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Cross Of Blue Iron  作者: 福山 サミー 大介
竜と巨人編
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巨人との戦い

「ウガーッ! 」


巨人トロールはそう大きな声で雄叫びを上げるとズシン、ズシンと早歩きで僕の潜むビニールハウスに近づいてきた。もうこうなっては逃げられない。距離は約二十m程だろうか? 僕は以前に巨人トロールと対峙した時のことを思い出した。あの時は狙いを外しまくったが今回は一発で仕留めなければならない。でなければ後ろにいる馬に乗った男から反撃を喰らうことになるだろう。何故ならその男も背中にライフル銃を背負っているのが松明の炎でちらっと見えたからだ!


「最初の一発で巨人トロールを仕留め二発目であの男を殺すしかない。」


僕はそう呟きながらゆっくりとライフル銃を構えた。ビニール越しに月明かりに照らされた巨人トロールが迫る! 距離はもう十mを切った!


「ウギャオーッ! 」


巨人トロールが再び叫んで僕のいるビニールハウスに手を伸ばしてきた。来やがれ! シンシア杯を制したこの僕がお前を屠ってやる! 僕は引金をゆっくりと絞った。


「ズドーン! 」


僕のライフルが火を噴いた。巨人トロールまでの距離は五m、ライフルの銃弾はビニールを突き破って巨人トロールの顔面を捉えた。


「ギャァーッ! 」


巨人トロールは物凄い悲鳴を上げて地面にうつ伏せに倒れた。その後暫く身体が痙攣している。完全に動かなくなるまでは少し時間がかかった。馬に乗った男は呆然としてその様子を眺めていたがふと我に返り大きな声で叫んだ。


「大丈夫か!? エミリー! 」


何がエミリーだ! 巨人トロールにそんな可愛らしい名前付けやがって! 怪物と仲良くするなんてお前もどうせまともな奴ではあるまい、お前も愛するエミリーが待つところへ僕が送ってやる!


「ズダーン! ズダーン! 」


僕は松明を持つ男めがけて二発の銃弾を発砲した。暗闇の中に浮かぶ松明の炎に照らされた男の顔を狙って僕は銃弾を撃ち込んだのだがどうやら外したらしい。男は驚いた様子で大きな悲鳴を上げると松明を放り出し馬を走らせてその場から走り去ってしまった。


「ふぅ。」


僕はそう深呼吸するとビニールハウスから周囲を確認しつつゆっくりと外へ出た。外にはうつ伏せに倒れて動かなくなった巨人トロールが地面に落ちた松明に照らされてその毛むくじゃらの身体を暗闇の中に浮かび上がらせている。だが僕の目にはもう一つ気になるものが写った。松明の近くに厚さ十cmぐらいの本のようなものが落ちているのだ。僕は松明の方に歩いていってその本を拾い上げた。


「魔物の飼育についての報告」


その本の表紙にはそう書いてあった。何だ? これは? 僕は松明の明かりを頼りにその本を読もうとした。だがその時だった。遠くで人の叫び声が一瞬聞こえたような気がした。そう、ここはまだコイチの家の敷地の中なのだ。ゆっくり読書をしている余裕はない。僕はその本を背中のリュックサックの中に放り込むと暗闇の中を歩き出した。松明は発見される危険を考えて敢えて僕はそれを拾わなかった。


「逃げなければ! 」


そうして森の中を歩くこと数時間、夜がしらじらと明けようとする頃になってようやく僕はコイチの家の敷地と公道との境界線に達した。境界線には鉄条網が張り巡らされていたが何ヶ所か綻びがあったのでそこから僕は外に脱出した。周囲は森に囲まれ馬車が一台ようやく通れる位の幅の小さな道路が通っているだけだ。僕はゆっくりとその道路をシゲの家の方向へ歩き出した。


「脚が痛いし、眠いな。」


僕はふとそう呟いた。夜通し歩いたので足首や脹脛の辺りがジンジンと痛む。寝ていないので頭もぼんやりだ。夜が明けつつあるので気温も徐々に上昇していて身体中がまた汗ばんできている。風呂に入りたいがそんなものは当然ない。僕はひょっとしたらもう一生お風呂にゆっくり浸かるなんてことは出来ないのかもしれないのだ。父さんや母さんはどうしているのだろう? 僕の目には知らぬ間にまた涙が浮かんだ。だがその時だった。


「ガラガラガラ! 」


激しい物音が近づいてくるのが聞こえる! おそらく馬車だ! 僕は慌てて道路脇の茂みに隠れた。それがコイチの家の馬車だったらまた捕まってしまうかもしれないからだ。もし見つかったら僕は自分が生き残る為にその馬車に乗った人間を皆殺しにするしかないのかな? 人に銃口を向けることは決して気持ちの良いものではない。でも考えてみれば僕はさっき巨人トロールの後ろにいた男に躊躇うことなく発砲したのだ。自分がどんどん自分じゃなくなっていくような気がする。でもあの地下牢に連れ戻されることだけは嫌なのだ! その為にはなんでもやらざるを得ない。


「逃げたぞ! 」

「探せ! 」


見つかりはしなかったが通り過ぎる馬車からはそう御者達が叫んでいるのが聞こえた。おそらく僕のことだろう。僕はもうお尋ね者のようになってしまったのだ! 僕の将来に明るい未来なんてあるのか? 馬車が行ってしまったのを確認すると疲れきった僕は何もやる気がなくなりそのまま茂みの中でウトウトと眠ってしまった。

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