出来レース
「そのマッケンジーという男の居場所が分からないか? 」
僕がそう焦ったように聞くとシゲは苦笑いしながらこう答えた。
「落ち着けよ、ユージーン。いろいろ調べてあるからさ。と言っても俺が調べた訳ではなく俺が今お世話になってる弁護士の先生が調べてくれたんだけどな。実は先生は仲介人がそのマッケンジーという男だということを既に調べ上げていて早速先生はマッケンジーと会ってくれたんだ。先生もその男が何か鍵を握っているかもしれないと思ったようだ。」
そう言うとシゲは一枚の書類を出してきた。そこにはとある住所が書いてあった。
「それが詐欺の被害届を出しているマッケンジーという男の家の住所だ。」
「会ってみてどうだったんだろう? 何か分かったのかな? 」
「いや、結論から言うとマッケンジーは何も先生に尻尾を捕ませなかったらしい。まぁそれは当然だろう。」
「……う〜ん。」
ではどうすればいいのだろう? 銃を頭に突き付けて脅しでもしない限りは口を割ったりはしないのではないだろうか? だが法廷ではそんなことは当然出来る訳がないのだ。証拠がない限り法廷で「お前が刀を盗んだのだろう! 」と詰め寄ったところで「何のことですか? 分かりません! 」と言い返されればお仕舞いなのだ。
「盗んだ刀でも探し出せればいいのだがな。」
シゲはポツリとそう言った。確かに盗まれた刀を裁判官の前に差し出せれば父さんが決して犯罪者ではないということが強くアピール出来るだろう。僕はシゲに聞いた。
「もし何か証拠を得たとしたらどうしたらいいんだ? 裁判所に事前に持っていくのか? 」
「そんなことをしたらその証拠はタンケーダ家によって隠滅される。いいか? この裁判は今のところは出来レースなんだ! 」
「出来レース? 」
「ああ、出来レースだ! マッケンジーの弁護士を務める男はもちろんタンケーダ家の息のかかった人間だがお前の親父さんの弁護士も実はタンケーダ家の回し者なのだ。結局お前の親父さんが負けるようにこの裁判は出来てる。」
「何だって!? 」
そんな馬鹿なことってあるか!? 何をしようとも結果が決まっている裁判なんておかしいじゃないか! 僕がそう叫ぼうとするとシゲが僕の顔の前に人差し指を一本突き出してこう言った。
「お前の親父さんを救う方法は一つしかない。」
「何だ、それは? 」
シゲは丁寧に説明してくれた。
「ではこの国の裁判制度の歴史から説明しようか。この王国の裁判は昔から秘密裏に行われることが多く時の権力者が自分に都合の良いように判決を出させてしまうことが殆どだった。だが今のヘフナー国王がそれに異を唱えてようやく裁判は公開して行われるようになったのだ。今まで密室で行われていた裁判を民衆の目の前で行うことにより透明性が増すとヘフナー国王は考えたのだ。」
「なるほど。」
「だが一部の金持ち達はそれに対抗する自衛策として役人を買収して自分達選ばれた金持ち以外は弁護士を選べない制度をこっそりと作ってしまったのだ。だからお前の親父さんを弁護する筈の人間も実はタンケーダ家側の人間であって裁判はどう転んでもマッケンジー側に有利にしかならない。そしてそのことを国王は勿論、王族の人間は誰も分かっていないのだ。」
「じゃあ、どうすればいいんだ? 」
僕がそう聞くとシゲはニヤッと笑ってこう言った。
「裁判は公開されていてそこには王族の人間も必ず一人は立ち会うことになっている。そこに俺達が決定的な証拠を持ってその王族の人間に直訴するんだ。王族の人間はそんな出来レースのことなど何も知らないクソ真面目な堅物が多いからこちらの主張を信じさせれば判決をひっくり返すことが出来る。最終的な判決を決定するのはその場にいる王族の人間なのだ! しかも裁判は一発勝負でその日無罪の判決を勝ち取ればお前の親父さんは即釈放される。」
「すげーぜ! シゲ! 」
僕はシゲの話を聞いていて感動してしまった。よくぞそこまで色々調べてくれたものだ。だがシゲはこう続けた。
