ビニールハウスにて
「……これからどうする? 」
太陽が地平線に隠れようとしている。さっきまでは木々の間から差し込む太陽の光で周囲は明るかったのに今はかなり暗い。一人ぼっちの僕にとってはこの上なく心細い状況だがもうこれ以上泣き続けている訳にはいかない、それで事態が好転することはないのだから。
「ふぅ。」
僕は一回深呼吸をしてから考えた。父さんや母さんはどうしているのだろう? 看守の言っていた通りもう殺されてしまったのだろうか? それとも僕と同じように何処かに連れ去られているのかもしれない。でもひょっとしたら何事もなく家に居て僕のことを心配して待ってくれているのかもしれない。
「……父さん、母さん、そして兄さん。」
僕は思わずそう呟いた。なんせ現時点では情報が無さすぎるのだ。調べなければならないことは沢山ある。だがいずれにせよ最終的な自分の目的はもう決めた。
「地下牢での出来事や看守の言っていたことを世に洗いざらいぶちまけてコイチの家を追い詰めてやる! 」
僕はこれからの自分の目的をそう声に出した。このままコイチにやられっぱなしなんて我慢出来ない! 必ずやり返してやる!
「取り敢えずこの森から出よう。」
おそらくこの森はコイチの家の敷地の中にある筈だ。そのうち僕が逃げ出したことは暴露るだろうしそうなればここに居続けることは危険だ。また捕まってしまう。僕はライフル銃を背中に背負い右手に拳銃、左手にムラサメを持って日が高いうちに割り出した方角をもとに取り敢えず自分の家の方向に歩き出した。だが家が安全とは限らない。それにのこのこと家に戻ればコイチの家の人間が僕が戻るのを監視していてまた捕まってしまうかもしれない。どうする?
「警察に行くか? 」
いや、警察は駄目だ。警察に行って今までの出来事を話しても信用してくれるかどうか分からない。それにあのコイチの親のことだ、警察にもコネがあるだろう。裏から手を回されれば僕はすぐに捕まってまた地下牢に連れていかれ今度は死ぬまで殴られ続けるのだ。そうなると……どうする?
「信用出来る奴、……そうだ! シゲだ! 」
僕はそう閃いた。シゲの家に行ってみよう! シゲなら信用出来るしシゲも僕の言うことを信じてくれるだろう。自分の家や警察が駄目となればもうシゲぐらいしか頼ることの出来る人間はいないのだ。僕はシゲの家の方角にゆっくりと歩き出した。そして十分程歩いた時だった。
「おっ! 」
険しい森がようやく終わりを告げ目の前には平地が広がりそこには何軒ものビニールハウスが月明かりに照らされていた。ひょっとすれば中に何か食べ物があるかもしれない。僕は人がいないことを確認しながら暗闇に紛れてゆっくりとビニールハウスの一つに近づきその扉を開けた。
「ガチャ。」
扉を開けるとビニールハウスの中は暑い。何が栽培されているのだろう? そう思うとグゥとお腹が鳴った。そういえば今日は何も食べていないのだ! 僕はビニールハウスの中をごそごそと調べ始めた。すると僕はいくつかの丸い果実の様なものが生っているのを発見した。最初は西瓜かな? と思ったがよく見るとそこまで大きくない。どうやらそれはメロンのようだった。
「やったぜ! 」
僕は一人で歓喜の声を上げると一玉のメロンを手に取りムラサメで四等分にカットして無我夢中で食べ始めた。果肉はやや硬かったが甘みは申し分ない。実は僕はメロンが大好きなのだ! しかもどうせコイチの家で栽培しているメロンなのだから遠慮する必要もない。僕はすぐに六玉ほど平らげてしまった。暑い夏の夜のせいか喉も渇いていてみずみずしいメロンはいつも以上に美味く感じられる。僕はビニールハウスの中でリュックサックを見つけたのでその中にメロンを詰めれるだけ詰め込んだ。お金も持っていないしこれから自分がどうなっていくのか見当もつかないのだ。取り敢えずメロンが四玉入ったのでそれだけあれば明日一日ぐらいはもつだろう。これからはその日暮らしが当分続くのだ。
「ズシーン! 」
その時だった。ビニールハウスの外から何かの振動が響いてきた。それはまるで大きな石が落ちたような振動だったがその後連続で響いてきてしかも段々と大きくなってきている。何だ!? 僕はリュックの中にムラサメと拳銃も放り込むとそれを背負い取り敢えず動きやすくした。そしてライフル銃を握りしめながら息を殺してビニールハウスの中に隠れて息を潜ませじっとしていた。
「ガチャッ! 」
僕は万が一の場合に備えライフルに弾丸を装填して安全装置を外しいつでも撃てる状態にした。音はますます大きくなっている。コイチは自分の家の敷地内で象でも飼っているのか? 汗がまた僕の額にじんわりと滲む。喉も渇いてきた。暫くして僕はじっとしていられなくなりビニールハウスの中からビニール越しに外の様子を伺った。外は暗いが平地で十分な月明かりがある。その時僕は月明かりに照らされた驚くべきものを発見した。
「あっ! 」
僕は思わずそう声を上げてしまった。身長が三m程の巨人が一体歩いていたからだ。おそらく巨人としては小さいのでひょっとしたら子供の巨人なのかもしれない。だが驚いたのはそれだけではない。その巨人の後ろに松明を片手に馬に乗る人間がいたからだ。巨人と人間が仲良く歩く姿など今まで僕は見たことがない! 何なんだ!? こいつらは?
「ウゥ〜! 」
巨人が僕の方を見て唸った。巨人は嗅覚が鋭い。おそらく僕の存在に気が付いたのだ!
「エミリー、どうした? 」
巨人が唸るのを見て後ろの馬上の男が叫んだ。何ということだ! あの巨人にはエミリーという名前がつけられている! ということはおそらくコイチの一家はあの凶暴な巨人を飼育しているのだ! しかも僕は気付かれてしまった! ヤバい!




