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Cross Of Blue Iron  作者: 福山 サミー 大介
竜と巨人編
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幸福のステーキ

「お帰りなさいませ。奥様、ユージーン坊っちゃま、お疲れになったでしょう! 御馳走が出来ておりますよ! 」


ワカバさんのその声で僕は目を覚ました。どうやら馬車が家に着いたらしい。隣を見ると母さんも寝ていて今起きたようだ。僕は眠い目を擦りながら馬車の扉を開ける。すると家の方から物凄くいい匂いがしてきてお腹が急にグゥと鳴った。その時僕は初めて気がついたのだが今日一日僕は朝食のパン以外は何にも食べていないのだ。僕は馬車を降りながらワカバさんに言った。


「ワカバさん、お腹が空いて死にそうだよ! 」

「今日は坊っちゃまの大好きなステーキですわよ! でもその前にシャワーを浴びてきて下さいませ! 」


確かに僕は汗だくだ。かなり汗臭いだろう。このまま御飯を食べようとすれば僕は父さんに「ちゃんとしろ! 」って怒鳴られちゃう。腹が減って死にそうだったけれども僕はシャワー室に飛び込んだ。僕の家にはシャワー室が二つあるので母さんもどうやらもう一つのシャワー室に入ったらしい。空腹なことを除けば今日のシャワーはとっても気持ちが良いものだった。


「奥様、坊っちゃま、急いで下さい。旦那様がお待ちです。」

「はーい。」


僕はシャワーの水と石鹸で汗だけ流すとすぐに新しい服に着替えてダイニングテーブルに着席した。全員揃ったところで父さんがお祈りの言葉を唱え始めて皆がそれに続く。お祈りの言葉を唱えている間僕の鼻をステーキの匂いが強く刺激してきた。あ〜、ステーキが待ち遠しい、お腹空いたよぅ!


「では今日も神様に感謝して……頂きます。」

「頂きま〜す! 」


ようやくお祈りの言葉が終わった。その瞬間にワカバさんがジュージューと音を立てている分厚いステーキを運んでくる。僕は自分の目の前に運ばれてきたお肉を一切れナイフでカットすると口の中に放り込んだ。肉汁が口の中でとろける。美味いっ!


「で、今日はどうだったんだ? 」


父さんが早速射撃競技のことを聞いてきた。すると僕が口を開く前に母さんが言った。


「あなた、この子ったら優勝しちゃったのよ! 大逆転で! 」

「えっ!? 本当か? ユージーン! 」


父さんは物凄く驚いた顔でそう聞いてきた。おそらくそんな好成績を収めるなんて思ってもいなかったのだろう。僕は見返せたことがかなり嬉しかったが敢えて淡々と返事をした。


「うん、本当だよ。」

「凄かったのよ! 最初はボロボロだったけどどんどん追い上げていって! ラスト二発で逆転したのよね! 」


母さんはステーキを細かくカットしながら父さんに説明を始めた。次第に声が大きくなってくる。母さんはすこし興奮してきたようでその調子のまま続けた。


「逆転した瞬間はスタンディングオベーションよ! 母さん感激して泣いちゃったわ! ほら、この金メダル、見てよ! 」


母さんはそう言うといつの間にか僕の金メダルを手にしていて皆に見せていた。さすがに僕は照れて言った。


「母さん、ちょっと大袈裟だよ! 」

「何よ、本当のことなんだからいいじゃない! 」


母さんは金メダルを手に更にヒートアップしてきた。


「ルカ先生も大きな声を出して応援してくれていたのよ! あのクールなルカ先生も優勝の瞬間泣いちゃってたんだから! ユーちゃん、本当によく頑張ったわね! 」


するとそこへ突然僕のことは何かと貶したがる兄さんが口を挟んできた。


「でも所詮小さな大会なんだろ? 思い上がってんじゃねーぞ! 」


あ〜ぁ、いっつも兄さんはこうなんだよな。僕に良いことがあると必ずその話をぶち壊そうとする。そりゃ確かに射撃競技と言っても十五歳以下の部だからレベルはそんなに高くはないけどそんな言い方しなくてもいいじゃないか! それとも父さんや母さんが僕を褒めることに対して嫉妬してるのかな? でも普段は兄さんの方が僕より遥かに両親に褒められることが多いけど。兄さんの話に茶茶を入れようとすら思ったことのない僕に兄さんの言動は理解不能だった。


「こらっ! そんな風に言っちゃいかん! 」


すると兄さんには滅多に怒らない父さんがそう兄さんの言葉を遮るように言った。兄さんはまさかそんな言葉を父さんから掛けられると思っていなかったようで一瞬物凄く驚いた顔をした。そして顔を赤くして俯くともう僕の方は一切見ずステーキをガチャガチャと音を立てて切り始めた。


「音を立てるのはマナー違反よ! 静かに食べなさい! 」


兄さんは今度は母さんにまで怒られた。その様子を見ていると「ざまぁみやがれ! 」と思うよりも「なんでこの人は僕のことをここまで嫌うのだろう? 」と思って寂しい気持ちになった。兄さんにしてみれば自分より出来の悪い弟が褒められることは余程我慢出来ないことなのかな? 昔はもうちょっと仲が良かったのに。僕がそう思って黙っていると場が一瞬シーンとなったがその後父さんが僕に声を掛けてきた。


「良かったな、ユージーン。その金メダル、よく見せてくれ。それと母さん、今日は一杯飲もうか。ブランデーを出してくれ。」


父さんは嬉しいことがあると必ずブランデーを飲む。僕が優勝したことを喜んでくれているんだ。そう思うと僕も急に嬉しくなってきた。


「そういえばお父さんにも良いことがあったのよね! 」


ワカバさんがブランデーのボトルとグラスを運んでくる間に母さんがニッコリしながらそう言った。


「何それ? 」


僕がそう聞くと母さんはステーキの一片を口に入れようとする動作を中断して言った。


「ヘフナー王から刀の注文が入ったのよ。凄い金額でね! 」


母さんは悪戯っぽく笑ってそう言い終えるとステーキを頬張った。すると金メダルを眺めながら父さんが続けた。


「最近は徐々にだが売上が落ちてきているんだ。だがこれでかなり持ち直すな。」

「ふーん、そうなんだ。」


僕は今まで父さんの事業がどうなっているのかなんて全く知らず今日初めて売上が落ちているなんて話を聞いた。父さんの仕事が上手くいかなければ僕は射撃競技に参加することも出来ないしそれ以前に御飯を食べることすらも出来ないんだ、そう思うと僕は父さんの大変さをほんの少しだけ分かった気がした。僕はステーキをいつも以上に味わいながら食べた。

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