告白
「……ユージーン君。」
ミールが改めて僕の方を向いた。
「何? 」
「あなたの御両親、逮捕されたって聞いたわ。」
ミールは涙ながらにそう言った。僕が黙って頷くと彼女は言葉を続けた。
「……昨日コイチ君があたしの家に来てこう言ったわ。『ユージーンを見かけたら俺に知らせろ! あいつは酷い奴だ! 』って。……何があったのかあなたの口から聞きたいわ! そして御両親が逮捕されてからあなたは今までどうしていたの? 」
「あったことを話すよ、全部正直にね。」
それから僕はミールに全てを話した。僕の両親の逮捕について不可解な点がありコイチ一家が裏で関わっている可能性があること、そしてコイチ本人に拉致され嫌というほど殴られたことや地下に軟禁されたこと、ムラサメが突然現れて脱出出来たことや巨人に遭遇したことを。素直に真実を話すことで僕はミールに自分のことを信用してもらおうと思ったのだ。だが彼女は僕が思うほど驚くような素振りは見せなかった。
「僕の両親は二週間後に公開裁判で裁かれる。僕は両親の無実を証明したいしコイチ一家の悪事も世間に知らしめてやりたいと思っているんだ。」
ミールがコイチ一家のことをあまり快く思っていないことは分かっていたので僕はそんな言い方をした。彼女は頬に涙を伝わらせながらも黙っている。僕は話を続けた。
「君が僕の両親のことや、それ以外にもコイチ達の悪事について知っていることがあれば何でもいい、教えてくれないか? 」
僕はちょっと遠回しに彼女にそう言った。ミールの父親がコイチ達と絡みがあるとは思いつつもいきなりダイレクトにそう問うことは失礼だと思ったからだ。だが僕が問いかけた時彼女の頬を伝う涙の量が一気に増えた。間違いない、彼女は何かを知っているのだ! 僕はもう一度改めて聞いた。
「ミール、もし何か知っていたら教えてくれないか? 」
その時周囲には川の水の流れる音だけが響いていた。僕は彼女が何か言ってくれるのを静かに待った。
「……クゥ〜ン。」
泣いているミールを可哀想に思ったのかシェリルがミールの肩にピョンと飛び移りミールの頬をペロペロと舐め始めた。彼女はシェリルの頭を撫でるとようやく口を開いた。
「……優しいパンダちゃんね。」
僕は黙って彼女を見つめ続けていた。
「……ユージーン、あなたには話さなければならないことがあるわ。」
彼女は肩に乗ったシェリルを抱っこしてその頭を優しく撫でながら遂に語り始めた。
「あたしの家はコイチ君と親戚だって話はしたことあるわよね? 」
「うん、聞いたよ。」
「コイチ君の家は昔からあんな風だったわ。いつも他人を馬鹿にした態度を取っていて周囲には敵だらけ、喧嘩や争い事の絶えない家系だった。」
「……。」
今度は僕が無言でミールの話を聞く番になった。
「あたしのお父さんはそんなコイチ君のお父さんが大嫌いだった。あたしのお父さんは人と争うことが嫌いなの。だから人と啀み合ってその相手を潰すことを生き甲斐にしているようなコイチ君のお父さんとは絶対に合わないのよ。」
「クゥ〜ン。」
シェリルがミールを慰めるように小さな鳴き声を上げた。ミールは涙を流しながらも顔にふと小さな微笑みを浮かべる。そしてシェリルの顔を撫でながら言葉を続けた。
「あたしもお父さんに似たのね。あたしもコイチ君の家の人は皆大嫌いになったわ。だけど一応親戚だから最低限の付き合いはしていたの。でもある時に……。」
「……何かあったのかい? 」
ミールは話をやめて暫く泣き続けた。ポケットからハンカチを取り出し時折嗚咽を漏らしながら溢れ出る涙を拭いている。僕とシェリルは何も言えず彼女を見つめているしかなかった。
「……ごめんね。」
暫くして彼女はそう言葉を絞り出すと若干落ち着いた。だが今までの彼女の激しい号泣の姿を見ていると彼女の脳裏に浮かんでいることは辛く僕に話すにはかなりの覚悟が必要だということが推測出来る。僕とシェリルはじっと彼女が口を開くのを待っていた。
「……お父さんが事業で失敗しちゃったの。物凄い金額の借金が出来たらしいわ。それを助けてくれたのがコイチ君のお父さんなの。」
「……。」
「でもその後の私達一家の生活は大きく変わったわ。お父さんはコイチ君のお父さんからいろんなことをやらされるようになったの。」
「……いろんなことって? 」
「はっきりとお父さんが口にしたことはないけれどあたしには分かるわ、人前では言えないような仕事よ。犯罪すれすれ、いや、ひょっとしたらとっくに悪事にも手を染めていたのかもしれない。でもお父さんはコイチ君のお父さんに助けてもらったこともあるしあたし達家族の生活のこともあるから悩みながらも言われた仕事は全てこなしていたみたい。」
ミールのお父さんの顔は何となく覚えている。優しい感じの人だったと記憶しているけど裏ではそんな大変な目に遭っていたのか。おそらく心の中の葛藤は凄まじいものがあったのだろう。
「それ以来お父さんは変わったわ。あんなに優しかったお父さんが家では全く笑わなくなってしまったの。あたしはお父さんに何度も言ったわ。貧乏な生活でも構わないからお父さんの笑顔が見たいって。でもお父さんはあたし達家族に苦労はかけたくないって言って取りあってくれなかったの。」
そこまで言うとミールはまた激しく泣き始めた。彼女も、そしてマッケンジーも辛い思いをしていたのだ。僕は余計にコイチ一家に対しての怒りが心の中で高まるのを感じた。




