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Cross Of Blue Iron  作者: 福山 サミー 大介
竜と巨人編
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シゲ

「ユージーン、今までどうしていたんだ? 」


屋敷の裏口から出てきたシゲはそう言うと僕の顔をじっと見つめてきた。その表情からは複雑なものが感じられる。僕を心配してくれているような、それでいて訝しげるようなどっちつかずの不安定なシゲの感情が見て取れた。シゲは僕の身を案じてくれているとばかり思っていた僕にとってはそのシゲの顔はかなりショックだった。だがシゲはシゲなりに何か僕に対して思うところがあるのだろう。僕は自分が体験したことをシゲに正直に話すべきだと思ってこう言った。


「シゲ、僕はこの数日間世の中がどうなっているのか全く知らない。だが僕の身に起こったことを聞いてほしいんだ。これから僕が話すことは全て真実で友人の君に嘘はつかないと約束する。……聞いてくれないか? 」

「……分かった。」


シゲは僕の目を見て頷いてくれた。良かった! 取り敢えず釈明のチャンスをシゲはくれたのだ。僕は語り始めた。夜家に帰ると憲兵達が家を取り巻いていてコイチに拉致され嫌という程殴られたこと、その後地下室に軟禁されたこと、そしてそこから脱出して何とかこうしてシゲの家まで辿り着いたことを。シゲはじっと目を閉じて僕の話を聞いていた。


「付け加えておくとこれは看守が言っていたことなんだが……コイチの地下牢では今まで多くの人が犠牲になっているらしい。コイチの家に刃向かった人間は皆その地下牢に閉じ込められて殺されたと看守は言っていた。俺は……多分子供だと思われて看守が油断したからたまたま逃げられたのだろう。全てはこのムラサメが勇気をくれたからだ。」


僕はタンケーダ家の悪事に加えて巨人トロールと遭遇したことや自分の身に起きた不可思議な現象ーームラサメ出現ーーのことも正直に話した。


「嘘だと思われるかもしれないがこれは全て本当のことだ。信じて欲しい。」


僕の熱弁をじっと黙って聞いていたシゲは僕が喋り終わってもなかなか口を開こうとしなかった。シゲは僕のことを信用してくれないのかな? だが僕には真実を話す以外は何も出来ない。全てを打ち明けたのに信じてもらえなかったら僕はどうすればいいのだろう? 僕がそう途方にくれかけた時だった。


「……大変だったな、ユージーン。」


シゲがポツリとそう言って僕に微笑みかけてくれた。その顔を見ると僕はホッとして涙ぐんでしまった。シゲは僕のことを信用してくれたのだ。僕はヨレヨレのシャツの袖の部分で鼻水を拭きながらシゲに礼を言った。


「あ、ありがとう! シゲ! 」


僕はシゲの右手を両手で固く握り締めた。シゲも力強く握り返してくる。今まで一人ぼっちだった僕に急に頼もしい味方が出来たのだ。これ以上嬉しいことはなかった。


「シゲ、さっそくなんだけど僕の家族がどうなったのか知りたいんだ。何か知らないか? 」

「……。」


シゲは暫く黙っていたが僕はピンときた。シゲが黙っているのは何も知らないからではなく何かを知っているがそのことが僕に言いにくいから黙っているのだ。僕はシゲに優しく促した。


「構わないから本当のことを言ってくれよ、シゲ。」


するとシゲは少し俯いて小さな声で言った。


「お前の両親は憲兵に逮捕された。」

「何だって!? 」


僕は思わず大声を上げてから慌てて口を両手で塞いだ。周囲をそっと見渡すが畑の真ん中に建つ屋敷の物陰に潜む僕らに注意を払う者はいないようだ。僕はシゲにもう一度尋ねた。


「逮捕されただって?」

「ああ、新聞にはそう書いてあった。」

「容疑は?」

「詐欺罪と王室への侮辱罪だ。」

「はぁ?」


僕には訳が分からなかった。あの真面目で堅物の父さんと母さんがそんな罪を犯すなんて信じられない!僕はシゲに詰め寄った。


「もっと詳しくは分からないのか?」

「新聞には王室から注文を受けた装飾品の代金を騙し取ったことに対する詐欺罪と納品期限を守れなかったことに対する王室侮辱罪だと書いていたな。」


そんなことあの父さんと母さんがする訳がない! それとも僕の知らないところで実はお金に困っていたのだろうか? 僕は何と言っていいのか分からず呆然としてただ突っ立っていることしか出来なかった。


「……それともう一つあるんだが。」


シゲが言いにくそうにしながらも付け加えた。


「装飾品の代金を騙し取られたとして訴えたのがマッケンジーというお前の両親と王室の間を取り持っていた仲介人なんだがその男のバックにはコイチの家が絡んでいるらしい。でコイチの家の人間が今日の昼間にこの家にやってきてお前のことを探していると言っていた、重要参考人だとな。」


やはりコイチが絡んでいたか! 僕の両親の罪も何か胡散臭い気がしてきた。ひょっとしてコイチの親に何か騙されているのでは? だが僕はどうすればいいのだろう? もし仮に騙されていたとして僕がそのことを証明するなんて出来るのだろうか? 僕は再び呆然として地面のただ一点を見つめることしか出来なかった。するとシゲが突然こう言った。


「ユージーン、ちょっと待ってろ!」


シゲは屋敷の中に姿を引っ込めた。何をするのだろう?と思ったが僕の頭の中はすぐに自分のこれからの人生をどう生きていくか? ということに切り替わった。こんな僕みたいな子供が一人で生きてゆけるほど世の中は甘くない。両親の無実を証明出来なければ僕は一人ぼっちで生きていかねばならないのだ。ひょっとしたら近いうちに街の片隅で残飯を漁る浮浪者になっているかもしれない。そうあれこれと考えていると僕の目にはまた涙が浮かんできた。


「ユージーン、待たせたな!」


待つこと三十分、シゲはそう言いながら両手に大きな風呂敷で包まれた荷物を抱えて屋敷から出てきた。僕は慌てて涙を拭くとシゲの方を見た。その風呂敷は一体何だろう? 

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