再会、ミール
「お兄ちゃん、可愛いペットだね! 名前はなんていうの? 」
ミールを待つ間僕は何人もの子供にそう声を掛けられた。どうやら僕が陣取っている場所というのが近所の子供の遊び場になっている公園の近くだったらしい。いくら街路樹の陰に隠れるようにしてもオレンジ色の可愛いシェリルはやたらと目立つのだ。コイチの一味に見つからないようにと思って目立つライフル銃はやむを得ずカ・ツカレー山の麓に隠して置いてきたのだがそれでもシェリルがいると僕はどうしても人の目に止まってしまう。子供には親がついて来ている場合が多いのでそうなるとあまりジロジロとミールの家を監視する訳にもいかない、不審者と思われて警察なんかに通報されても困るからだ。僕は自分がペットを散歩させている普通の少年だということをその親達にさりげなくアピールせねばならなかった。
「名前はシェリルだよ。今は大好きなお散歩中なんだ。」
「へぇ〜、可愛い名前だね! 」
僕がそう名前を教えると子供達は目をキラキラさせてシェリルに触ってくる。シェリルも最初のうちは地面にちょこんと座って機嫌良さそうに頭を撫でられたりしていたがあまりに多くの子供が寄ってくるので段々と嫌気がさしてきたのか今では街路樹を伝って高いところに上がってしまい子供達に触られないようにしていた。子供達は残念がったがシェリルの気持ちも分かるので僕は「ごめんね、ちょっと疲れちゃってさ、またね。」とその子供達を宥めなければならなかった。
「クゥーン! 」
すると突然シェリルが急に大きな声で鳴いた。驚いてシェリルの方を見るとシェリルがミールの家の方を凝視している。僕もシェリルに倣ってミールの家の方を見るとちょうど門から白い半袖のブラウスに緑色のミニスカートを身に纏ったミールが出てきたところだった。
「よく見ていてくれた! シェリル! 」
僕はそう言うといきなり走り出した。シェリルは街路樹から僕の肩に飛び移る。すると子供の一人が叫んだ。
「すげーっ! でももう帰っちゃうの!? シェリルちゃんともっと遊びたいよう! 」
「ごめんね! また今度ね! 」
僕はそう言うと子供達を振り切ってミールが歩いていく道路と平行に並んでいる道路を走りミールの行く手の先回りをしようとした。僕はミールが進むであろう進路を推測してその先にある小さな雑木林の陰でミールを待つことにした。
「ミ、ミール! 」
トボトボと歩いてきたミールに僕は木陰から思い切って話しかけた。彼女の顔は相変わらず可愛らしい。だが表情はどこか沈んでいるような気がする。おそらく彼女は僕の両親が捕まっていることは知っているだろう。彼女がどんな反応をするかが不安だったがそこはシゲの話を信じるしかない。「彼女が僕に会いたがっている」という話をだ。
「ユ、ユージーン君! 」
ミールは物凄く驚いた様子だった。目を丸くしまるで幽霊でも見てしまったかのように身体を固まらせている。あまりにもびっくりされて一瞬僕ら二人の間が静まりかえってしまったので僕は慌てて言葉を繋いだ。
「げ、元気かい? 」
「……うん。」
ミールは急に俯き気味になって僕から目を逸らしそう小さく返事をした。その態度からはあまり僕に会いたがっているという風には感じられない。シゲの情報は間違っていたのか!? 僕は焦った。
「い、今から何処か出掛けるのかい? 」
僕は咄嗟にそう質問した。彼女は暫く黙って返事すらしてくれない。気まずい沈黙だ。ひょっとすると彼女もコイチ一家が僕を探しているということは知っているのかもしれない。彼女は僕のことをコイチに言うべきか言わないべきか悩んでいるのかもしれなかった。
「……図書館へ行こうと思っていたわ。」
彼女はようやくポツリとそう言った。このままでは埒が開かない。僕は思い切って口調を変えて力強くこう言った。
「ミール、君に聞きたいことがあるんだ。ちょっと付き合ってくれないか? 」
僕がそう言うとミールはようやく僕の目を見てゆっくりとこう言った。
「……分かったわ。このすぐ先に川があってそこに掛かっている橋の下なら人はあまり来ないの、そこへ行きましょう。」
そう言う彼女の目は少し虚ろな気もした。だが取り敢えず僕と話をする気はあるらしい。僕ら二人は橋の下を目指して歩き出した。橋の下にはすぐ着き僕らは石造りの小さな橋脚の根元で流れる川を見つめながら立ち並んだ。
「……可愛いわね。なんて動物なの? 」
ふとミールは僕の足元に寄り添うシェリルを見ながらそう僕に聞いてきた。ようやく自分から声を掛けてきてくれたミールに何か気の利いた返事をしようと思うが何も浮かばない。僕は川を見つめながら素直にこう返した。
「名前はシェリルっていうんだ。シゲが言うにはレッサーパンダっていう種類の動物らしい。僕はよく知らないんだけど。」
「……そうなんだ。」
駄目だ、話が全然弾まない! シゲの話はどうやら本当に違っていたのかな? このままではとてもミールのお父さんのマッケンジーのことなど聞けやしない。
「シゲが言うにはレッサーパンダってのはヘフナー王国には生息していない動物なんだって。不思議だろ? 」
「……そうね。」
僕が雰囲気を変えようと慌てて付け加えた話にもミールは乗ってこない。このままでは駄目だ! 僕はミールの方に向き直るとミールの目を見た。ミールも視線をシェリルから僕の顔に移す。こうしてようやく二人の目が合った。そこで僕は改めて言った。
「そのシゲから君が僕に会いたがってたって聞いたんだ。」
「……。」
彼女は何も言わず僕を見つめている。僕は言葉を重ねた。
「……違うのかい? 」
「……。」
彼女はやはり何も言わない。それどころか彼女は僕から目を逸らし俯いてしまった。彼女は罪人の子供と思われている僕のことなんかもうどうでもいいのかな? 僕は少し淋しい気持ちになりながらこう言った。
「……もう僕のこと、好きじゃない? 」
「! 」
彼女が以前僕に好意を寄せてくれていたことを思い出し思い切って僕はそう質問してみた。彼女は初めてここで目を見開いてピクッと反応したように見えた。そして暫くすると彼女の目には涙がじんわりと滲んできた。