「今の話は全部俺がお世話になっている弁護士の先生の受け売りだ。俺は何も凄くない。だが俺達はこれからが大変なんだ。証拠を集めなければならないからな。」
シゲはその弁護士の先生と証拠集めをするつもりなのだ。だが僕にも何か出来ることはないのだろうか? そりゃ子供の僕に出来ることなんてたかが知れている。でも僕は何か役に立ちたいと思ってシゲに聞いた。
「シゲ、ありがとう。だけど僕は自分が何もせずシゲやその弁護士の先生に何から何までお世話になる訳にはいかない。僕に何か出来ることはないか? 」
僕がそう言うとシゲは改めて僕の顔を覗き込んで言った。
「一つ頼みたいことがあるんだ。」
「何でも言ってくれ! 俺だけが何もしない訳にはいかない。」
僕がそう言うとシゲはこう言った。
「ところでだが、マッケンジーという男の住所に見覚えがないか? 」
突然そう言われて僕は慌ててマッケンジーの住所を書いた紙をじっくり眺めた。だが僕にはシゲが何を言いたいのか分からなかった。
「学校の近くだというぐらいは分かるけど……何かあるのか? 」
僕がそう言うとシゲはニヤッと笑って言った。
「その住所はミールの家の住所なんだ。」
「えっ!? 」
「俺たちのクラスメイトのミールの家の住所なんだよ。」
僕は驚いて腰を抜かしてしまいそうになった。そこへシゲが追い打ちをかけるように言った。
「マッケンジーというのはミールのお父さんなんだ。」
僕に好意を寄せてくれたあのミールのお父さんがマッケンジーだって!? 僕は驚きすぎて声を出すことが出来なかった。
「この前学校の図書館で俺はミールとたまたま出会った。彼女はとても疲れたような表情をしていたんだ。そこで俺は彼女に話しかけた。するとやたらとお前のことを聞いてくる。『ユージーン君は今何処にいるのだろう? 』とか『ユージーン君は元気なのかしら? 』とかな。」
僕は黙ってシゲの話を聞いていた。
「俺はフンフンと彼女の話を聞いていたんだが最後には彼女は『ユージーン君に会いたい! 会って話したいことがある! 』と言って泣き出しちまった。それ以上は俺が何を聞いても答えてくれなかったが彼女の態度からしておそらく彼女はお前に何か打ち明けたい秘密があるのだと思う。ひょっとしたら自分の父親の何か後ろめたい秘密を知っているのかもしれない。」
ミールは僕のことを好きと言ってくれたことがあった。自分が好意を寄せている相手の親が逮捕され、しかも本人が行方不明となれば優しい彼女は僕のことを単に心配して泣いただけなのかもしれない。だがシゲの推測通りの可能性はゼロという訳ではないのだ。
「先生と俺はマッケンジーからは何も聞き出せなかったがミールは何か知っているのかもしれない。それを聞き出せれば俺達はお前の両親を救えるし、あわよくばコイチ一家を追い詰めることも出来るかもしれないんだ! お前はミールと仲良かったし、彼女から何か聞き出せないか? 」
シゲは僕の顔を睨みつけるように見つめていた。僕は静かに首を縦に振った。
「だがな、一つ言っておきたいことがある。」
シゲは頷く僕に更に一言語りかけた。
「絶対コイチ達に捕まるなよ! 捕まればお前は間違いなくその地下牢に再び連れていかれ太陽を拝むことは二度と出来なくなるぞ。」
僕はシゲの言葉に今更ながらドキッとした。確かにシゲの言う通りなのだ。これはコイチ一家と僕の命を懸けた戦いなのだ。僕は再び無言で頷いた。
「分かったな? 気を付けろよ、ユージーン。で、あともう一つお願いがあるんだが。」
「何だ? 」
「王族の人間にタンケーダ家の秘密を暴露してやりたいとも思っている。例の巨人の話を詳しく教えてくれ! 」
「あぁ、いいとも。」
僕はシゲにそう言われてふと思い出したことがあった。僕はリュックの中をゴソゴソと漁ると一冊の本を取り出してシゲに見せた。それはコイチ一家の敷地の中で巨人と戦った時に拾った「魔物の飼育についての報告」というタイトルの書かれたレポートだった。




