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Cross Of Blue Iron  作者: 福山 サミー 大介
竜と巨人編
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追っ手

「……あたしはある日お父さんの部屋で偶然見てしまったわ。お父さんとユージーン君のお父さんが交わした契約書のようなものを。」


ミールは涙ながらに話を続けている。その契約書というのはおそらく例の三本の刀に関するものであろう。僕はじっとミールの言葉に耳を傾けていた。


「あたしそれを見て嬉しかった。あたしとあなたは本人同士だけでなく父親同士も繋がっていると思ったから。だけどその後にあなたがコイチ君と喧嘩したことがあったじゃない? あの日から何日か後の夜にコイチ君のお父さんがあたしの家に来たわ。そして家の応接間でコイチ君のお父さんがその契約書を見ながらあたしのお父さんに何かを言いつけているのをあたしは見てしまったの。」


ミールと僕は以前キスをしたことがある。彼女は僕に好意を持ってくれているのだ。だが僕にはミール以上に好きになってしまったひとがいる。そしてそのことを伝えなければ、と思いつつそれは結局のところ出来ていない。申し訳ないと思いながらもそのことには触れず僕は彼女に聞いた。


「……話の内容は聞かなかったのかい? 」

「そこまでは出来なかったわ。あたしもあの喧嘩の一件以来コイチ君のお父さんとは気まずくて挨拶すらしていないの。だから本当に陰からチラッと見ただけ。でもお父さんが真っ青な顔をしていたことはよく覚えているわ。」


目の前を流れる川の流れの音は全く耳に入ってこなかった。シェリルもまるで僕らの話を聞いているかのように鳴き声一つ立てずじっとしている。そして僕は自分の心拍数がドクンドクンと少しずつ早くなるのを感じていた。ミールの口から真実が語られるかもしれないと思うとそれはとても抑えられるものではなかった。


「……それから何日か経ったある日の夜、お父さんは仕事に行くと言って帰ってこなかったの。あたしは心配で眠れなかったわ。そうしたら次の日の朝方の四時か五時ぐらいだったかしら、お父さんは帰ってきたの。」


そこまで言うとミールはまた泣き噦り始めた。いよいよこれから僕が最も聞きたいことが語られるのだ。僕はミールを急かしたい気持ちをぐっと抑えて冷静を装いゆっくりとこう言った。


「……大丈夫かい? 」


すると彼女はハンカチで涙を拭い僕の方をちらっと見て一度頷いてからまた喋り始めた。


「……いつものお父さんの足音はするんだけど家のドアが開く音がなかなかしなかったの。どうしたのかしらと思ってカーテンを開けて外を見たらお父さんが大きな箱を担いで屋敷の離れにある物置小屋に入っていくのが見えたわ。」


やはりマッケンジーが実行犯だったか! その事実に辿り着き「やったぞ! 」という思いが僕の心の中に浮かぶ。だがそれだけではない。達成感の裏にはミール親娘に対する哀れみもあった。


「その次の日に……あなたの御両親の逮捕の話を……聞いたわ。……あたし、どうすれば……いいの? うぅ! 」


彼女はもう喋ることは出来なかった。僕は彼女の肩にそっと手を置いた。彼女はなんと正義感が強いのだろう。僕が逆の立場だったら同じことが出来るだろうか? 悪事に手を染めているとはいえ自分の父親を追い詰めてしまうような告白をすることが!


「……ミール。」


僕は思わずそう優しく声を掛けた。だが僕にはそれ以上のことは出来ない。僕にはルカ先生という大好きなひとがいるのだから。そういえばルカ先生はどうしているのだろう? 手紙すら送ってこない僕に愛想を尽かしているのではないだろうか? ミールを前にしながらルカ先生とのキスがふと脳裏に浮かぶ。すると僕は思わず涙ぐんでしまった。


「……ユージーン。」


ミールのその呟きを聞いて僕は更なる罪悪感を抱かずにはいられなかった。ごめんね……ミール。僕を複雑な感情が襲う。だがその時だった。


「へへっ! 見つけたぜ! 」


急に僕の背後を黒い影が襲った。ミールが驚いて小さく「きゃっ! 」と声を上げる。僕は反射的に振り向こうとしたがその前に僕は何者かによって背後から首と右腕を締めつけられてしまった。しまった! おそらくコイチの手の者だ!


「よく今まで逃げ回れたもんだ! だがそれももうお終いだ! このガキめ! 手を焼かせやがって! 」

「ぐえっ! 」

「ユージーン君! 」


ミールが悲痛な叫び声を上げる。だが僕を後ろから締めつけている男の腕は太く力強い。空いている左腕を振り回すが何の効果もなかった。くそっ! どうやれば逃げられるんだ? このままあの地獄のような地下牢に連れ戻されてしまうのか!?


「やめて! ユージーン君が死んじゃう! 」

「黙れ! このガキ! 静かにしていないとお前もこいつと同じ目に合わせるぞ! 」

「に、逃げろ! 」


僕はミールにそう言った。せめてミールは逃さなければ! 僕と会っていたことがバレたらミールはコイチ一家から酷い仕打ちを受けるかもしれない。勇気を持って僕に真実を話してくれたミールだけはどうにかして助けてあげなければ!


「グヘヘ! お前をタンケーダの旦那のところへ連れていけばたっぷり金が貰えるんだ! 悪いな! 」


どうやら背後の男はミールには興味が無いらしい。金で雇われたコイチ一家の回し者だ。それであればミールは大丈夫だ。僕はすこしほっとしたが安心している場合ではない。僕は逃げなければならないのだ! どうやらこの男は橋の下にいた僕を見つけて僕の背後に三mほどある橋上から飛び降りてきたらしい。くそっ、金の為に無茶をやりやがって! だがどうやってもこの男の馬鹿力からは脱出出来そうもなかった。ここまでか、そう僕が諦めかけたその瞬間だった。


「うぎゃーっ! 」


急に耳元で大きな悲鳴をその男があげた。その瞬間男の腕の力が緩む。何が起こったのかは分からないが、チャンスだ!

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