モンスターペアレンツ
「えっ! コイチを殴ったって!? 」
昨日のコイチとの喧嘩の話を僕は登校時シゲに話した。するとシゲはかなり驚いた様子でそう大きな声を出した。
「あいつさ、パンチ一発喰らっただけでワンワン泣いてさ! 口ばっかりの弱っちい野郎だぜ! ハハッ! 」
僕がそう笑い飛ばすとシゲは心配そうな顔で僕の顔を覗き込んでいた。僕の話に普段なら同調してくれるシゲの反応がいつもとちょっと違ったので僕はシゲに聞いた。
「どうかした? 」
「あのコイチはキレるとヤバい奴らしいからな。お前、絶対仕返しされるぞ。」
「仕返し? あの弱腰野郎がリターンマッチを仕掛けてくるっていうのかい? 」
「いや、あいつはもっとややこしいことをしてくるんだよ。ほら、あいつの親って金持ちだろ? 」
「親の力を使って絡んでくるってこと? 」
「そう! あいつの親もかなりイカれてるらしいからな。子供とグルになって嫌がらせをしてきたりするって噂を聞いたことがある。」
「マジで!? 」
確かにあのクソコイチを育てたぐらいの親なのだから親もクソなのかもしれない。ちょっと面倒臭いことになりそうだ。僕は嫌な予感がした。すると学校に着いて間も無く僕のその予感は的中した。
「ユージーン、ちょっと来い。」
教室に着くなり僕はヤンナギ先生に呼ばれた。僕はピンときた。間違いなく昨日の喧嘩のことだろう。教室を見渡すとコイチは来ていないようだ。くそっ、親の力で裏から手を回してくるなんて汚い野郎だ! 僕は心配そうなシゲに見送られ教室を後にしてヤンナギ先生についていった。
「ヤンナギです。ユージーン・マイヤーを連れて来ました。」
「入り給え。」
そう言われてヤンナギ先生が僕を連れて扉を開けた部屋は校長室だった。中にはお洒落な四角いテーブルを中心としてその奥と手前にソファが二つずつ置いてある。手前の一つのソファに校長先生が座り奥の二つのソファには金ピカの装飾品をやたらと身体にまとった派手な中年の男女が座っていた。僕は直感的にこの二人をコイチの親だと思った。僕は校長先生の横に座らされた。
「ユージーン君、こちらの方々はコイチ君の御両親だ。」
やっぱりだ! わざわざ文句を言いに来やがったのか? コイチの父親の方は中年太りで金の指輪に金のネックレスを首からぶら下げ青みのかかったサングラスをしているスキンヘッド野郎だ。その姿はまさにチンピラだった。そして母親の方は父親に輪をかけたようなデブでやたらと大きな宝石を付けた指輪をいくつもしている厚化粧ババアだ。僕は一切目を見ることなく軽く会釈した。
「このガキでっか? うちのコイチをどついた奴っちゅうのは? 」
コイチの父親がまるで威嚇でもするかのようにそう校長先生に聞いた。校長先生はいつも七三にビッチリと分けている髪型が今日は崩れ顔色も良くない。校長先生は僕に向かって言った。
「ユージーン君、昨日の放課後コイチ君の顔を殴ったというのは本当かね? 」
やっぱりそのことを聞いてきたか! でもここで認めたらどうなってしまうだろう? 僕はこの二人にぶん殴られるのだろうか? そう思うと僕は怖気付いてしまい暫く黙っていた。するとコイチの母親が急に大声を上げた。
「うちのコーちゃんは昨日泣きながら家に帰ってきましたのですよ! 左頬を腫らして! 聞くとあなたに殴られたって言ってるんですのよ! 」
そう喚き散らして大騒ぎするコイチの母親の様子はまるで気でも違っているようで僕は更に恐怖を感じた。素直に認めればもっと激しく罵られるだろうし認めなければ嘘をつくことになって今後余計自分の立場を悪くしてしまうかもしれないし。僕はどうすれば良いのか分からず黙っていた。すると校長先生が額の汗をハンカチで拭いつつ伏し目がちに僕に言った。
「本当のことを言ってごらん。」
「……。」
「本当のことを早く言いなさい! 」
「……はい。僕が殴りました。」
僕は校長先生に促されてついに殴った事実を認めた。するとコイチの両親は急に立ち上がり激昂した。
「このガキャーッ! シバきまわしたろかっ! 」
「あなた! すぐにこの学校をお辞めなさい! そしてすぐに出ていきなさい! 」
大の大人に二人掛かりで悪口雑言を叫ばれて僕は為す術がなかった。変に言い訳をする勇気すら無かったがもしそんな言い訳じみたことを言おうものなら彼らは余計昂って僕を攻撃してきただろう。余りにも大人気ない彼らの態度は僕を心底震えさすには十分で僕は黙っていることしか出来なかった。
「ユージーン、何故殴った? 」
吠えまくるコイチの両親の前で俯いている僕に背後に立っていたヤンナギ先生がふとそう声を掛けてきた。それを聞いて一瞬コイチの両親が黙った瞬間にヤンナギ先生は質問を重ねた。
「ユージーン、殴ったのには何か理由があるんじゃあないのか? 」
それを聞いてコイチの両親はまた何かを叫ぼうとしたがヤンナギ先生は手でそれを制しつつ僕の横に立ち僕の返答を待った。周囲が一瞬シーンとする。これはヤンナギ先生が僕に出してくれた助け舟だ! そう思うと僕は恐怖と戦い俯いたままながらもハッキリと言った。
「……クラスメイトのミールさんにコイチ君が乱暴しようとしたからです。」
僕が言い終わるか終わらないかのうちにまたコイチの両親の攻撃が始まった。
「ワレコラ! 何を適当なこと言うとんのじゃ! 」
「ミールってうちの親戚のあのミールちゃん? そんなことある訳ございませんわ! うちのコイチとミールちゃんは仲良しですのよ! 何を出鱈目言っているんでしょう! この人は! 」
コイチの両親の攻撃は想像以上だった。僕は取り敢えず黙っていることしか出来なかったがヤンナギ先生が再び二人を手で制すると僕に聞いてきた。
「……本当か? ユージーン。」
僕は垂れていた頭を上げるとヤンナギ先生の目を見て大きな声で言った。恐いが真実を言わなければならないと直感的に思ったからだ。
「嘘じゃありません! クラスメイトも何人かその様子を見ていました! 」
また一瞬場が静かになった。だがコイチの両親は僕を睨み続けている。くそっ、負けてたまるか! 僕はコイチの両親を勇気を振り絞って睨み返した。すると今度はコイチの父親が大きな声を出した。
「てめぇの嘘はどうでもええんじゃ! 」
コイチの父親はそう言うと立ち上がり僕の胸ぐらを掴もうとした。すかさずヤンナギ先生がそれを止めに入る。金持ちで権力者でもあるのだろうけどその姿はとても紳士のものではない。恐怖に震えつつも僕はもし暴力を振るわれるようなことがあればすぐにやり返してやろうと拳を強く握りしめた。だがその時ヤンナギ先生がこう言った。
「タンケーダさん、このままでは真実は分かりません。ユージーン君が言っていることが嘘か本当か確かめたいと思います。」
するとコイチの父親はヤンナギ先生を睨みながら言った。
「どないするんじゃ!? 」
「証人を呼びます。」
ヤンナギ先生は静かにそう言った。




