可愛いシェリル
「クゥ〜ン。」
道に戻って数歩進むとまた背後から鳴き声がした。振り向くとさっき助けたオレンジ猫君がヨロヨロと僕の後をついて来ようとしている。
「なんだぁ? お前、まだ脚が痛いんだろう? じっとしてなくていいのか? 」
僕がそう言ってもそのオレンジ猫君は左前足を庇いながらゆっくりと僕の方に向かってくる。しかもつぶらな瞳で僕をじっと見つめながらだ。野生の動物なのに人間を怖がる様子は全くなくそれどころか懐いているような仕草に僕はすっかり魅了されてしまった。ひょっとして、僕はこいつに気に入られたのかな?
「仕方がないなぁ、一緒に来いよ。」
僕がそう言ってしゃがみこみ両手を広げるとオレンジ猫君はヨロヨロと僕の手の方に歩いてきた。僕はオレンジ猫を抱っこしたがオレンジ猫は全く警戒する様子がない。そういえばこの子は男の子なのかな? 女の子なのかな? ふとそう思った僕は抱きかかえたオレンジ猫の下腹部を見た。するとおチンチンらしきものがない。どうやらこの子は女の子のようだ。お腹を優しく触ると気持ちよさそうにしている。そして暫くするとオレンジ猫は素早く動いて僕の右肩の上にちょこんと座った。ふふ、可愛い奴だ。
「そんなに僕のことが好きなのか? まぁいいや。お互い淋しい者同士仲良くやっていこうぜ。」
僕がそう言うと心なしかオレンジ猫が笑ったように見えた。またその表情が妙に可愛い!
「女の子なのにオレンジ猫じゃあちょっと宜しくないな。お前の名前は……う〜んと、そうだなぁ……。」
僕がオレンジ猫の名前を考えているとどういう訳か死んだお婆ちゃんの名前がふと頭に浮かんだ。お婆ちゃんの名前はシェリルといって若い頃は無茶苦茶綺麗な人だったらしい。僕の記憶にはお婆ちゃんになった姿しか残っていないけれどそれでもとってもキリッとしたお婆ちゃんだったことを覚えている。
「シェリル! お前の名前は今日からシェリルだ! 可愛らしい名前だろ? 」
「クゥ〜ン! 」
僕がそう問いかけるとシェリルは僕の頬をペロペロと舐めてきた。ペットなど飼ったことのない僕だったが一人ぼっちの淋しい今は物凄く癒される。僕はシェリルを肩に乗せたままシゲの別荘を目指した。
「お! あれかな? 」
山の麓を歩き回ること約三十分、僕はようやくシゲの言っていた別荘らしきものを見つけた。良かった! 夜通し歩いたからもう僕はクタクタなのだ。今日はここでゆっくり出来る。屋根のあるところで寝れるということがこんなに嬉しいことだなんて! 生い茂る草木の間に隠れるように建っているそのログハウスに僕はゆっくりと近付いていった。だがその時だった。
「ガサガサ! 」
突然僕とログハウスの間の草むらが揺れたかと思うとそこから一匹のゴブリンが現れた。そいつは背丈は僕の胸ほどまでしかないが幅は僕の倍ほどある太ったゴブリンだった。奇怪な緑の顔に怒りの表情を浮かべ僕を睨みつけてくる。ゴブリンは一般的に人間が嫌いなのだ。人間を見かけると理由もなく攻撃してくる。そのゴブリンも自分の背丈と同じぐらいの木の枝の先に岩を括り付けた大きなハンマーを両手に抱えている。それで僕を殴ろうってのか? 上等だぜ!
「……クゥ〜ン。」
シェリルが怯えたような声を出した。怖いのかな? 僕はシェリルを右肩に乗せたまま左肩にかけたライフル銃を下ろして銃口をそのゴブリンに向けた。本当に攻撃してくるようなら僕も自分の身を守らねばならないのだ。ゴブリンも大きなハンマーを身体の前でまるで刀のように構えた。ふざけやがって! 僕とゴブリンは暫く睨み合った。
「……ソイツ、ヨコセ。」
ゴブリンが急に片言で僕にそう言った。ゴブリンは人間の言葉を理解しているとは聞いたことがあるが実際にゴブリンが言葉を喋るのを聞いたのは初めてだ。僕はちょっと驚いた。
「ソイツ、ヨコセ。」
何を言ってるんだ? 僕のライフル銃を欲しがっているのか? ふざけた野郎だ! むざむざ敵に自分の武器を渡す馬鹿がどこにいる? 僕は威嚇のつもりでライフル銃の銃弾をゴブリンが持つハンマーに向けて発砲した。
「ズダ〜ン! 」
するとハンマーの打撃部分が吹っ飛んだ。驚いたゴブリンは僕に背を向けると慌てて逃げ出した。馬鹿な奴だ。余計なちょっかいを出してくるからこんなことになるのだ。命があるだけ僕に感謝しろ! 僕はそう思いながらライフル銃をまた左肩に掛けた。すると右肩に乗ったシェリルが甘えた声を出した。
「クゥ〜ン! 」
恐怖が去って嬉しいのかな? 僕はシェリルの頭をちょっと撫でるとログハウスに再びゆっくりと歩み寄っていった。




