはまるでメトロノームで奏でられているようだ。その音以外には何も聞こえない。月は出ているが今は雲にその姿が隠れて暗く静かな夜だ。
「……家の外回りを巡回している警備員は一人だけのようだ。」
僕はそう一人言を言った。暗闇の中で一時間ほどミールの家を観察していたが広いミールのお屋敷の外周に張り巡らされた塀の周りを巡回している警備員は靴音から判断するとおおよそ二十分で一周をしている。塀の高さは二m程で乗り越えることは可能だ。これならミールの家の敷地内に潜入出来る! 僕は暗闇の中で警備員が手にしている灯りが遠ざかって見えなくなるのを確認した後塀に忍足で近付いていった。
「何とか……登れるな。」
僕は石作りで出来た塀の凹凸に手と足をかけた。よし、いける! 僕は塀をゆっくりと登っていった。
「ふぅ! 」
汗が頬を滴り落ちる。夏の夜の暑さのせいもあるが人の家に忍び込むという僕の人生の初めての体験が僕により多くの汗をかかせているような気がした。塀の上からミールの敷地の中を覗き込むと真っ暗な中にポツポツと灯りが見える。ミールの屋敷の窓からこぼれている灯りだろう。僕はじっと目を凝らしてミールの言っていた蔵を探した。
「あった! あれだ! 」
「クゥ〜ン! 」
ミールやマッケンジーが住んでいるのであろう大きな屋敷から百m程離れた高台のところに平屋の小さな建物がある。屋敷からこぼれた灯りでほんのり見えるその建物がおそらくミールの言う蔵だろう。その建物の位置をしっかりと記憶すると僕は塀の内側をゆっくりと降りてミールの敷地内に足を下ろした。
「バキバキ! 」
敷地内には膝ぐらいまでの高さの植物が植えられていたらしい。真っ暗な為僕はそれに気が付かずその植物の上に着地してしまい小枝を何本か踏み潰してしまったようだ。大きな音がして一瞬僕は冷や汗をかいたが誰にも発見されたような気配はなかった。
「ふぅ! 」
僕は小さく息を吐くと足元に注意しながらその蔵に向かって進み始めた。足を動かす度に草木とズボンが擦れる小さな音がするが周囲には誰もいないようで気付かれる様子はない。だがそれでも僕は慎重に小走りで蔵に近付いていった。
「ここまでは上手くいったぞ。」
二分も経たないうちに僕は蔵に到着した。周囲には誰もいない。僕は蔵の扉の前に立った。するとその扉には僕の拳ぐらいの大きさのある錠前がかかっていた。
「これが例の錠前か。」
僕はそう言うとポケットの中のミールから受け取った鍵を取り出しそれを静かに錠前に差し込んだ。そしてゆっくりと鍵を回すと錠前はカチャリと音を立てた。
「よし、開いたぞ! 」
僕はゆっくりと錠前を外し蔵の扉を開けた。中からはカビ臭い匂いがする。僕は蔵に入ると扉を閉めた。すると中は真っ暗だ。僕はリュックから蝋燭とマッチを取り出した。これもシゲが以前服や食料をくれた時に貰ったものだ。僕はマッチを擦ると蝋燭に火を点けた。ぼんやりと辺りが照らし出される。
「なんだこりゃ!? 」
僕は思わずそう声を上げた。その蔵の中はまるで物置のようになっていて沢山の木の箱が乱雑に積み上げられている。箱のサイズも様々で一辺が二mを超えるような大きなものもあれば数cmのものもある。それが箱の大きさ順に下から積み上げられていてその高さは僕の身長を優に超えているのだ。そんな木箱の山がいくつもある。刀はおそらくこの中にあるのだ。これを全部調べなければならないのかと思うと僕はうんざりした。だがやらなければならない。
「クゥーン! 」
まるで元気付けるかのようにシェリルがそう鳴くと僕の肩の上にピョンと飛び乗ってきた。僕はシェリルの頭を撫でながら言った。
「シェリル、一緒に探してくれるかい? 」
考えてみれば木箱を全て調べる必要はない。刀の入りそうな大きさのものを調べればいいのだ。だがそれでもその手の大きさのものはかなりある。取り敢えず僕は目の前の一番近い木箱の山から一つ一つその中身を調べ始めた。
「……こりゃ大変だぜ。」
僕は次から次へと箱の蓋を開けたが探している刀は一向に出てこなかった。刀の代わりに出てきたのは宝石や貴金属、高級そうな時計や衣類などだった。おそらくどれも曰く付きのものばかりなのだろう。そんなものには一切目もくれずに必死に刀を探し続けていると全身汗でビショビショだ。
「おや? 」
刀はまだ見つけられないが僕の興味を引くものが二つ出てきた。一つは弾倉が回転式の拳銃だ。銃身が長く弾も拳銃のものとしては大きくてかなり破壊力がありそうだ。僕の逃亡生活はまだ続く。武器は多いに越したことはない。僕はその銃を逃亡生活が終わるまで借りることにした。
「ミール、ごめんね。ちょっとだけ借ります。」
僕はそう言うと背中のリュックを下ろしその銃を中に入れた。弾も二十発ほどある。これならちょっと頼もしい。
「これもちょっと借りるか。」
僕の興味を引いたもう一つのものは小型カメラだった。一般的にカメラというものは大型で両手で持つような大きなものしか僕は見たことがなかったがそこにあるのは片手で十分持てる非常にコンパクトなものだった。そのカメラの入っている箱を開けて説明書を読むとまだ市販はされていないものらしいがかなり高性能なもののようだった。これは色々と使えそうだ。
「これもちょこっと借りるね、ミール。」
僕はそういうとそのカメラと説明書もリュックに入れた。借りるとは言っているもののはっきり言ってこの行為は泥棒だ。だが不法行為まみれのコイチ一家と対峙する為にはあらゆる準備が必要なのだ。神様ごめんなさい! 僕はそう心の中で言い訳をしながら銃とカメラを入れたリュックを再び背負い刀探しを再開した。




