A LIGHT IN THE BLACK
「……もう先生には会えないの? 」
「……。」
先生は何も言わず俯いている。そして先生の頬をまた新たな涙の雫が伝って落ちた。先生はこの騒動で色々なものを失うことになったのだ。この国で勉強することはおろかこの国で知りあった人達と触れあうことやこの国を肌で感じることすらも先生はもう出来なくなる。僕も悲しいけど先生も悲しいのだろうな。そう思うと僕は無意識に一歩先生に近ずいていた。
「……先生。」
「……な、何? 」
先生が泣きながら僕の方を見た。泣いていてもその顔はとっても可愛い。でも今この瞬間が先生に会える最後の機会になるのかな? そう思うと僕の瞳にも何度でも涙が溢れてくる。駄目だ! 心を強く持たなければ! 僕はそう思うといつか必ずルカ先生と再会するということを心の中で誓った。夏休みに受験勉強を中断してでもプルーディンス王国に会いに行ってやる! 受験が終わって大学に入ればそれこそ長期休暇の度に会いに行ってやる! だがそれらを実行するのであれば僕にはやらなければならないことがあった。僕の頭の中が急に心臓のドキドキ音で一杯になる。僕は意を決して言った。
「……先生、僕は先生のことが好きです。」
先生の瞳が一瞬ピクッとなった。ふと考えると僕らは出会ってからまだ四ヶ月程しか経っていないけれどもう一年ぐらいは既に経っているような気がする。それぐらい僕は四六時中先生のことを考え続けていたのだ。やっと言えた。やっと僕の気持ちを伝えることが出来たのだ。
「……ユージーン。」
先生は俯いたままそう僕の名前を呼んだ。
「……。」
だがその後先生は黙ってしまった。ひょっとして、というかやっぱり先生は僕のことは何とも思っていなかったのかな? 年下だし甘えったれの駄目な男って先生にはおそらくバレているだろうし。僕の告白は先生には迷惑だったのかな? であればやっぱり今日が二人が会える最後の日かもしれない。そう考えると僕は自分がとんでもなく惨めに思えてきた。だが暫くするとルカ先生が僕のその気持ちを掻き消すように突然顔を上げて僕の方を見た。
「……あたしね、ちょっと男性不信なところがあるの。」
ルカ先生はおもむろに喋り始めた。
「あたしの家が軍人の家系だって話をこの前したわよね? だから家に来る人は殆どが軍関係者だったわ。」
僕は黙ってルカ先生の話を聞いていた。
「その中であたしに好意を寄せてくる人も何人かいたの。でもそいつらはクズばっかりだったわ。みんなあたしをきっかけにしてあたしのお父さんに近づき気に入られて出世することを考えている奴ばっかりだった。」
ルカ先生を利用しようとするなんて許せない! 僕は聞いていてかなりそのクズ共に腹が立った。
「それにプルーディンス王国の軍人はエリート意識が強くてね。他人をいつも見下して馬鹿にしていたわ。あたしはそんな男達ばかりを見ていたから男っていうのは最低な生き物だと思っていたの。」
そりゃ確かにそんな態度を取る男は駄目だろうな。逆に僕は劣等感の塊だからそういう態度を取れる人の気持ちが分からないや!
「そんな風に男性のことを考えている時にあたしはこの国へ留学してきたんだけどヘフナー王国の男子学生もプルーディンス王国のクズ共とそう大差なかったわ。エリート意識の強い大学生に私はうんざりしていたの。」
僕もひょっとしたらそのクズの予備軍の一人なのかな? そう思われていたら……辛いな。
「そんな時にあたしはあなたと出会ったわ。でも正直言うと最初の印象はあまり良くなかった。甘やかされて育った無気力な男の子、そんな風にあなたのことを見てたわ。」
それって滅茶苦茶心に刺さるよ。先生、もうそんな話やめてよ!
「でもあなたは変わったわ。あたしの必要以上に厳しい指導に文句一つ言わずに耐えて成績は急上昇、おまけに射撃大会でも優勝した。身体も鍛えて心身共に物凄くあなたは以前に比べるとたくましくなっているのよ! 」
「そ、そうですか? 」
急に褒められて思わず僕はそう言った。すると先生は一歩僕に近づきつつ言った。
「嘘! 自分でも分かっているでしょう? あなたはとってもいい男になったわ。おまけにそんないい男になったにも拘らず全く他人を見下したりするところがない。心は謙虚なままなの。」
先生は僕にどんどん近づいてくる。治っていた僕の頭の中のドキドキ音が急にまた激しく鳴り出した。
「もうこの国で勉強が出来ないことや友達と会えないことも辛いけど……あなたと離れることが一番辛いわ。」
先生の可愛い顔がどんどん近づいてくる! もう先生は目の前だ!
「ユージーン、あなたのこと好きよ、あたしも。」
「ほ、本当ですか!? 」
「嘘をつく必要なんかないでしょ? 」
「えっ、で、でも僕は年下だしまだ大学にも入れるか分からない半端者だしそれにえっと、えっと……。」
「そんなこと、どうでもいいのよ。」
先生がすっと目を閉じた。僕もつられるように目を閉じる。先生のいい匂いに包まれて僕は先生とキスをした。それは暗い別れの悲しさに満ちた僕の心の中に喜びと希望を感じさせる一筋の光線が差したことを思わすようなキスだった。




