二人で晩餐!
コイチの事件の後学校は平穏を取り戻した。だがコイチはあれ以来学校には来ていない。
「もう既に転校したのだろう! 」
「いや、とんでもない仕返しを考えているんじゃないか? 」
「ただの引き篭もりになっちまったのさ! 」
等々学校では様々な噂が乱れ飛んだが結局真実は分からず数日が過ぎた。そしてその週の木曜日にあった近代史の試験も無事終わり遂に僕が待ちに待った金曜日がやってきた。僕は小洒落たジャケットを着ると家の奥の母さんの部屋にある大きな鏡の前で自分がどうしたら格好良く見えるかポーズを取って研究していた。今日はルカ先生と初めて二人きりで食事に行く日なのだ!
「今日はルカ先生とデートだったわね! ふふ、ユーちゃんがおめかしするなんて珍しいわね! 」
「うるさいな! 放っておいてよ! 」
僕はそういうと慌てて鏡の前から離れた。母さんにそんなところを見られるとは何たる不覚! 僕は真っ赤になって母さんの部屋を出るとダイニングルームを横切ろうとした。すると父さんが僕の知らない人と二人で椅子に座って話をしている。ダイニングルームの机の上にはヤコーさんが作ったであろう物凄く綺麗な刀が置いてあった。その刀自体も銀色に輝いているが所々に宝石が散りばめられていてそれらのキラキラも贅沢に光沢を放っている。
「これは見事な装飾が施されていますね! 素晴らしい! 」
「ありがとうございます。これが今回御注文を頂いたヘフナー王の一家に納める予定のものです。」
父さんは上機嫌でちょっと酔っ払っているらしい。机の上にはブランデーのグラスが二個置いてあり父さんは赤い顔をして喋り続けていた。
「これと同じものがあと2本必要でして。おそらく明日か明後日には工場で完成する予定です。」
「出来たものはどこで保管するのです? 」
「一階の奥にある部屋です。三本の刀が揃うのを楽しみにお待ち下さい。」
おそらくその人は刀の販売の仲介をしている人なのだろう。商品がどんな感じで仕上がっているかを確認しに来たのだ。
「おや、息子さんですか? どうもこんにちは。」
そう言って挨拶してくるその人は丸い眼鏡の奥に優しそうな瞳をもつ40歳ぐらいの痩せた男の人だった。白いワイシャツに緑のスラックスで壁には茶色のブレザーが掛けてある。僕も「こんにちは。」と挨拶をした。
「次男です。ユージーンと言います。ユージーン、こちらはマッケンジーさんだ。やり手の商売人だからお前も仲良くなっていた方がいいぞ、ハハハッ! 」
おそらくある程度商談がまとまったので二人はお酒を飲んでいるのだろう。話も盛り上がっているようで酔っ払いにこれ以上付き合うのも面倒臭い。僕は軽く会釈するとダイニングルームを出てそのまま玄関に到達した。すると今度はお手伝いのワカバさんが話し掛けてきた。
「ユージーン坊っちゃま、気をつけて行ってきて下さいね。あまり遅くなるとお母様がまた心配されますよ! 」
「うん、分かってるって! 」
僕はそう適当な返事をすると夕方のまだ明るい空の下玄関を飛び出した。ルカ先生が待っているのだ! 早く行かなきゃ!
「ユージーン、ごめんね! ちょっと遅くなっちゃって! 」
僕の住むクオーリーメン町の中心街の一角で僕はルカ先生と待ち合わせをした。約束の七時を五分程回った時にルカ先生は現れた。先生は白いミニのタイトスカートに青い七分袖のジャケットのような上着を羽織っている。いつ見ても綺麗だ。今日こそはルカ先生に僕の気持ちを伝えよう! そう意気込む僕であった。
「予約したステーキ屋さんはすぐそこよ。行きましょうか? 」
「はい! 」
そう言ってルカ先生の後を続いて歩くこと一分、辿り着いたのはキャバーンクラブという名前のステーキ屋さんだった。大通りをちょっと入ったところにあるこじんまりとしたお店できらびやかなネオンが灯っているわけでもなくどちらかというと地味な印象だ。僕は家族で外食をしたことはあるが家族以外の人と、しかも女性と二人きりでの外食は初めてなのでちょっと緊張しながらルカ先生に続いてお店の中に入った。
「いらっしゃいませ。あら、ルカちゃん! ふふっ、今日はいつものお友達とじゃないのね! さぁどうぞ! 」
出迎えてくれた店員は愛想の良いおばちゃんだった。赤いバンダナを頭に巻いて黒いエプロンをした痩せ型の背の低いそのおばちゃんとルカ先生は顔馴染みらしい。店の中は思ったより狭く僕らは奥の小さなテーブルに通された。
「先生はよくここに来るんですか? 」
席に着くと僕は先生にそう聞いた。先生はニコッとして言った。
「たまにね。ここは安くて美味しいのよ! 学校のゼミの友達と来たりするわね。」
「それって……男の人ですか? 」
僕は思い切ってそう聞いた。僕の真面目な顔を見るとルカ先生はちょっと驚いたような顔をしたがすぐに笑顔になって言った。
「あら、そんなこと聞いてくるんだ! ふふ、あたしのゼミは女の子しかいないわよ。安心して! 」
そう悪戯っぽく微笑むルカ先生を見て何故か僕は本当に安心してしまった。でも僕はその時気が付いた。僕は先生のことを何にも知らないってことに! ステーキのメニューを見ながら僕はルカ先生を質問責めにした。
「先生は確かプルーディンス王国から来てるんですよね? 」
「ええ、そうよ。」
「先生の家も貴族なんですか? 」
「あら、貴族の家出身じゃなかったらユージーンは相手にしてくれないの? 」
「い、いえ、そういう訳じゃないですけど……。」
僕が返事に詰まると先生は笑って言った。
「ふふ、一応貴族よ。でもあなたのお家程立派じゃないけどね。」
「何人家族なんですか? 」
「両親の他に兄貴が一人いるわ。軍人で堅物の兄貴がね。怒ったら怖いの! 」
ルカ先生でも怒ったらかなり怖いのにそのお兄さんとなるとそれはもっと怖いんだろうな。僕は思いつくことをどんどん質問した。
「先生は留学で来られてるんですよね? どこの大学なんです? 」
「あなたの志望校よ。じゃなきゃあなたの御両親はあたしを雇ってないわ。」
「何を勉強してるんですか? 」
「うーん、簡単に言うと女性の社会進出についてね。プルーディンス王国は女性が社会で働ける場が凄く少ないの。ヘフナー王国もそうだけどプルーディンス王国よりはまだマシって感じね。でも今では女性の社会進出をもっと進めようってことに耳を傾ける人も凄く増えているからあたしはこの国で学んだことを持ち帰って自分の国の女性の為に働くつもりよ。」
凄え! ルカ先生はそんなことを考えてるんだ! ほぼ自分のことしか考えていない僕とは大違いだ! 僕はルカ先生を尊敬の目で見つめた。するとルカ先生はまた笑って言った。
「ねぇ、ユージーン。そろそろ注文しない? 」
僕は思わず苦笑いしてしまった。




