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Cross Of Blue Iron  作者: 福山 サミー 大介
竜と巨人編
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ムカつくあいつ

「ユージーン坊っちゃま、もう八時ですよ、そろそろ学校へ行かないと遅刻しますよ! 」

「はーい、じゃあ行ってきます! 」


次の日の朝、僕はいつものようにワカバさんに起こされた後学校に出かけた。学校は家から五百m程のところにあって古い一階建ての木造校舎だ。勉強を教えてくれる先生は貴族の先生で通っているのも貴族の子供ばかり、農民の子供は一人もいない。僕はいつも歩いて通っているんだけど大概の他の貴族の子供は馬車で通っている。最近は貴族の子供が誘拐されて身代金を要求される事件も起きてるから危ないらしいんだけど「馬車はお金が掛かるからユーちゃんは頑張って歩いて通ってね! 」と母さんに笑顔で言われたことがある。うちは貴族といえどもその中ではまだ貧乏な方らしい。


「気を付けて下さいね! 勉強も頑張るんですよ! 」


家の門を出る時いつもワカバさんが後ろから手を振って見送ってくれる。ちょっと恥ずかしいんだよな。実際その様子を僕の家の周囲に住む人がジロジロ見ていることがよくある。そうやってジロジロ見ているのはだいたい農民の子供達だ。僕と歳が一緒ぐらいの子供が学校も行かずに親の畑作業を手伝っているのもよく目に入る。僕はその度に「勉強しろ! 」って言われなくていいなぁと思う。でもあんまり僕が見つめていると何故か睨まれたりして怖いから普段はあんまり見ないようにして学校まで走って行くようにしてるんだ。


「どけどけ! 危ないぞ! 」


走りだした僕の横を四頭の馬に引かれた派手な馬車が通り過ぎていった。その馬車はこの付近では大金持ちの貴族のタンケーダ家の馬車だ。そこの子供が僕と同い年でコイチって奴なんだけど僕は大嫌いだ。何事につけてもやたらと自慢してくるんだよな、コイチって。頭はいいし運動も出来るしそのくせ家も金持ちなんだけど性格が最悪で何でもネチネチと自慢してくるから顔を合わせるのも嫌なんだ。でもそういう奴に限ってよく学校で出くわしちゃう。そう思ってたらやっぱり学校の門のところで馬車から降りるコイチと目が合っちゃった。


「よお、ユージーン! 貧乏人は馬車にも乗れず大変だな? 」


さっそく嫌味が始まった。本当に鬱陶しい。でも気が弱い僕はやっぱり言い返せないんだよな。それにもし言い返してコイチと喧嘩でもしちゃったらコイチの親が僕の親に文句を言いそうだし。僕はコイチを無視して学校の門をくぐりそのまま校舎に入ろうとした。


「無視すんなよ、この貧乏人! 」

「う、うるさいな。 」


ちょっとムカッときたので僕は小さく一言言い返した。でもそれが精一杯だった。


「あん!? お前、今何て言った? コラ! 」


コイチと僕は体格はそんなに変わらない。逆に僕の方が背は165cmぐらいあるからちょっと高いぐらいだ。もし喧嘩になっても多分いい勝負をするんだろうけど……駄目だ! 勇気がない。僕は足早にその場を去った。


「ハハッ! この根性無しが! 」


コイチの嘲る声を背後に聞きつつ僕は教室にダッシュで入っていった。周りの生徒はそんな僕の姿を見てクスクス笑っている。くそ〜、情けない! でも歯向かう勇気がない。今日は朝からあんな奴に会ってしまうなんて本当に運が悪いよ、全く。



「おはよう、皆席に着け! 出席を取る。呼ばれたら返事をしろ! 」


教室に入って暫くすると先生がきて教壇に立ちそう言った。席に着いてない奴が慌てて座る。先生はヤンナギという名前の男の先生だ。黒縁の四角い眼鏡を掛け顔は油ぎり小太りで背は低くフリルのついた白いシャツを着ている。でもそのシャツがまた全然似合ってない!見た目がただのおっさんだからフリルのついたシャツなんか似合う筈がないのだ! でもたまに面白いことを言う先生で一部の生徒からは人気があった。でも僕はあんまり好きじゃない。


「よし、全員来てるな。結構だ。では授業の前にこの間のテストを返す! 名前を呼ばれたら教壇まで取りに来い! 」


クラス全員が「えー! 」と叫んだ。でもその中には顔がニヤけてる奴も一杯いる。嫌そうに叫びながらも本当は自信があるんだろうな、そういう奴は。


「コイチ! コイチ・タンケーダ、返事をしろ! 」

「はい! 」

「よくやったな、百点だ! 皆拍手! 」


クソ! あいつ百点なのかよ! ムカつく野郎だ。嫌だけど皆がするから一応拍手をする。その後も次々とクラスメイトの名前が呼ばれていった。そしてようやく僕の番がきた。


「ユージーン! ユージーン・マイヤー! 」

「は、はい。」


僕がテストを取りに行くと先生は苦虫を噛み潰したような顔をしている。なんなんだろう? やっぱり出来が悪かったのかな?


「次はちょっと気合入れないと駄目だな。頑張れよ。」


先生は皆に聞こえるような声で僕にそう言った。そんなことを皆の前で言うなよ! と内心怒りつつ僕はチラッとテストを見ると全身が凍りついたように感じた。えっ!? 三十二点? 嘘だろ!?


「マジかよ……」


そう一人言を言うと僕は力なく自分の席に向かった。先生の一言と落胆した様子を面白がって周りの悪友が三、四人僕が着席すると近寄ってきた。


「ユージーン、点数どうだったんだよ? 」


僕は格好悪くてとても皆にテストを見せることが出来なかった。僕はテストを鞄の底にしまいこんで絶対誰にもテストは見せないぞ! という姿勢を取ってから皆に正直に言った。


「悪かったよ、かなりね。だからあんまり触れないで。」


その様子を遠くからコイチがニヤニヤして見つめてやがる。くっそーっ! またあいつに馬鹿にされるネタが増えちまった、全く。



その日家に帰って父さんにテストを見せると僕は二時間説教を喰らった。しかも運が悪いことに父さんの後に兄さんまで説教をしてきて僕は結局合計三時間半にも及ぶ有難い御高説を聞かされる羽目になった。兄さんには「俺はこんな点数取ったことがない」とか「マイヤー家の恥だ」とかガンガン好きなように言われちゃうし……おそらく兄さんにはいいストレス発散になっただろうけどこっちはもううんざりだよ。しかも家庭教師は確定になっちゃったし……嫌だな〜。参ったよ、全く。

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