美人女家庭教師
「こんにちは、ユージーン君。」
「こ、こ、こ、こんにちは……。」
「ユーちゃん、こちらが家庭教師のルカ先生よ、とっても綺麗な先生でしょ! 」
僕は挨拶は辛うじて出来たもののその後は暫く言葉を失ってしまった。というのはそのルカ先生というのが僕の想像と違い無茶苦茶綺麗な女の人だったからだ! 髪は栗色の巻き髪で長く顔は小さくてその顔に浮かぶ目は大きくちょっと釣り上がり気味で気が強そうだけど美人には間違いない! ルカ先生は黒いシルクのようなさらさらした生地のノースリーブに白のタイトスカートを履きそこから綺麗な足が伸びている。僕はさっきまでの落ちこんだ気分は何処へやらで顔を赤くしながらも思わずニヤついてしまいそうだった。
「ユーちゃん、ルカ先生はね、プルーディンス王国から私達のヘフナー王国へ留学に来られているのよ。お母さんはこれからの時代は外国語も必要だと思うの! ルカ先生なら受験勉強の傍にプルーディンス語も教えてもらえるわ! 良かったわね! 」
母さんはルカ先生を気に入っているのかやたらと上機嫌だ。確かに僕もこんな美人の先生に勉強を教えてもらえるなら嬉しいかもしれない。でも僕は敢えて嬉しそうにはせずすこし嫌そうな顔をしながら母さんに聞いた。
「先生は週に何回来るの? 」
「月曜と水曜と金曜の週三日で夜の七時半から九時半までよ。」
週三回でしかも夜か! 僕はルカ先生と二人きりの密室で授業を受けている自分を想像した。男女の身体の違いを手取り足取り教えてもらったりしたらどうしよう!? とても勉強どころではない。僕の顔は赤らめを増した。
「ユージーン君、では明後日の夜七時半にまた来させてもらうね。で君の学力レベルを知りたいから宿題を出しておくよ。これを明後日までにやっておいてね。」
ルカ先生はそう言うと僕の目の前にどっさりと何枚もの紙を置いた。見ると一枚一枚がテストのようになっていて凄い量だ。僕の邪な興奮は一気に冷めた。
「え!? これを明後日までに? ちょっと多くないですか? 」
僕が思わずそう言うとルカ先生は微笑んで言った。
「簡単なものばかりだから大丈夫よ。じゃあね、ユージーン君。」
そう言うと先生は母さんと僕に会釈をして部屋を出ていってしまった。母さんが先生を玄関まで見送りに行っている間僕はそのテストをチラッと見たが難しいものばかりだ。ひょっとしてルカ先生って綺麗だけどとっても厳しい先生なのかもしれない。そう思うと僕はまた気分が落ち込んでいった。
「よぉ! ユージーン、どうした? なんか眠たそうだな! 」
「シゲ……。もう俺は死ぬ。」
「どうしたんだよ!? 何かあったのか? 」
「……睡眠不足で死ぬかもしれない。」
「はぁ? 」
次の日の朝学校に着くと教室ですぐに僕はシゲから声を掛けられた。ルカ先生の宿題に早速昨夜手を着けたのだがやはり問題の質、量共に僕の手に負えるものではなく夜中の三時までしてもまだ半分も出来なかったのだ。勉強でそんな時間まで夜更かししたのは初めてということもあって僕の目の下にはクマが出来ていた。
「ついに来たんだな……例の家庭教師が。」
「顔は綺麗なんだけど多分あの女はドSだぜ。俺をいたぶって楽しむつもりだよ、多分。」
「まぁ頑張ってみろよ! お前は元々頭はいいんだから。本とかも読むの好きだろ? いいきっかけになるんじゃないの? 」
「シゲ、お前は他人事だからそんなこと言えるんだよ! 家に帰ったらまた続きをやんなきゃいけないんだぜ! 地獄だよ。」
そんなやりとりをシゲとしているとヤンナギ先生が教室に入ってきた。僕らはお喋りを止めると自分の座席に戻った。先生の話を聞いているといつも退屈な授業が今日はより退屈で欠伸が止まらない。あ〜あ、これからどうなるんだろう? 俺は。
「こらっ! ユージーン! 起きろ! 授業中に居眠りするとは何事か! 」
僕は先生の怒声で目が覚めた。ヤバい! いつの間にか寝ちゃったんだ。
「お前はやる気があるのか? 無いならもう家に帰れ! 」
「すみません、先生。ちょっと昨日勉強し過ぎちゃって。」
「勉強? 嘘をつくならもっとマシな嘘をつけ! お前が勉強などする訳が無い! 」
クラスの皆がそれを聞いてドッと笑った。コイチなんか手を叩いて大袈裟に笑っていやがる。この先生は僕をダメな奴と決めつけていてそれを皆の前で面白おかしく吹聴するところが嫌なんだよな。でも実際僕はあまり出来が良くないのも確かだから何も言い返せないんだけど。
「罰として男子トイレの掃除だ! 」
「……はい。」
くそっ! 結局授業が終わった後に僕はモップとバケツを持ってトイレ掃除に行く羽目になってしまった。クラスの笑い者になるしまたコイチには馬鹿にされるし今日は本当にいいことがない。僕はむしゃくしゃしながら男子トイレの床をモップでゴシゴシと擦った。そしてそれを適当に済ますと今度は手洗い場の掃除を始めた。早く終わらして家に帰ってルカ先生の宿題をしなければ! 僕が焦りながら掃除をしているとクラスの女の子が僕の前をクスクス笑いながら通り過ぎる。しかも明らかに蔑んだ目つきで僕を見ながらだ。
「くそっ! 早く行っちまえ! 」
僕は顔を真っ赤にしながら心の中でそう叫んでいたけど声に出す勇気はないんだよな。女の子とはシャイなせいか上手く喋れないし叫び声を上げるなんて絶対無理だ。俺、このままで彼女なんか出来るのかな?
「ユージーン君! 」
「はい? 」
その時背後で僕の名前を呼ぶ声がした。僕は反射的に振り返るとそこには女の子が立っている。その子はミールっていう名前の同じクラスの女の子だ。彼女は微笑みを浮かべて両手を後ろに組みすこし首を傾けながら僕を見つめている。その微笑みは他の女の子みたいに僕を馬鹿にするようなものではなくまるで僕に好意を持ってくれているかのような優しいものだった。しかもまたその表情が可愛い! ショートヘアがよく似合う美少女でそのキラキラとした大きな瞳で見つめられていると僕は顔が更に赤くなった。
「何か手伝おうか? 一人じゃ大変でしょ? 」
この時点で僕は耳どころか鼻の先まで真っ赤だ。僕は何とか声を絞り出した。
「い、いや、大丈夫だよ。もうほぼ終わったから。」
「本当に? 遠慮しなくていいのよ。」
そう言って優しく僕の顔を覗き込んでくる彼女の顔は可愛過ぎる。僕がどうしていいのか分からずまごまごしていると彼女は僕を手伝おうとモップを手に取ろうとした。僕は慌ててそれを遮った。
「そ、そんなことしなくていいよ! 本当にもう終わったから! 道具を片付けてくるね! じゃあ! 」
僕はそう言うとモップとバケツを手にダッシュでその場を離れた。あ〜情けない! なんでちゃんと女の子と会話が出来ないんだろう! でもミールちゃんて可愛いな。あんな可愛い女の子とちょこっと二人でお話が出来ただけで今日は良しとするか。実は今日はちょっとハッピーな一日だったかもしれない!
「よーし、帰って勉強頑張るか! 」
僕は一人言を言いながら走って家に帰った。